受託だけでは競争に勝てない
──どうして事業持ち株会社にこだわるのですか。それぞれの会社が強みを生かせばいいように思うのですが。 前西 いえ、こだわってませんよ。あくまでも議論を深く掘り下げていく一環です。グループの一体感をより高めるためにグループ5社の社長会を軸に運営していますが、これからは、さらに踏み込んで各社の役割や事業ポートフォリオを明確にする必要があると感じているのです。
例えば、株式上場会社だったアグレックスを今年3月、当社の100%子会社とし、親子上場をやめたのですが、この背景にはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に強いアグレックスに、グループ各社がもっているBPO事業を集約して、グループ全体のBPOビジネスを支える存在になってもらう狙いがあります。ほかにも製造業に強いクオリカにTISの組み込みソフト系の人材を異動させるなどグループ会社同士の重複を少なくしています。グループ全体で無駄なく競争力を高め、収益力の向上につなげていく考えです。
──情報サービス業界全体を俯瞰しますと、足下の事業環境は良好で、一部には人手不足からくるSEの人月単価の下げ止まりや上昇も起きている話も聞きます。 前西 数ある議論のなかには、景況感が良好なのだから、下手に事業ポートフォリオや組織をいじるより、稼げるときに稼ぐべきという意見もあるかもしれません。もちろん稼ぐ分には問題ありませんし、目の前にあるチャンスはどんどん掴むべきです。
ただ、情報サービスのビジネスは間違いなく大きく様変わりします。これまでのユーザーの要望に応じた課題解決型、つまり受託ソフト開発型のビジネスがなくなるとは考えていませんが、それだけではとても競争に勝てないでしょう。社長会の幹部らもこの点は一致しています。SIerの強みというのは、ユーザーに密着し、ユーザーの業務を知り尽くしていることです。であるならば、その強みをもっと生かしてユーザーの属する業界全体をカバーする“業界プラットフォーム”的なサービスも生み出しやすい。
SIerの事業規模で、いくらデータセンター(DC)に投資しても、AWS(Amazon Web Services)のようなクラウド専業ベンダーに価格や規模で勝てるとは思えません。しかし、世界大手のクラウドベンダーがユーザーに貼りついて、業種や業務に精通しているかといえば、そうではありませんよね。SIerの強みは、突き詰めると、やはりユーザーの業務に密着している点なのです。
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