先行投資の割合が増える
──業界プラットフォームとは、階層的にはクラウド基盤の上位に位置するサービスですね。 前西 冒頭で「次の成長につなげられるビジネスの萌芽」と申しましたけれど、インテックの地銀向けクラウドCRMサービス「F3(エフキューブ)」やTISのクレジットカードなどのリテール決済業務プラットフォーム「PAYCIERGE(ペイシェルジュ)」、クオリカの設備・機械の予防保全システム「CareQube(ケア・キューブ)」などは、特定の業界・業務に特化したサービスプラットフォームとして着実にシェアを伸ばしています。
地銀やカード、設備保守は、これまでのユーザーとの長いおつき合いのなかでノウハウを蓄積し、当社グループ独自のサービスとして再構成したタイプですが、一方で、IoT(Internet of Things)のように前例があまりない領域では、別のアプローチが求められます。例えば、クオリカは東京大学などとの産学連携を通じて、IoTを活用した林業の木材伐採現場で使うリアルタイム情報収集システムの実証実験に参加したり、インテックは三菱商事などとの共同事業体制を組んで建設業界向けクラウド型サービスを本格的に立ち上げようとしています。
──業界プラットフォームの開発、IoTの実証実験、共同事業への参画、どれも収益の柱に育つまでは、先行投資の色合いが濃い印象です。 前西 ポイントはそこだと思うのですよ。「お客さまがお望みの業務アプリケーションをつくります」「データセンターでサーバーを預かります」といった基礎的なビジネスが現在の収益の柱だとすれば、次は業界プラットフォームに代表されるような付加価値型の割合を高め、さらには自ら率先して新しい市場をつくり出せるようになるべきです。ユーザーの業種・業務と密着したSIerのポジションを堅持しつつ、国内外で新しい市場をつくる。必要に応じてさまざまな会社とエコシステムを形成するオープンイノベーションにも挑戦したい。ただ、これにはご指摘の通り、先行投資の割合が強くなります。
──どう対策しますか。 前西 まだ構想段階ですが、イメージとしては、識者の意見も採り入れながら、冷静に投資を見極める“投資委員会”のような独立組織を置いて、分析してもらいます。社長会や事業会社の勢いに任せて放漫な投資にならないようバランスをとる仕組みです。各社の事業ポートフォリオをしっかり組み立てながら、グループ一体となった戦略的な投資を成功させ、次の成長につなげていきます。

‘SIerの強みというのは、ユーザーに密着し、ユーザーの業務を知り尽くしていること。’<“KEY PERSON”の愛用品>文具好きなのはお見通し 顧客から贈られた文具が前西規夫氏のお気に入りだ。もともと文具にはこだわるほうで、何十回、何百回と客先に出向くうちに、「文具好きなのを気づいてもらえ、役員昇進のときに私の名前入りで贈ってくれた」と、うれしそうに話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
前西規夫社長がこだわったことの一つにグループのロゴ刷新が挙げられる。バラバラだった企業ロゴを昨年6月に統一。ビジュアル面でも一体感を強めた。販促用に用意したITHDのロゴ入り飲料水を来客にふるまい、その後、「飲み終わったロゴ入りペットボトルをリサイクルボックスに入れるのがためらわれて仕方がない」と、ITHDグループの旗印となった新ロゴへの思い入れの深さを滲ませる。
グループ約50社の事業会社は、製造や流通、金融などほぼすべての業種・業態でバランスよく顧客を抱えている。この多様性こそがグループの最大の強み。だからこそ前西社長は主要な事業会社トップとの集団経営体制の構築・強化に力を注いでいる。
今後は各社の事業ポートフォリオをより明確にし、必要ならば再編による最適化も検討する。かつては「寄せ集め」とも揶揄されることもあったITHDグループだが、前西社長の巧みな集団経営術によって筋肉質なトップSIerとしての地歩を一段と強く固めつつある。(寶)
プロフィール
前西 規夫
前西 規夫(まえにし のりお)
1949年、大阪府生まれ。72年、大阪大学基礎工学部卒業。同年、東洋情報システム(現TIS)入社。96年、取締役。01年、常務取締役。04年、代表取締役専務。08年、代表取締役副社長。10年、ITホールディングス(ITHD)副社長。13年6月、社長に就任。
会社紹介
ITホールディングス(ITHD)の2015年3月期の連結売上高は前年度比4.1%増の3610億円、営業利益は同8.3%増の211億円。国内はもちろん、中国・ASEANを中心としたアジア主要成長市場に事業会社を展開。主要5社を含めた約50社で独立系最大手のSIerグループを形成する。2018年3月期までの第3次中期経営計画では売上高4000億円、営業利益300億円を目指す。