かつては、NTTグループをはじめとする通信事業者向けのネットワーク構築が主力だったネットワンシステムズだが、近年はクラウド基盤の構築や、VDI、ビデオ会議を活用したワークスタイル改革ソリューションの売上比率が高まっている。ネットワークを知り尽くしたインテグレータは、現在のクラウド市場をどうみているのか。そして、次の成長戦略に掲げるIoTがユーザーに提供する価値とは何か。顧問・社長として同社を8年にわたり率いてきた吉野孝行氏に聞く。
「ネットワーク屋」がクラウドをつくる
──ネットワンシステムズに来られて、丸8年が経ちました。当時と現在を比較すると、事業環境はどのように変わりましたか。 8年前は、通信業界では固定系でNGNの大きな設備投資、それに続いてモバイルで4G/LTE投資がありました。これらがネットワンシステムズを大きく伸ばしたのは確かです。会社としては非常に助かりましたが、世界的にみると、日本の通信業界の設備投資額は売り上げに対し大きすぎた。当社の通信事業者向けの売り上げは下がっていますが、投資が抑制されているというより、適正な水準に落ち着いてきたということです。われわれとしては、通信事業者の投資に業績が大きく左右されるビジネスからは脱しなければいけない。
──通信業界では5Gに向けた準備が始まりますが、4G導入時のような需要は期待できないのでしょうか。 5Gに関しても取り組んでいますが、ネットワークのレイヤは統合されていく傾向にあり、製品そのものも統合化されていくので、今後は従来のように天井まで届くラックにぎっしり機器を詰め込む必要はない。重さも消費電力も当然少なくなる。あくまで感覚ですが、5Gネットワークは従来の3分の1くらいの予算で構築されるのではないかと思っています。
──そこで、通信業界の動きに依存しないクラウド基盤構築をもう一つの収益の柱にしていくということだと思いますが、クラウドの構築は多くのITベンダーが手がけています。ネットワンシステムズならではの、強みはどこにあるのでしょうか。 それは、われわれが「コンピュータ屋」ではなく、「ネットワーク屋」だというところにあります。例えば1か月といった単位で、ユーザーごと、アプリケーションごとにトラフィックをモニターし、曜日や時間帯に応じた増減を分析することで、各時間帯で必要なCPUやストレージの能力を算出できる。われわれもSDNでネットワーク管理の効率化に取り組んでいますが、クラウド基盤にお客様が求めるのは、ネットワークだけでなくCPUやストレージといったリソース管理も最適化することです。クラウドをアプリケーションの側だけからみていると、「パフォーマンスが足りなければCPUを追加する」というアプローチになるわけですが、それだとコストばかりかかって費用対効果はよくならない。われわれはネットワークという下側から、アプリケーションを見上げているので、全体最適化ができるのです。
[次のページ]