IoTは「つなぐ」ではなく「むすぶ」技術
──今後の成長のためのチャレンジ領域の一つにIoTを挙げられていますが、吉野さんの考えるIoTとは、どういう世界なのでしょうか。 2年半前、ネットワンシステムズは「つなぐ・むすぶ・かわる」というブランドスローガンを立てました。IoTでは、まさにこのシナリオでゴールに向けてつくり込んでいくことが必要なんです。
──スローガンの「つなぐ」と「むすぶ」は同じような意味に思えますが、どう違うのでしょうか。 「つなぐ」というのが物理的な接続のことならば、「むすぶ」のは人と人を結ぶことと考えています。言い換えると、つないだうえに感情が入っている。これがIoTになると、人とモノ、モノとモノを結ぶ形になっていく。機械やセンサを「つなぐ」だけなら、言い方は悪いですが、誰だってできます。収集したデータを何かの目的で解析・分析して、事業にフィードバックしなければ意味がない。ここで人間の意図、つまり感情が入ってくる。意図をもって「むすぶ」んです。
──具体的な情報システムにあてはめて考えると、どういうシナリオになるのでしょうか。 例えば、CAMシステムでは工作機械が製品の図面データをサーバーからダウンロードし、どの時間帯に何をつくったかをアップロードしています。これはあたりまえの話です。しかし、従来は独自のプロトコルで通信していて、インターネットには接続されていない。IoT化するにはどうすればいいか。機械を「つなぐ」だけならアダプタを開発すればいい。しかし、何のためにつなぐのか、という話になるわけです。
──何のために、という意図が入ることによって初めて、「むすぶ」の段階に達するということですね。 今までの「つなぐ」だけでも、製造ラインや工場ごとの効率改善はできているんです。しかし、それが「会社の改善」につながっているのか。ITによる生産効率改善、営業支援、それはもちろんけっこう。ただ、それらを経営層がどこまでみているのかという素朴な疑問があります。販売実績だけでなく、クラウド上の情報も含めたマーケットの動きと、製造・開発現場のデータがもっと密に連携できれば、生産手配を早めに打って納期を短縮し、機会損失もぐっと減らせるのではないですかと。これは一例で、IoTの正解なのかどうかはわかりません。製造業だけでも、家電と車と造船とでは違います。今は、ネットワーク屋の立場からみて、IoTではどのように「つなぐ・むすぶ・かわる」を実現すればいいのかなと、お客様とさまざまな実験をしているところです。
──IoTが目指す世界が実現すれば、経営そのものが「かわる」。そのための基盤を構築する事業は新たな収益源になりそうですが、自社の経営を変えていくことも課題と言えそうです。 ここ3年ほどで、われわれ自身はワークスタイル変革などを通じて「つなぐ」から「むすぶ」にシフトできたと思います。ただ残念ながら、本当に「かわる」というところにはまだ至っていない。表に向けても社内的にも、「かわる」という部分をどのように表現するのかがチャレンジです。「かわる」段階まで達することができれば、ビジネスとしても大きな成功を得られるでしょう。

‘つなぐだけなら誰でもできる そこに人の意図、感情が入らなければ意味がない’<“KEY PERSON”の愛用品>四散したのも吉相 毎日身に付けている虎目石のブレスレット。これが二代目。初代は、社長になって3回目の株主総会の日、ひもが切れてはじけ飛んでしまった。しかし、それ以来総会が著しく活気のあるものになったという。不思議な縁起物だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
同社が主力とする通信事業者、官公庁、大企業向けのインフラ構築は、日本市場ではメーカーやその傘下のSIerなどと競合することも多い領域だ。しかし吉野社長は、「垂直統合型のITベンダーが提供するサービスでは、以前データセンターと呼んでいた場所をクラウドと言い換えただけのケースも少なくない」と指摘する。ユーザーが求めるのは柔軟な利用環境、アプリケーションの選択権であり、クラウドの本来のメリットであるフレキシビリティを提供できるのがネットワンシステムズの強みと強調する。
吉野社長は話し始めたら止まらず、聞く人にも豪快な印象を与えるタイプ。しかしエンジニア出身とあって、話題がネットワークの将来像に移ると、数字やスペックも含め具体的な技術を絡めて議論を展開する。大局からディテールまで自分の言葉で語れる経営者の一人だ。(螺)
プロフィール
吉野 孝行
吉野 孝行(よしの たかゆき)
1951年、富山県出身。69年、日本電気エンジニアリング(現NECフィールディング)入社。73年、東京エレクトロン。98年、日本シスコシステムズ(現シスコシステムズ)に入社し、01年、同社取締役に就任。07年、ネットワンシステムズ入社、顧問に就任。08年6月より現職。
会社紹介
通信事業者や官公庁、大企業のネットワーク構築で多くの実績を有する大手NIer。2014年度の売り上げは約1431億円、連結従業員数は2374人(今年3月末)。近年はネットワークに加え、クラウド基盤構築事業にも注力。13年の本社移転にあわせて開始した、ICT活用によるワークスタイル改革の取り組みでも知られる。