中小・零細企業向け業務ソフト市場で圧倒的なシェアを誇る弥生は、昨年11月、オリックスグループの傘下に入ることを発表し、業界に衝撃を与えた。クラウドの波はスモールビジネス向けの業務ソフト市場にも到達し、業務ソフトメーカーが顧客に提供すべき価値も変わってきている。急成長するクラウドネイティブな新興ベンダーとの競争も激化しており、同社は大きな転換点を迎えているようにみえる。それでも、就任から7年半が経過した岡本浩一郎社長に浮き足立つ様子はない。
特需を煽らず、保守でストックを積み上げる
──今年も例年どおり、秋に弥生シリーズの最新版(弥生16シリーズ)をリリースされましたが、記者発表の場では、マイナンバー対応製品・サービスの説明に非常に多くの時間を割かれたのが印象的でした。やはり、直近の成長エンジンはマイナンバーということなのでしょうか。 それは少し違いますね。もちろん、マイナンバーへの対応は、お客様にとって非常に大きなチャレンジですので、われわれもそれをきちんと支えていかなければなりません。しかし、給与計算ソフトの特需を期待しているとか、ましてやそれを煽るというつもりはまったくありません。給与系の製品のお客様は、もともと保守サービスである「あんしん保守サポート」の加入率が高く、マイナンバー対応の製品やサービスは、このあんしん保守サポートの一環として提供しますから、売り上げの大きな増加要因にはならないんです。
──では、足下の成長を支えるものは? 直近の成長を支える商材として期待しているのは、あんしん保守サポートと、クラウドアプリケーションの「弥生オンライン」シリーズです。
──給与計算のユーザーは、保守契約率がもともと高いというお話でしたが、保守サービスでそれほど大きな成長が見込めますか。 あんしん保守サポートは、弥生給与のお客様の加入率こそ高いものの、もともと全体の加入率は3割~4割程度だったんです。一方で、一旦加入してくれた方の継続率は約9割と非常に高かった。定期的なバージョンアップやカスタマセンターのヘルプデスクはもちろん、最近ではデータのバックアップ・共有のためのクラウドサービス「弥生ドライブ」や、銀行明細、クレジットカード取引データなどを自動仕訳して弥生シリーズに取り込むなど、外部とのハブの機能を担う「YAYOI SMART CONNECT」もメニューに加えています。単にソフトを提供するだけでなく、お客様の業務や事業そのものを支えることを目指してサービスの内容を充実させてきましたので、利用してもらえさえすれば、もっと多くのお客様に価値を認めていただけると考えていました。そこで、3年前から初年度無償であんしん保守サポートを利用できるキャンペーンを始めたんです。これが功を奏して加入率は順調に上がっていますし、さらに伸ばします。
──ストックの売り上げを継続的に積み上げるということですね。 初年度無償にしても継続率は高いままで、有償になるタイミングで先行投資が実っていますから、手応えはあります。
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