顧客の価値になる事業をつくる
――社長に就任されてからの約2年半、どのようなことに力を入れてこられたのでしょうか。
これまでの経験のなかで勉強させてもらったところであり、僕の得意なところでもある「事業創出」に、かなり細かく取り組んできました。事業長と膝を突き合わせて、月に二回くらい、PDCAを回して、「この事業は本当にお客様、最終ユーザー様にメリットを与えられる事業なのか」と、議論を重ねてきました。
――その過程で、新しく立ち上げた事業などはありますか。
新しくつくったというよりは、統合したものがほとんどですね。当社はこれまで、非常に事業の数が多かったのですが、事業を立ち上げてから2、3年が経つと、市場の分析が甘く、本当に最終ユーザーのニーズを捉え、満足していただける仕組みが提供できているのか、という疑問が出てくる。ですから、よりお客様に対して価値を提供できるように事業を統合してきました。
そのなかで、少しみえてきたのが、電子マネー決済サービスなどを展開する「生活決済ソリューション事業」。また、精密機器のキッティングから配送までを一貫して行う「セットアップ・ロジソリューション事業」、これはスピード、コスト、品質においてお客様から非常に高い評価をいただいています。あとは、小売店などの出荷業務をウェブ上で一元管理できる産直出荷支援サービス「Web出荷コントロールサービス(産直)」などが調子よくきていますね。
――事業創出を得意にされているとのお話ですが、どのような取り組みをしているのでしょうか。
それには三つあります。一つは、「エリア戦略ミーティング」。各地方に地域統括というものがあり、そこに営業マンがいて、お客様と接点をもっている。彼ら自身で、お客様のその先のお客様を見据えて、そのお客様がどういうことをしてもらいたいのかというニーズを探してもらう。それをまとめてもらって、3か月に一度発表会を開く。そこから出たアイデアを大きくしていくというもの。
二つめは、「未来価値創造ミーティング」。これは、今ある11事業のなかからアイデアを4~5個程出してもらい、みんなで発表会を聞いて議論をして、深掘りしていく。
三つめは、個人を対象にした「ジャンプアップチャレンジプログラム」。「こういう事業をやりたい」という思いをもった個人がアイデアを役員の前で発表し、「おもしろい」となると、責任者として何人か部下をつけてやってみようというもので、これは新しく始めようとしています。
――これまでにも、社員から「何かやってみたい」というような声が聞こえてきたから、新たに始められたのですか?
というよりも、新事業の創出は挫折も多いですから、強い思いをもった人たちが集まらないと難しいと思うんです。そこで、そういう思いをもっている人を探そうということでジャンプアップチャレンジプログラムを始めました。すでにアイデアも少しずつ集まってきており、これからどんどん増えてくるでしょう。
――かなり積極的に取り組まれていますね。
これがメインの仕事という感じですね。
――年々、順調に売り上げを伸ばしてきていますが、理由はどこにあるのでしょうか。
事業ごとに明確な目標がきちんとあるからでしょう。それも、こちらから与えているのではなく、事業長にこれだけやりますという数字をあげてもらっているんですよ。数字に対しては責任をもたせながら、自由にやってもらっています。
他社と協業し、新技術を活用する
――今後はどのようなことを目指していきますか。
これまでのITは、いわゆる「守りのIT」と呼ばれるもので、どちらかというと生産性や品質の向上を図るものでした。しかし、これは間接的な事業成長にはなるかもしれませんが、直接的に事業を成長させるようなITではないんですね。そこで、新しい技術を活用し、本当に事業そのものの価値を高められるようなIT、ヤマトグループ各事業の真のお客様が使うITをつくっていきたいと思っています。
そのためには、「IoT」や「AI」といった最新の技術を活用していく必要がある。とはいっても、われわれがそこをつくるというのではなく、すでにそこに取り組んでいる企業とアライアンスを組むことで、当社の事業にセットしていきたいと考えています。
――実際に、他社とのアライアンスの話は進んでいるのですか。
かなり進んでいます。例えばNECさんとは、(NECの)画像認識の技術力が非常に高いので、当社のピッキング作業や梱包作業にその画像認識技術を活用することによって、業務の効率化を図ったり、ほかにもさまざまな事業で、画像認識の仕組みを使ってさらにサービスのレベルアップができないかなど、思考しています。
また、15年10月に立ち上げた「ICT戦略室」では、IoTの実用に向けて研究開発を行っており、いくつかが実証実験に入ることができました。3社が一緒になって技術革新に挑んでいるというケースもあります。
――すでにいろいろな方面で、アライアンスが進んでいますね。
もう一社で完結する時代ではないですよね。他社がもつ技術とつなぎ合わせて、一つのものにしていくという時代だと思います。
また、当社には宅急便を使ってくれる顧客や、およそ100万社の企業データをもつとともに、ドライバーが約4万5000人、グループ約20万人の社員がいて、最新技術を実験する場がいくらでもある。こうした場をもっていることが財産で、今後はロジスティクスに情報を活用して、何か事業になることを考えていきたいと思っています。
――最後に、今後の目標を教えてください。
19年に、ヤマトグループは創業100周年を迎えます。それに向けた11年からの長期計画では、「ホップ」「ステップ」ときて、今年からの3年間は「ジャンプ」する段階。いろいろなことに取り組みながら19年に向けてジャンプして、次の100年につなげていきたいですね。
もう一社で完結する時代ではないですよね。
他社がもつ技術とつなぎ合わせて、
一つのものにしていくという時代だと思います。 <“KEY PERSON”の愛用品>いいアイデアを書きとめる ヤマトシステム開発の社長に就任した際に購入した万年筆。ヤマトホールディングスの歴代会長がアイデアを万年筆で書きとめる姿にあこがれ、「いつかは自分も」と思ったという。「おもしろい」と感じたときに発動するアイテムだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビューのなかで、「最終ユーザー」「お客様のお客様」という言葉が度々、星野社長の口から出た。その背景には、エンドユーザーが求める仕組みを提供できるなら、顧客が自然とその仕組みを求めてくれるという考えが根底にある。「実際にご利用される方、購入される方の視点に立ち、そのまわりにいるさまざまな登場人物を精査して、すべてに対してウィンウィンになるような仕組みが一番いい」。経営戦略を学んだというヤマトロジスティクス時代に、通販会社をはじめとした顧客とのやりとりのなかで教え込まれたそうだ。
ヤマトシステム開発での事業展開でも同じ。同社の顧客の先にいる顧客、つまりエンドユーザーに本当に価値あるものを提供することを追求している。事業創出に長けた星野社長のもと、新技術を活用した新たなビジネスを推進していく。(宙)
プロフィール
星野芳彦
1955年生まれ。78年、日本大学商学部卒業後、ヤマトシステム開発に入社。ロジスティクス統括営業部長などを経て、2005年、ヤマトロジスティクスへ。同社では常務執行役員などを務める。14年4月、ヤマトシステム開発代表取締役社長執行役員のほか、ヤマトホールディングス執行役員、ヤマトWebソリューションズ取締役に就任。現在に至る。
会社紹介
ヤマト運輸(旧:大和運輸)のコンピュータ部門を分離するかたちで、1973年に設立したSIer。グループ外売り上げが全体の6割を占め、外販比率が高いことが特徴。2015年度の売り上げは759億4200万円。従業員数は3674人(16年3月現在)。