仕事の幅が広がる、内容も変わる
──フィールドでの観察眼を生かして新しい仕事をとってきたり、サービスをつくったりするには、技術者にも変化が求められそうです。
IoTなどに象徴されるように、社会全体のデジタライゼーションが急速に進んでいます。IT保守の仕事の幅はどんどん広がり、設備工事もDCや電算室周辺の領域から太陽光パネルや電気自動車(EV)用の充電スタンドに至るまで、仕事そのものの内容が大きく変わってきています。とはいえ、実際問題、これでもかというくらい効率化を推し進めていくうちに、だんだんと余裕がなくなってきてしまうのですね。私自身、全国の拠点を回って実感したことです。余裕がないところに仕事の幅を広げよとか、新しい仕事に取りかかれといってもうまくいきません。破綻を招くだけです。
余裕をつくるには、働き方を変えたり、業務プロセスを抜本的に見直したり、そうした取り組みが必要になってきます。地方拠点で勤務する技術者が本社経費を使って、都内にある技能開発訓練施設「テクニカルスキルデベロップメントセンタ(TDC)」で集中的に技能を身につけてもらうなどは行っていますが、働き方や業務プロセスの改革は、まだこれからの部分が多い。
──いま全国的に働き方改革が注目されていますが、御社ではどんなアイデアをおもちでしょうか。
これです! とは、まだはっきりいえない部分はあるのですが、例えば、拠点中心の働き方ですと、何をするのにも必ず一旦拠点に戻って作業をしなければなりません。当社の場合、部品交換や修理対応で顧客の資産を拠点に持ち帰るケースがあり、万が一紛失してしまったら大変ですので、作業車に保管庫のようなものを取り付けてセキュリティを強化し、いちいち拠点に戻ることなく柔軟に働けるようにするなどのアイデアが出ていますね。
他にも保守対象の一つであるATM(現金預け払い機)のセンサをビッグデータ解析して、使用頻度や設置場所の環境によって重点チェック項目を入れ替えたり、点検頻度を調節したりして、トータルで点検時間の節約につなげることも検討しています。実際、埃っぽい場所にあるATMと、そうでないところにあるATMでは損耗や故障頻度がかなり違うのですよ。
──業績面ではどうでしょうか。再編から向こう3年の見通しを教えください。
わかりやすい指標では、IoTやEVスタンド、例に挙げたBPO方式による資産管理サービスのような新規領域のビジネスを、直近の約35%から向こう3年で50%に高めたい。もちろん売上高も今年度(18年3月期)は310億円、19年3月期には321億円へと伸ばしていく計画を立てています。冒頭に触れたように従来型のIT保守や工事の縮小傾向が避けられないなか、技術者一人ひとりの創造力をフルに生かした新規領域をどれたけ伸ばせるかが勝負となります。
顧客接点が多ければ多いほど、気づくチャンスは増える。
このチャンスをどれだけつかむかが、今後の当社の変革の
スピードを大きく左右する。 <“KEY PERSON”の愛用品>鉛筆とタブレット端末のハイブリッド 業務上の書類の大半はタブレット端末でみているが、「経営の重要な数字だけは紙に印刷している」と話す。学生時代からの“鉛筆派”という山本氏は、鉛筆で数字をなぞることで集中力を高めているのかもしれない。

眼光紙背 ~取材を終えて~
IT系のフィールドサービスは、保守対象となるハードウェアの単価下落に追い打ちをかけるかたちで、クラウド移行による一部の保守対象が“消滅”。将来的に保守サービス・ネットワークの維持すら難しくなる危険性さえある。
日立システムズフィールドサービスも例外ではない。だからこそIT保守と設備工事を再編し、「顧客接点を起点とするビジネスモデルへの変革」を強力に推し進める。フィールドサービス会社にとって、顧客接点を新しいビジネスにつなげられるかが、腕のみせどころだ。そのための「体制づくりや人材の育成に邁進する」と、一連の改革はまだ道半ばだと山本社長は真摯に捉えている。
日立グループはエネルギーやアーバンなどの社会インフラ事業を手がけている。持ち前のITを活用し、なおかつフィールドサービスと相性がいい社会イノベーションとどこまで絡めていけるかも重要な要素となる。(寶)
プロフィール
山本義幸
(やまもと よしゆき)
1952年、山口県生まれ。74年、鳥取大学電気工学科卒業。同年、日立製作所入社。96年、ソフトウェア開発本部販売推進部長。2005年、日立電子サービス(現日立システムズ)常務取締役。12年、取締役専務執行役員。14年、日立システムズファシリティサービス社長。15年、日立システムズ・テクノサービス代表取締役(兼務)。17年4月1日、日立システムズフィールドサービス発足に伴い代表取締役取締役社長に就任。
会社紹介
日立システムズフィールドサービスは、2017年4月1日付でIT保守の日立システムズ・テクノサービスと設備工事の日立システムズファシリティサービスが再編して発足した。従業員数は約2050人。直近の年商規模は約290億円で、日立システムズグループの全国約300拠点の保守サービス網の主要部分の約100拠点を担っている。