5期連続の増収増益と絶好調のSCSKは、戦略的ITパートナーのポジションへの一段のシフトを旗印に、トップライン(売り上げ)を大きく伸ばそうとしている。同社がいう戦略的ITパートナーとは、SCSKのもてる力をフルに発揮して、顧客の売り上げや利益を伸ばす“成果”を追求していくものだ。谷原徹社長は、「AIだ、IoTだ、FinTechだと流行りの商材は、SIerにとって道具でしかない」と言い切る。あらゆる道具やもてるノウハウを駆使して顧客のビジネスを成長させることが「トップラインを伸ばす原動力になる」と捉えている。
自己採点は及第点ぎりぎりの70点
──旧住商情報システムと旧CSKの合併後、5期連続の増収増益と好調に推移しています。谷原さんは、2011年10月の合併当初から役員の一人として経営の指揮をとっていらっしゃいますね。
それぞれ生い立ちの異なる大手SIer同士が一緒になってもうまくいかないと、当時、一部でささやかれたことも知っていますが、まずはそうした懸念を払拭できたと思っています。これまでを総括するとすれば、旧両社がうまくお互いの顧客に向けてクロスセルを実行できたこと。旧CSKが財務的に毀損していた部分を補ってなおプラスに転じられる統合効果を出せたこと。そしてこの間に、大きな不採算案件を出さなかったことなどが、増収増益を続けてこられた主な要因です。
──谷原さんがトップに就任されてから1年半近くがたちます。まずは自己採点をお願いします。
月並みですが、経営トップとして舵取りするのは想像以上に重圧ですね。自己採点は及第点ぎりぎりの70点。これからはもっと大きくトップラインを伸ばしていかなければなりません。コスト面で抑制できるところは一定レベルまできましたので、ここでもう一段階、上のレベルを目指すには、従来の延長線上では難しいことも認識しています。
──トップラインを伸ばすには、どうしたらよいでしょうか。
いろいろ手は打っています。まず大きな柱の一つに「サービス提供型ビジネスへの一段のシフト」を掲げています。要は人月で商売する労働集約型ビジネスから、成果を追求するサービス提供型ビジネスへの転換です。二つめが「時代の変化を捉えた戦略的事業の推進」。そして三つめが「グローバル展開の一層の強化」で、これらは20年3月期までの5か年中期経営計画の柱でもあります。
戦略的事業の推進でわかりやすい取り組みが、自動車向けのベーシックソフトウェアの製品化です。広い意味での車載OSといわれている分野で、国際規格のAUTOSARに準拠した純国産品として、当社をはじめ組み込みソフトや車載ソフトに強いベンダーがアライアンスを組んで開発しています。国内では他にもAUTOSAR準拠の開発会社がありますが、当社は業界に先駆けて製品化にこぎ着けたこともあり、年内には本格的な受注、成約に至るものと手応えを感じています。車載以外にも流通やエネルギー、金融などさまざまな分野を戦略的投資の対象と位置づけ、将来の主力事業へと育てられるよう努めています。
もてる力をすべて出し尽くす
──サービス提供型ビジネスへのシフトについてはどうでしょう。労働集約型ビジネスから脱するというキーワードも、けっこう過激ですよね。
私は旧CSK時代の現場からの叩き上げですので、このあたりにはかなりこだわりがありますよ。脱労働集約型ビジネスとは、つまり、突き詰めれば顧客の売り上げや利益の増加にどれだけ貢献できて、顧客からどれだけ高い評価を得られるか、ということです。私はこれを顧客の「戦略的ITパートナー」になることだと捉えています。
「ソフトをたくさんつくって売り上げが立ちました」「いっぱい残業してそのコスト分を顧客に価格転嫁しました」では、顧客から評価されません。いま流行りのAI(人工知能)を導入したまではいいが、その予測範囲や精度が「これまでの分析ソフトと大して変わりませんでした」ではダメですよね。納品した側はそれで売り上げが立ちますが、顧客の課題を解決する、結果を出して顧客から評価される視点が欠落しています。
現場にいた頃、(売り上げや利益の)数字しかみない上司がいて、私はそういうタイプの上司が嫌いだった。もちろん、企業ですので売り上げや利益は大事ですよ。でも、数字だけでは「顧客からの評価」の視点が欠けている。
すなわち、顧客のビジネスにどれだけプラスになったか、どれだけ成果を出せたかという評価軸が大切なのです。私が上司になってからは、自分の部門や部下がどれだけ顧客のビジネスに対する成果を残せたかをとても重視してきました。社内的な数字なんてものは経理部に問い合わせれば、すぐに教えてくれますが、顧客からの本当の評価は、顧客のビジネスの中身に深く入り込まないとなかなかわかりませんし、やすやすと教えてもくれません。
──どうすれば顧客からの評価を高めることができますか。
近道はありませんよ。幸い、当社は組み込みソフトから基幹業務システム、アウトソーシングまでフルラインアップでIT商材をもっています。顧客の課題がわかったら、自分たちがもっている能力や商材のすべてを総当たりして最適な解決方法を導き出す。それでも足りなければ外部から調達する。一筋縄ではいかないから顧客はわれわれのような専門家のところにきているわけですので、こちらとしてももてる力をすべて出し尽くさなければ最高の成果にはつながらない。
一番やっちゃダメなのが、手元にある商材を深く考えずに客先にもって行ってしまうこと。AIだ、IoTだ、FinTechだと流行りの商材は、SIerにとって道具でしかありません。この道具を使って顧客の課題を解決して、顧客の売り上げや利益につなげる結果を出してこそ戦略的ITパートナーとして評価されるというものです。
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