安心感と低コストの両立で外資勢と戦う
──データセンター事業についても聞かせてください。ITインフラサービスはコモディティ化するばかりともいわれますが、先ほどもおっしゃったように、直近の御社の業績は順調にみえます。
高コスト体質を隠すために高付加価値を目指すというのが昨今のIT業界のよくある話ですよね。当社は、スケールメリットを生かして、たくさんのお客様に売るほど固定比率が下がることを常に目指している。値段の下げ圧力があったとしても、たくさんお客さんに売ればしっかり利益を出せる体質、原価構造をしっかり保っているので、それは大きな強みです。
──その強みをどうやって実現しているのでしょうか。
多くのデータセンター事業者は運用などを外注してしまいますし、基盤になるような仮想ソフトもライセンス料がかかる海外製のものを買ってくる場合が多い。一方、さくらはオープンソースをベースに基盤を自社開発するし、運用も自社内でやる。そうするとたくさんの社員を抱えないといけないわけで、SIとは違い、人数が増えても売上増に直結する類のものではなく、完全にこれは固定費になりますが、たくさん売れれば売れるほど利益率が上がる構造ができるわけです。売れなければ赤字ですけどね。そういうビジネスを21年間やってきたというのが他社との一番大きな違いでしょう。
この戦略は先行者利益があって、ある程度の顧客基盤をつくってしまって継続的に改善していけば、ビジネスモデルを模倣しにくいんです。一度使い始めたインフラを他社サービスに移すのは労力もコストもかかるので、そういう意味でも先に業界で力をもつことは大事です。
──外資系大手のIaaSベンダーなどとも十分に戦えているということでしょうか。
市場として、すべてを海外ベンダーに任せるということにはなり得ないでしょう。われわれはハウジングビジネスとか、物理サーバーのサービスまでもっていて、そこを強みとしているので、物理サーバーとクラウドの仮想サーバーをうまく併用できるということもあるし、国内に開発陣がいるので、クラウドの基盤に対する質問だったりディスカッションをお客様の目の前でできるということもある。ポイントは、外資勢と同じくらいのコスト感で代替となる提案ができて、かつ日本ならではの安心感があるということ。「安心感があるけど高い」では競争に耐えられないでしょう。
──外資勢に勝っている具体例はありますか。
いまものすごく成長している「高火力コンピューティング」は機械学習に適したGPUサーバーを時間貸しするサービスですが、これは物理サーバーで提供するので、お客様からは、AI基盤にはクラウドを使うよりも弊社の高火力のほうが相当安くて相当パワーが出ると評価していただいています。また、IoT用の通信環境とデータの保存や処理システムが一体型となった「IoTプラットフォーム」も、モバイルネットワークを使って非常に安価にクラウドにデータを吸い上げられる点が評価され、かなり伸びています。
AIスピーカーなどの流行には注目していて、スマートフォンが私たちの生活を変えたように、フロントエンドのデバイスのトレンドによって、インフラサービスに求められることも変わってきます。人に投資して幅広いレイヤの質の高いエンジニアを揃えている当社は、これからも違いを出していけると思っています。
従業員がやる気になることと、お客様の満足度が向上すること、
そして会社としての収益成長力が高まるという三点には
明確な相関関係があると思っていて、それを市場に示していきたい。
<“KEY PERSON”の愛用品>アップルのUXに脱帽
今年9月まで、モバイル端末はiPadとフィーチャーフォンの組み合わせだったが、ついにiPhoneを購入。iPadは発売当初から愛用している。「iPhoneとの組み合わせで、iPadがより便利になった。アップルのUX全体が魅力」だと実感している。


眼光紙背 ~取材を終えて~
さくらインターネットのここ数年の働き方改革について、「私の感覚では、あたりまえのことをあたりまえにやっているだけだが、実はそれができている会社が非常に少ない。人材採用の面でもそれが差異化ポイント」になったと振り返る。「人」こそが企業の成長を左右するという田中社長の話は、精神論ではなく、ロジカルに導き出した結論なのだと納得した。就職市場や転職市場では人気企業だという印象があったが、優秀な人材の獲得に向けた情熱と真剣さは想像以上のものがあった。
ビジネスは順調に成長しているようにみえるが、むしろこれから爆発的な成長の機会が訪れるとみている。「日本はオンプレミス比率が高いからビジネスチャンスが少ないという人もいるが、だからこそわれわれのようなサービスに移行してくる潜在的なニーズは大きいはず。インフラエンジニアも人不足が進む状態のなかで、われわれの非常にシンプルな、コストパフォーマンスのいいサービスがもっと市場から目を向けられる」と力強く言い切る。(霹)
プロフィール
田中邦裕
(たなか くにひろ)
1978年、大阪府生まれ。98年、国立舞鶴工業高等専門学校卒業。舞鶴高専在学中にさくらインターネットを創業し、共用レンタルサーバーサービス「さくらウェブ」を開始。99年、さくらインターネット株式会社を設立。20年以上にわたって同社事業を創業者としてけん引してきた。
会社紹介
データセンターサービス事業の国内大手。ハウジングやホスティングサービス(同社の場合、顧客ごとの専用物理サーバーの提供から仮想サーバーの提供まで、インターネット上でサーバーリソースを提供するサービス全般を指す)を提供。2011年11月、北海道石狩市に石狩データセンターを開設。近年、機械学習、データ解析向けのGPUサーバーレンタルサービス「高火力コンピューティング」や、IoTプラットフォームサービスなどの新たな商材も積極的に市場投入している。05年にマザーズ上場。15年1月、東証一部に市場変更。17年3月期の決算は、売上高139億6100万円、営業利益10億1800万円。18年3月期決算では、売上高193億円、営業利益10億5000万円を見込む。