二種類の“イネーブラー”という立ち位置
──日本市場のニーズについてはどう分析されていますか。
大きく三つあります。二つは日本独自のもの、一つは世界共通です。まず、お客様、パートナーの経営層、政府機関の方などに会ってみて感じたことですが、労働人口の減少への対応を非常に重視されていますね。テクノロジーを活用したイノベーションにより、ビジネスの自動化、標準化を進めることなどは、オラクルが大いにお手伝いできることだと感じました。
二つめは、多くの企業が、海外に進出して事業を成長させるための支援を求めているということです。アジア、北米だけでなく、多くのお客様から、私自身の欧州での経験を非常に積極的に質問されますし、欧州の各産業の状況なども聞かれます。日本の人口が減るということは国内でのビジネスの需要も減ることになるので、その部分を海外で補完しようというのは自然なことでしょう。
三つめは、世界中でみられる共通のニーズですが、IT投資における保守運用コストを削減して、その資金をイノベーションにすばやく投資したいという希望があります。
──そうした日本市場のニーズに、日本オラクルとしてどう応えていくことになるのでしょうか。
日本オラクルは、「データドリブン・イネーブラー(支援者)」「イノベーション・イネーブラー」という二つの要素をもつベンダーとしてビジネスをしていきます。データドリブン・イネーブラーの役割は、お客様がデータを中心に据えたビジネスを考えていくサポートをすることです。繰り返しますが、オラクルはDBのライセンスを売ることだけに注力しているわけではないんです。お客様が、既存のデータ、そして潜在的には外のデータも組み合わせながらインテリジェンスを生み出し、新しいビジネスモデルをつくり上げていく支援をしていくというのが、これからの日本オラクルの立ち位置です。
──イノベーション・イネーブラーはさらにその先の変革を支援するという感じでしょうか。
当社は、さまざまな先端技術を活用したイノベーションの領域でも、クラウドサービスとして道具箱のようなサービスを用意しています。例えば、IoTプラットフォーム、AI、ブロックチェーンなどのクラウドサービスを利用して、すぐにお客様のビジネスに役に立てていただくことができます。そうした価値を知っていただく努力もしていくということです。
──ただ、日本オラクルがハイタッチで直接コミュニケートできるユーザーに対してそうした役割を果たすことは可能でしょうが、パートナーエコシステム全体で意識を共有していくのは簡単ではないようにも思えます。
まずは市場全体に、オラクルの立ち位置を理解していただくことが重要だと思っています。SIerを中心としたパートナーにとっても、オラクルの新しいビジネスで得られる利益は大きく、未来は明るいはずです。ただし、従来のようにハードウェアやソフトウェアのライセンスを売るというリセラー型ではなく、もっとコンサル的な要素がある、統合型の実装サービスなどを提供できるようなプレイヤーに変わっていかなければならないパートナーがいることも確かです。
──日本オラクルの決算をみると、新規のソフトウェアライセンス販売は縮小し続けていますが、それは許容できますか。
もちろん、伸ばせるなら伸ばしたいですよ(笑)。しかしここには、お客様はこれからクラウドに投資していくというトレンドが反映されているわけで、日本オラクルもそこで成長しなければならないということです。
──DBを中心としたオラクル製品に関しては、率直にいって、「高い」「どんどん値上がりする」というイメージが根強いと思います。“脱オラクル”を言い出すユーザーもなかにはいますが、彼らに対してはどういうメッセージを送りますか?
その話はおもしろいですね。ここ最近、オラクルは価格を引き上げていません。むしろ、既存のお客様に対してさまざまな柔軟なプログラムを打ち出しています。シンプルな契約で、PaaSやIaaSのあらゆるサービスを無制限に使うことができる「ユニバーサル・クレジット」は他社にはないサービスですし、購入いただいたオンプレミスのライセンスをクラウドにもちこんでもらえる「Bring Your Own License」の適用範囲も、IaaSだけでなくPaaSまで拡大しています。結果的に、非常に魅力的な価格と柔軟な使い方を担保できているので、しっかりとPRしていきます。
──最後に、日本市場での目標を教えてください。
すべては顧客満足度の向上というところに集約されます。お客様がオラクルをベストのクラウドパートナーだとみてくだされば、数字は追いついてくると思っています。この6か月で、国内でも何百というPoCが生まれました。このPoCを成功に導くように、毎月のチェックと改善を繰り返していくのが当面の重要な施策です。PoCがうまく行けば、そこからビジネスの機会が生まれ、大きく育っていくのは、ドイツでも実証済みです。
DBを売ることだけに注力しているわけではないんです。お客様がデータからインテリジェンスを生み出し、
新しいビジネスモデルをつくり上げていく支援をしていくのが、日本オラクルの立ち位置です。
<“KEY PERSON”の愛用品>すべては音楽から始まった
iPhone Xをはじめ、iPad Pro、MacBook Airのアップル製品3種を、ビジネスでもプライベートでもフル活用。「すべては音楽から始まった」といい、6年前に8000枚のCDコレクションをすべてiTunesに入れたことで、離れられなくなったという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ノーネクタイで黒のシャツをスーツに合わせる、シックな着こなしが映える。社内では、さまざまな立場の従業員とフランクにコミュニケーションを取るタイプだという。ただし、今回のインタビューでは守りが堅かった印象だ。
米オラクルの総帥、ラリー・エリソン会長兼CTOは、クラウドビジネスのトップベンダーであるAWSを強く意識、というか、時に挑発するようなメッセージを、さまざまな機会をとらえて発信している。しかし、オラクルのクラウドビジネスにおけるプレゼンスは、まだまだAWSと並べて語るレベルにはないのが実情だ。オーバーマイヤーCEOは、日本市場でこれをどう乗り越えていくのか。具体的なプラン、構想は今回のインタビューでは引き出せなかったが、PoCやクラウドエキスパートの育成を重要視するといった発言から、ドイツでの成功体験が日本市場での施策のベースになっていることは推察できた。(霹)
プロフィール
フランク・オーバーマイヤー
(Frank Obermeier)
欧州でグローバル大手ITベンダーを中心にキャリアを積む。アバイアEMEA サービス カスタマーオペレーションディレクター、デル・セントラルヨーロッパ グローバルセグメントエリア・バイス・プレジデント、ヒューレット・パッカード・ドイツ ジェネラルマネジャー、同スイスCOO、米ヒューレット・パッカード ワールドワイド チャネル・セールス バイス・プレジデントなどを歴任し、2015年2月にオラクル・ドイツ入社。テクノロジー・セールス・ビジネス・ユニット バイス・プレジデントを務める。17年6月に日本オラクルの執行役CEO、8月から現職。
会社紹介
米オラクルの日本法人として1985年に設立。データベースソフトの販売と付随サービスを手がけてきたが、米オラクルの業容拡大に伴い、総合ITベンダーとして日本のIT市場でも成長してきた。2000年に東証1部上場。従業員数は16年5月末時点で2500人。17年5月期の売上高は1731億9000万円。