国際ビジネス特有の三層構造を打ち砕く
──コミュニケーション上のハードルの高さを指摘されていますが、外国企業と協業するときは、ある程度の障壁は避けられないように思います。大西さんご自身は、これまでどのような“障壁”を経験されましたか。
外資系コンサルティング会社のヘッドストロング(現ジェンパクトコンサルティング)で10年余り勤めていたときに、今のキャリアにつながる貴重な経験を積みました。今でも印象に残っているのは、某外資系通信会社が日本の通信会社を買収。日本市場へ進出するお手伝いをしたとき、国際間でのビジネスには、特有のノウハウが必要だと痛感しました。
砕けた言い方をすれば、外国人と、英語は達者だが業務を知らない日本人、業務をこなす日本人の三層構造になりがちで、そのまま放っておくと階層間の連携がとれず、会社組織が機能しなくなる恐れがあります。
通信会社なので国の規制に対応しなければなりません。業務担当の日本人はよく知っていますが、これを英語を通じて外国人幹部に理解してもらわなければならない。英語は理解できても、「なぜそうしなければならないのか」ということを理解し、腹落ちするとは限りません。コンサルタント時代は、客先に張りついて業務現場と外国人幹部との橋渡しに粉骨砕身しました。
──なるほど、この外資系通信会社の日本進出プロジェクトに参加したことが、国際間のビジネスを推進するうえで必要なノウハウを得るきっかけとなったわけですね。
そうです。どんな仕事でもそうかもしれませんが、自分のキャリアなかで転換点となるようなプロジェクトに巡り会えるかどうかは、大きな分かれ目になるでしょうね。もっと言えば、そうしたプロジェクトを自分の手でつかめるかどうかが大切だということなのかもしれません。
──同じインド系のSIerで、御社のライバルとなる日本タタ・コンサルタンシー・サービシズは、4年ほど前に三菱商事系のSIerを傘下に入れ、国内約2700人体制でビジネスをしています。御社の日本での将来像はどのようにイメージしておられますか。
当社グループの直近の売上高が1兆円余り。日本でのビジネスの成長がグローバルの成長に大きく貢献し、なおかつ日本の情報サービス市場で存在感をもつためには、少なくとも数千億円クラスの事業規模へ拡大しなければならないと考えています。NTTデータを除く国内SIerのトップグループは3000~4000億円くらいですので、このトップグループに入ることを常に意識しています。
既存事業の成長だけで到達するのは難しいものがありますので、国内SIerのM&Aと、その後のインフォシスとの組織的な統合プロセスをイメージしながらビジネスに取り組んでいく方針です。
いつまでもインドのリソースを活用しないというのは、
お互いにデメリットが大きいのではないでしょうか。
<“KEY PERSON”の愛用品>こだわりの万年筆とダイバーズウォッチ
細くて硬めのペン先が気に入っているプラチナ万年筆と、ロレックスのダイバーズウォッチ。ダイビング好きの大西氏いわく、「本格的な潜水用の時計だとゴツくなってしまうが、このタイプであれば、仕事のときでも使えるデザイン」と、お気に入りだ。

眼光紙背 ~取材を終えて~
「ビジネスのルールを変えるようなプロジェクトが人を育てる」と大西代表は話す。これからのITビジネスの流れを変えるという文脈で語るならば、AIやIoTに対応したデジタルプラットフォームへの移行が、これに該当する。
ビジネスのゲームチェンジになるようなプロジェクトこそが、日本でのビジネスの転換点になるともいえる。既存のITビジネスの延長線上では、人材も育たず、DXも起こせない。
インフォシスは欧米でのSI経験も豊富で、持ち前の数学力を生かしたAI開発でも先行する。発注者・受注者の関係ではなく、対等なITパートナーとしてゲームチェンジになるようなプロジェクトの獲得に邁進。日本とインドの異文化コミュニケーションの促進にも力を入れる。これまで日本とインドの間にあったみえない垣根を、より低くしていくことで、ビジネスを一段と活性化させる。(寶)
プロフィール
大西俊介
(おおにし しゅんすけ)
1962年、徳島県生まれ。86年、一橋大学経済学部卒業。同年、NTT入社。88年、NTTデータ。2001年、外資系コンサルティング会社ヘッドストロングなどを経て、13年、SAPに強いNTTデータグローバルソリューションズ代表取締役。17年1月1日、インフォシス日本代表に就任。
会社紹介
インドの大手SIerであるインフォシスの世界での連結売上高は、2017年3月期では前年度比約7.4%増の102億ドル(約1兆800億円)。18年3月期も6~7%程度の売上増を見込んでいる。世界の従業員数は約20万人で、うち国内は約300人。