第三次とされる現在のAIブームが続くなかで、確実に存在感を増してきているのが、エヌビディアだ。コンピュータグラフィックスのイメージが強かった同社だが、AI向けマシン「DGX」をリリースするなど、AI市場の拡大とともに、GPUの範囲を越えた事業を展開してきている。同社は、AIブームの現状とその先をどう捉えているのだろうか──。
AIの市場はまだ初期段階
──AIに欠かせないGPUを提供しているエヌビディアは、2016年度に37%、17年度には41%の成長を遂げました。AI市場の拡大が追い風になっているのだと思いますが、手ごたえはいかがでしょうか。
約40%の成長を続けていること自体、この業界では非常に稀だと思っています。5年前、GPUディープラーニングを使って解析をした時、2週間かかりました。今では30分以内で終わるほど、性能が何百倍も向上しました。このように急成長を遂げているGPUディープラーニングですが、まだ成長の過渡期、初期の段階です。GPUディープラーニングの奥は深くて成長の行き着くところは誰も予測ができません。
エヌビディアは最先端のテクノロジーを提供しています。ただ、最先端のテクノロジーはお客様がすぐに使えるものではありません。そういった意味では、今40%の伸びはものすごく健全な伸びだと思っています。GPUディープラーニングも、そしてGPUを提供しているエヌビディアも、これからさらに伸びていくでしょう。
──GPUはゲームなどのグラフィック分野でも使われていますが、今後はよりAIに注力していくということでしょうか?
わが社はビジュアリゼーションとAIコンピューティングの二つの分野に取り組んでいます。市場ではまったく異なる分野ですが、私たちのテクノロジーとしては同じものです。つまり、構造の部分、アーキテクチャを統一しています。また、アーキテクチャのハードウェアの部分だけではなく、ソフトウェアも統一しています。半導体メーカーではありますが、ソフトウェアも含めて開発しています。1万1000人の従業員の過半数はソフトウェアのエンジニアです。つまり、ハードウェア、ソフトウェアともアーキテクチャを統一し、一つの投資でゲームからスーパーコンピュータ、自動運転までスケールさせています。
アーキテクチャを統一させる利点はいくつかあります。一つの開発費でアーキテクチャをさまざまな領域にスケールできること。一つの技術でさまざまな産業にイノベーションを起こせること。また顧客や開発者、研究者の使う側のメリットもあります。アーキテクチャに合わせたソフトウェアの開発が一つの事業に絞られません。例えば、自動運転向けのコードを書いた人は、データセンター向けのコードも書けるし、ドローンでもロボットでも書くことができます。
最新の技術と環境を提供
──「DGX」というAI向けマシンを開発、提供していますが、エヌビディアのGPUを採用しているサーバーベンダーの競合となるのではないでしょうか。
自社開発製品もパートナー連携製品も、どちらも重要です。そもそもなぜ、自社でマシンを開発しているかといえば、システムの技術に精通したいからです。
私たちは最先端のものをつくっています。最先端のコンピューティング基盤をつくっていますが、それがどのように使われるべきか、十分に検証し、理解する必要があります。つまり、私たちの基盤に最適化されたシステムを開発する必要があったのです。そうして開発したDGXは、世界で一番高性能なスーパーコンピュータの一つです。
パートナーもDGXのシステムをみて、参考にされることがあります。市場を一緒に盛り上げるという目的がありますから、パートナーとギクシャクするどころか、よりパートナーシップが強くなるのを感じています。
例として、自動運転のテクノロジーをみていきましょう。他社の半導体メーカーであれば、半導体とドライバを提供し、この先の開発はパートナーにお任せするでしょう。ですが、私たちは、「NVIDIA DRIVE PX 2」というプラットフォームをつくり、さらにその上のアプリケーションの層までつくり上げています。自動運転は深い技術が必要で、お客様や開発者に最適なものを提供するためにはすべてのシステムを理解する必要があるからです。そのため、ドライバから一番上のアプリケーションまで自社で開発し、提供しています。ここまでできるメーカーはほかにはないと自負しています。
私たちのGPU基盤を使って開発している人たちに貢献するために最先端の技術を追求したい。そして使いこなしてほしい。そのためにソフトウェアも含めてシステムをつくり上げています。DGXも同様です。囲い込むようなクローズドのものではなく、いち早く最新のテクノロジーをお届けできるようにするためです。
──最先端の技術を提供するには、販売パートナーとの連携が必要不可欠となります。販売パートナー戦略を教えてください。
現在「NVIDIA パートナーネットワーク(NPN)」というパートナープログラムを実施しています。販売店、SIerなど約30社が登録し、日本市場に根ざした、ある意味泥臭いサポートをして市場を盛り上げています。パートナーによって、得意な市場、地域は異なりますので、個々の強みを結集させています。
──登録企業数が少ないようですが、今後伸ばしていくのでしょうか?
もちろんまだまだ増やしたいと思います。ですが、私たちの技術を理解し、使いこなすことも、それを説明することもとても難しいのです。それに対して十分に対応できるパートナーに登録してもらっています。
一般的なエコシステムの構築では、登録企業数にこだわるあまり、つながりが弱くなりがちです。私たちは、パートナーとのつながりの強さを求めています。エヌビディアもパートナーも一体となり市場に対応していくためです。これも当社のおもしろいところかもしれませんね。私たちの世界で最先端の技術を担っていただくためには、深い関係を築けるパートナーを増やしていきます。
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