富士フイルムホールディングス(HD)は今年1月に米ゼロックスの買収を発表。しかし、5月には米ゼロックスが富士ゼロックスとの経営統合を撤回すると発表した。さらに、富士ゼロックスと結んでいる営業地域の棲み分けを含む技術契約を更新しない方針を表明。富士ゼロックスと米ゼロックスの経営統合は暗礁に乗り上げてしまった。そのなかで、富士ゼロックスの玉井光一副社長が6月に社長に昇格した。新社長はこの局面をどう乗り越えるのか。
米ゼロックスにとっての最善とは
──これまでの米ゼロックスとの関係が変わろうとしていますが、どのようにお感じですか。
米ゼロックスと富士ゼロックスのパートナーシップは非常に重要で、それを維持し、深めていくことが両社にとってベストな選択肢だと考えています。とはいえ、これから先、どのようなシチュエーションになるかわかりません。不幸にも離れることになったとしても、今では製品技術の骨格はほぼ当社で開発していますので、十分対応ができると考えています。
──米ゼロックスは、営業地域の棲み分けを含む技術契約の更新をしない、アジア太平洋地域に直接進出する考えを示しています。その場合、どのような影響があるのでしょうか。
そもそも、米ゼロックスがアジアに直接進出する、という考えに疑問をもっています。当社はアジアの複合機市場でトップシェアを有していますが、この地位を築くまでに長い年月を費やしました。各国の販売店への働きかけやロビー活動など、さまざまなことに取り組み、そうしてこの地位を築いたわけです。米ゼロックスがアジアに新たに進出するということは、こうした基盤を一からつくり上げなければいけません。どういった試案で進めていくのか、こうしたことが不透明な状態です。
──米ゼロックスがアジアに進出した場合、富士ゼロックスが米ゼロックスの製品を販売できなくなることが予想されます。この影響は大きいのではありませんか。
現在、米ゼロックスが開発し、当社が輸入している製品はプロダクションプリンターと呼んでいる産業用プリンターの一部です。高速モデルのXerox iGenシリーズとモノクロモデルのNuveraシリーズの二つです。Xerox iGenシリーズは印刷速度が速いので上位モデルと位置づけられていましたが、最近の市場では上位モデルに印刷スピードだけではなく、クオリティも求められています。例えば、高級時計や高級車のパンフレットはクオリティが重要です。このクオリティを提供できるモデルとして、「Iridesse Production Press」を当社はもっています。
さらに、もう一つ当社が優位な点は、インクジェットシステムを保持していることです。米ゼロックスはインクジェットシステムを開発中ですが、当社はすでにインクジェットモデルを市場に投入しています。
契約更新をしない、といわれていますが、現在はまだ契約期間内ですので、すぐに米ゼロックスの製品を販売できなくなるわけではありません。相手のある話ですので、いつまでにどうするかを決める、ということはいえませんが、話し合いをしたいと考えています。
成長のスピードを速める取り組み
──成長戦略、構造改革のスピードを上げる、という目標を掲げましたが、どのような戦略を描いていますか。
複合機市場は、例年約2%減で推移しています。17年は約1%成長しましたが、これはたまたまでしょう。つまり、今後も伸びていくのは難しいと考えています。この成熟市場で成長していくためにはどうすべきか。まず、自分たちの運用スタイル、改善のスピードを上げていかないと競合他社に負けてしまいます。事業展開を速めていくことが重要になります。
──スピードアップはあらゆる業種、企業で課題となっています。具体的にどのように取り組まれるのでしょうか。
私はこれまでに三つの事業を担当した経験があり、その全てを短期間で成長させてきた実績があります。商品や競合する会社など市場が異なっても、プロセスは大きく変わりません。シンプルにいえば、少しでもいい商品を他社よりも早く出すことです。
そのためには、いくつかのポイントがあります。一つは、いい商品とはいえ、必ずしも飛び抜けてよい商品である必要はありません。時々、思いがけず素晴らしい商品が誕生することがありますが、それを生み出すのは非常に難しいのです。ですので、わずかな差でもいいので優れたところをもつ商品を他社よりも早く出すことがとても効果的です。
二つめは原価を抑えることです。部品のコストを抑えることができれば安くつくることができます。性能が高い商品をコストを抑えてつくる、この二律背反を実現するためには、設計が重要になります。性能を高めつつ、部品点数を減らすことができる設計であれば性能とコストを両立できます。
三つめは営業力です。当社の営業力は非常に強いと思っています。ここをさらに強化していきます。いい商品を安く売ることは誰でもできます。わずかに優れている商品を、他社よりも少しだけリーズナブルなコストでつくり、リーズナブルな価格で販売する。これが大事だと考えています。
性能をお客様によく理解していただくことも重要です。そのため、社長に就任してすぐに営業の前線に技術担当者を出すことを決めました。自分も技術者なのでわかるのですが、いつもモノと話をしているので、人と話すことが苦手な技術者もいます。なので技術者全員ではなく、ソリューションサービスをきちんと説明できる人材を営業に出せるよう、人事異動を行いました。
──他社よりも早く商品をつくるためには開発スピードが重要になります。技術者である玉井社長はこの課題をどのように解消しますか。
開発スピードを上げるにはリードタイム管理が重要です。開発はいつも問題が起こり、なかなか円滑に進まないものです。それでもスピードを上げるためには「決める」ことが必要です。
リードタイム管理には月次、週次、日次(ひつぎ)管理があります。トラブルが起こると私はすぐに日次管理に切り替えます。移動中でも進捗を確認し、それをもとに判断します。この決めるということが大事です。リードタイムで苦労されている方は、悶々としてなかなか決められないのではないでしょうか。悩んでいるうちに時間だけが経ってしまう。役職が上にいけばいくほど、速い決断が求められます。
また、サイクルは月次ではなく週次、もしくは日次の短いサイクルで回していきます。そうすることで開発も速まります。私が過去担当してきた事業も同じように回し、結果を出しました。この経験、ノウハウを富士ゼロックスでも発揮していきます。
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