ソフトバンクグループは本体が投資会社としての側面を強め、各分野のトップ企業、有望企業に投資をしつつ、資本関係を持つグループ企業同士のシナジーにより持続的な成長を図る「群戦略」を志向している。ソフトバンクの創業事業であるIT流通を担うソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンクC&S)は、その中でどんな役割を果たし、どのように成長の青写真を描くのか。
4年間で事業の構造改革に成功した
――ソフトバンクC&S発足から4年あまりが経過しました。
おかげさまで業績はずっと増収増益で、今期もそうなるかは言えませんけど、ソフトバンクC&Sとして独立する前からカウントすると7期連続で増益を続けています。特に法人マーケットが非常に堅調で、そこが支えているという部分もあるんですが、それ以上に当社の事業モデルというか、ストラクチャーが変わってきたことが結果に表れているのが嬉しいところですね。
――事業の構造が具体的にどう変わってきたのでしょうか。
例えばコンシューマーで言うと、自社製品の比率が非常に上がってきたということがありますし、エンタープライズの方でずっと号令をかけていたのは、ストックビジネスの比率を高めたいということです。クラウド、保守サービス、通信といったストック型のビジネスが全社の売り上げを下支えするようになって、事業モデルが安定してきているという手応えがあります。
――売り上げ全体に占めるストックビジネスの比率はどれくらいですか。
会社全体では3割くらいですね。ディストリビューターでありながら3割というのはかなり高い比率だと思います。
――市場がクラウドを受け入れ、求め始めていることもあるでしょうが、ストックビジネスにシフトすると目先の売り上げは下がりますよね。10年来指摘されているこの課題をいまだに乗り越えられていないベンダーも多い印象です。
当社のストックビジネス比率を高める取り組みは、クラウドが一般化した最近から始めたことではないんです。それこそリーマンショックで大変だった時期とも重なる10年くらい前、流通の事業が苦しかった時から、次の事業にどう展開していこうかと考えていたんです。
ポイントは三つで、一つは事業領域をどこに持っていくか。それまではPCの周辺で食べていたわけですが、当時、モバイルの事業が出てきた。今ではIoTやAIのマーケットも出てきていますが、こうした新しい領域にいち早く手をつけて成長を図っていくべきだと考えました。あとの二つは事業のモデルをどう変えていくかということなんですが、まず、ディストリビューターだけでなくメーカーとしての機能も持たせていくことにしました。リスクもありますが、利益率が高くなりますからね。そして三つめが、ストックビジネスの推進です。ソフトウェアの流通でナンバーワンをうたっていましたが、この事業自体が大きく変化していくことは見えていましたから、それをなるべく早く先取りしたいと考えていました。
もちろん、一朝一夕に変わるわけではないのですが、10年かけてやっと体質が変わってきたということですね。
――ただ、結果を出すにはリセラーパートナーにも同様に変化してもらう必要がありますよね。
当社のビジネスはパートナーあってのビジネスなので、パートナーに元気でいてもらわないといけない。そのためにも、早く変わっていきましょうよというお話は何年も前からしてきているんですが、やはり壁があってなかなかブレークスルーしなかった。その最たるものがクラウドです。
――時間がかかって、最後になった。
そう。通信サービスや保守・サポートなどのビジネスは着実に増えていたんですが、クラウドはだいぶ時間がかかりましたね。ここ2年くらいでマイクロソフトの「Office 365」の普及が大きな契機になって成長したイメージです。ストック化という意味では、アドビシステムズの「Creative Cloud」などが先駆けになりました。ただ、そこの事業は売り上げが一時的に半分になりましたから、大変ではありましたね。
――変革のための痛みはあったわけですね。
当社は規模がものをいうディストリビューターという業態ではありますが、売上高の絶対値を追い求めてきたということではないんですけれどもね。
法人向けIT市場は当面拡大し続ける
――いわゆるデジタルビジネスの拡大などで法人向けIT産業は市場そのものが拡大基調にありますが、それは実感されていますか。
実際にいま一番ビジネスとして活発なのは「Windows 7」や「Windows Server」のリプレースなんでしょうけど、新しいプロダクトラインもかなり出てきていて、それはひしひしと感じていますね。仮想化、セキュリティーなどさまざまな分野で新しい製品群が出てきています。
データ量がものすごく増えていますからね。端末もPCだけでなくスマートフォン、タブレットが出てきて、さらにこれからIoT機器がネットワークでつながる世界になる。データはさらに増えて、それを貯めるのをどうする、分析するのをどうするという話に当然なる。また、ITを使う領域も、バックオフィスだけでなく、AIやIoTを活用したソリューションはユーザーのビジネスそのものを再定義するポテンシャルを持っている。法人向けITは当面拡大し続けるでしょうし、これからが今までよりももっともっと楽しいですよ。
――ソフトバンクC&Sも最近の動きを見るとそういう市場の方向性を意識されている印象はありますね。
先日も、米国のDynamicsという会社との(ソフトバンクも含む三社での)包括的協業を発表しました。これは通信チップとSIMを入れてディスプレーまで付けた次世代クレジットカードを国内やアジアに展開していこうという話なんですが、これも一種のIoTプロダクトなんですよね。これはユーザーにとっても今までのITの周辺機器とは全然違う意味を持つ製品なわけで、そこまでラインアップは広がってきています。
また、中国Tuya Globalと協業し、家電製品のIoT化に必要な通信モジュール、クラウド環境、スマートフォンアプリの開発環境をワンストップで提供するソリューション「Tuya Smart」も国内でローンチしました。ちょっと前は家電製品にかかわるプロダクトを手掛けるなんて考えられませんでしたが、IoTの流れで市場が変わったわけで、われわれのビジネスも本当に面白くなってきたと思っています。
[次のページ]メーカー機能を持つことの強みを生かす