PC事業や携帯電話事業の売却、半導体事業の切り離しなど、大規模な構造改革を実施してきたNEC。2018年も国内にある9カ所の生産拠点の見直しや、間接部門、ハードウェア事業領域の3000人の削減、そして19年4月1日付で照明事業を譲渡することを明らかにしている。新規事業を経営の柱としているが、その将来性、成長までのプロセスを新野社長はどう構想しているのだろうか。
構造改革に注力した18年度
――2020中期経営計画の1年目がまもなく終わります。率直に手応えはいかがですか。
ほぼ予定通りに進んでいます。エンタープライズ領域は人手が足りないほど活況でした。流通、製造、金融とあらゆる業種で、AI、IoTなどの新しい技術を使った案件やセキュリティー対策などの案件が増加しています。
社会基盤の領域でも大きな売り上げが出ています。公共自治体の分野は、17年度は指名停止の影響がありましたが、18年度はそれが解けて順調に伸びています。全体的に全ての業種が着実に伸びています。
次の中核を担う海外事業は現在投資の段階です。それでも上期のセーフティの分野は、いい成績を収めることができ、海外ビジネスの先が見えてきました。英国のITサービス企業Northgate Public Services社を買収した効果も出ています。ほぼ予定通りに達成できました。
――中期経営計画の収益改善の改革として、生産拠点の見直し、人員の削減、さらには18年末に照明事業の譲渡も発表されました。ハードウェアの領域を今後も縮小し、撤退する考えなのでしょうか。
今取り組んでいる構造改革は、人を減らすことが目的ではありません。先ほども申し上げましたが、今も、そしてこれからも人手が足りなくなることは目に見えています。特に、成長領域の人員を厚くしたいと考えており、そのために、縮小する事業から成長事業への人のシフトを15年度から進めてきました。ですが、スキルマッチの問題があります。成長事業に必要なスキルを持っていなくても、外部でスキルを生かせるケースもあります。そうした方には、外部の部署を斡旋したほうが社員にとっても会社にとってもいいと考えました。それが人員の削減です。
照明事業は、一時期は好調でしたがその後、事業全体がシュリンクしてしまいました。何度が構造改革を行い、それとともに事業をお渡しできる相手をずっと探していました。今回、やっとお譲りできる相手が見つかりましたので、これを機に外部化することを決定しました。照明事業の譲渡は突然決めたのではなく、以前から検討してきた事案です。
ハードウェア事業の縮小が続いているので、ハードウェア事業から撤退すると思われるかもしれませんが、そうではありません。NECの特徴を生かせる領域に注力しているのです。ハードウェアでもNECの特徴を出せる領域はあります。それはIoTやエッジ、それに「SX-Aurora TSUBASA」というスーパーコンピューターの領域です。さらに量子コンピューターも考えています。
――事業のスリム化はほぼ成功したと思います。構造改革の次のフェーズはより筋肉質にすることだと思いますが、どのように取り組む予定ですか。
その通りで、そぎ落とすだけでは不十分だと考えています。NECはこれまで何度も構造改革に着手してきました。一時的に改善しましたが、また元に戻る、ということを過去何度か繰り返してきました。それは本質を変えなかったからです。
筋肉質な経営体質になるために、まず今あるプロセスを根本的に見直していきます。例えば、NECは内部工数が非常に多く、これが大きな問題だと認識しています。そのために文化から変えようと「Project RISE」を立ち上げました。そこでは三つの改革を進めます。先ほども申し上げた内部工数の削減と、従業員の満足度の向上、お客様に取引先ではなく、パートナーと思っていただけるようにすることです。この三つの実現のために、何をするのかを決めて、まさに今、始めようとしています。やらなければならないことは見えてきました。あとはやり切っていくだけです。
サムスンと手を組み5G事業を強化
――19年は5Gの時代が到来します。グローバルの5G基地局ビジネス強化のため、サムスン電子と提携しました。ですが、サムスンの基地局のシェアはそれほど高くありません。パートナーとしてサムスンを選んだ理由を教えてください。
これまでNECの基地局ビジネスは、3Gも4Gもほぼ国内だけでした。これからの5Gの時代には海外に出て行かないといけないと考えています。そのためにはグローバルで展開している企業とのパートナー関係が必要になります。
ご指摘の通り、サムスンの4Gまでのグローバルシェアは決して高くありません。ですが5Gの領域ではサムスンが一歩進んでいます。例えば、平昌五輪で韓国キャリアとともに5Gのテストサービスを提供しました。米国の大手通信キャリアとも5G関連で一緒に取り組んでいます。また、端末を持っていることも強みになります。5Gの世界でどういう価値を出していけるか、基地局から端末まで一気通貫で考えることができるからです。
NECと良い補完関係を築ける点も理由の一つです。NECからはセキュリティー、アプリケーション、またNECの子会社であるネットクラッカーが持っている通信キャリア向けの統合運用支援ソリューション「TOMS」などをサムスンに提供できます。5Gの世界でアプリケーションまで考え、一体となって提供できるほうが競争力の強化になります。5Gの世界では、開発しないといけない案件が非常に多く出てきますが、サムスンが開発したものを使うことで開発費を抑えることができますし、特徴を生かせる分野の開発に注力でき、開発スピードを上げることもできます。非常にいい相手だと確信しています。
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