グループ会社が
おのおので強みを発揮する
――田中達也前社長は昨年10月、一部の主要子会社の社長を富士通本体の役員が兼務し、グループのガバナンスを強化するという経営方針を発表していました。この方針は継続なのでしょうか、それとも一旦見直しというところでしょうか。
経営方針と呼ぶべきものか分かりませんが、富士通本体とグループ会社との一体感を醸成する、ベクトルを合わせるための施策としては有効にはたらいた面もあると思います。例えば、富士通研究所は研究成果を事業につなげるまでに時間がかかっていましたが、そのような課題もスピード感をもって是正できたと思います。ただ、各社がそれぞれの強さを生かせるのであれば、あまりにも本体が口を出しては事業のスピードが落ちてしまいますし、そもそも何のために会社を分けているのかということになるので、それはよくないと考えています。
――富士通自身がサービスに重点を置く方針を明確化したことで、富士通製品を活用してビジネスを展開していたパートナーの存在感が最近はやや薄れているようにも感じます。パートナー支援の考え方を教えてください。
グローバルに多くのパートナーがいるわけですが、コモディティ化の流れの中で、PCやサーバーのリセールを通じてお互いに収益を得ていた時代からは完全に変わってしまいました。その意味では、新たな価値を生むというモデルに富士通自身が変わっていくし、一緒に変わっていきましょうとお声がけしています。特に国内には、地域に根付いたパートナーの方々が大勢おられて、このパートナー網は富士通にとっての非常に大きなアドバンテージです。当社から提供するのが「物」だけではなく、無形の何かになるのかもしれませんが、DXの世界でパートナーと一緒に勝ち残っていくことが、地域に貢献するということになると考えています。
富士通グループ内では、このような日本のマーケットに根付いた会社であり、パートナーとのつながりが一番強いのが、富士通マーケティングです。本体と富士通マーケティングの両方にパートナー支援の機能をもっていますが、皆様にとって分かりやすい形に変えていく必要があれば、検討していきたいと思います。パートナーからの「DX時代、富士通はもっとこうしてくれよ」という要望は多いです。お叱りも含め、お声を寄せていただきたいと考えています。
――海外事業の好転に時間がかかっています。これまでうまくいかなかったのは、海外売上比率を高めることがKPIとして優先され、収益性がないがしろになっていたということでしょうか。
KPIをうまく設定すれば、あとは現地に任せておけば伸びるという話ではないと考えています。極めて基本的なことではありますが、常に本社と各地域の方向性を合わせながら、きちんと状況を把握し、変化を早く見つけて手を打つということだと思います。私もロンドンにいたときによく分かったのですが、現地の人間にとって大事なのは、本社からきちんとメッセージが出て、方向が定まること、支援が得られること。自分が富士通の一員であると実感できることなんですね。これまで、物理的な距離がコミュニケーションの距離になっていたということは否めません。ハードウェアを起点にしたビジネスではなく、価値やサービスを起点にしたビジネスに変わる。グローバルでは、そのスタート地点に少しでも早く立つことが最優先です。
――富士通自身がDXを推進するにあたり、自社が過去にやってきたことを否定する場面にも出くわすのではないでしょうか。新旧のビジネスで軋轢が生じる恐れはありませんか。
イノベーションが起きるときに、衝突が発生しないということはあり得ないと思います。私自身、現場のSEでしたから、今ではレガシーと批判されている、このままいくと「崖に落ちる」と言われるようなシステムを作った責任があります。
そういうシステムも、当時はそれなりの自負をもって作ってきたものであり、信頼性の高い素晴らしいものを作ってきたという誇りをもつ人間は社内にたくさんいます。しかし、このまま変えないでいたら、お客様の持続的な成長に向けて貢献できるのか。社会の課題解決につながるのか。変革は過去の否定ではなく、そういう視点で物事を考える会社にシフトしていくんだという、意思の共有だと思います。
Favorite Goods
多忙な日々の中、新幹線や飛行機での移動は、音楽や映画を鑑賞しながらリラックスできる貴重な時間だ。出張に欠かさず持ち歩いているのが、高級オーディオブランド・バング&オルフセンのノイズキャンセリングヘッドフォン。音質や装着感はもちろん、デザインの美しさもお気に入りのポイントという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「物申す」のか「寄り添う」のか
「パワフルな人物。何があっても動じることがない」。社長指名会見で、田中達也前社長からこのように紹介された時田隆仁社長。メガバンクの勘定系システムを含む大規模案件で大勢のSEを率い、トラブルに直面しても着実に乗り越えてきた粘り強さが評価された。
しかし、デジタル変革の支援は、顧客に言われた通りシステムを作る仕事とは違う。顧客がAという技術の導入に前のめりであったとしても、技術Bで実装すべきと考えられることもある。「そんなとき、ITのスペシャリストの視点でお客様に物申せるか。これはもう長年の課題です」(時田社長)。要求を待つ姿勢でいる限り、顧客の変革を実現することはできない。
「顧客に物申す」に対して、日本のITベンダーが好んで使う言葉が「顧客に寄り添う」。しかし、これらは決して対義語ではない。時田社長は「物申すというのは、拒絶ではない。向かうべき方向をまず示し、お客様と話をしながら、スピード感をもってそれを直していくこと」と説明。顧客に真に寄り添っているからこそ、顧客のために物申すことができる。富士通は「顧客との強固な関係」を強みとするが、その関係が本物かどうかが、DX時代には試される。
プロフィール
時田隆仁
(ときた たかひと)
1962年、東京都生まれ。1988年、東京工業大学工学部卒業後、富士通に入社。システムエンジニアとして金融系のプロジェクトに数多く携わり、2014年に金融システム事業本部長に就任。15年に執行役員、17年にグローバルデリバリーグループ副グループ長、19年1月に常務・グローバルデリバリーグループ長に就任。3月、田中達也前社長の後任に指名され、6月から現職を務める。10月からは新設のCDXO(チーフDXオフィサー)職を兼務。
会社紹介
1935年、富士電機製造(現・富士電機)の通信機器部門を分離して設立。60年代からコンピューターの製造を本格化し、日本を代表する電機メーカー、ITベンダーに成長した。近年では製品の製造・販売からシステム構築等のサービスへのシフトを進めている。2018年度の連結売上高は3兆9524億円、従業員数は約13万2000人(2019年3月末現在)。