日立製作所は、IT事業セグメントで世界トップグループ入りを目指している。海外においてその急先鋒を担うのが、今年1月に発足した新生・日立ヴァンタラだ。旧日立ヴァンタラと旧日立コンサルティングが合併した同社は、世界中に展開するストレージ製品の販売網や、ERPで培ったITコンサルティングのノウハウを生かすことで総合力を発揮。グローバルの日立の各事業セグメントと密接に連携することで、幅広い業種・業態に向けたデジタル変革の支援を担っていく。日立グループのデジタルビジネスの知見を体系化した「Lumada」(ルマーダ)も積極的に活用し、日立ならではの特色あるビジネスを重視し、トップグループ入りに向けた推進役となる。
IoT事業の“世界本社”を担う
――この1月から北米に本社を置く新生「日立ヴァンタラ」が立ち上がりました。どのような会社なのかお話しください。
簡単に言えば、日立グループのIoT事業の“世界本社”に相当する会社が、日立ヴァンタラです。今年1月に日立のストレージ製品の販売などを担当する旧日立ヴァンタラと、オラクルやSAPなどのERP製品を軸としたITコンサルティングを強みとする旧日立コンサルティングが合併して、新生・日立ヴァンタラとなりました。新体制での従業員数は約1万2000人。米国カリフォルニア州サンタクララに本社を置き、およそ世界40カ国・地域に拠点を展開しています。
旧日立ヴァンタラは、主に海外でのストレージの製造、販売を担っていた日立データシステムズなどが前身となって2017年に発足した会社で、ストレージ製品の販売先は世界100カ国・地域にのぼります。もともとグローバルでの販売網を持っており、これに旧日立コンサルティングのITや業務的な知見を加えることで、総合力を高めるというのが、今回の両社統合の狙いです。
――「IoT事業の世界本社」とは、具体的にどのような意味でしょうか。
日立グループの強みは、製造や健康医療、交通、エネルギー、金融など幅広い業種に製品やサービスを提供している点にあります。これら既存のビジネス領域をデジタルによって変革し、ユーザー企業のビジネスを一段と競争力あるものにする。そうしたノウハウを体系化したのが日立のLumadaであり、Lumadaを活用したビジネスを世界市場に向けて展開していくのが当社の役割と言い換えることもできます。
――なるほど、日本国内で進んでいるデジタルトランスフォーメーション(DX)と、ほぼ同じ文脈で、Lumadaを使って海外のユーザー企業のビジネスを革新、転換する。これが「IoT事業の世界本社」につながるわけですね。
いろいろな言い方がありますが、日立用語になぞらえて言えば「OT」と「IT」の融合です。OTとは運用技術や制御技術を指しており、日立が強みとする社会インフラの運用、制御の技術とITを組み合わせることで社会イノベーションの実現を目指すというもの。日立ヴァンタラの「ヴァンタラ」は、「見晴らしの良い」「有利な」という意味の「Vantage」に由来した造語で、社会イノベーションを実現する未来を切り開いていくという思いを込めたものです。
グローバル人材の獲得に手応え
――日立グループの海外向けデジタルビジネスの最前線に立つとのことですが、どのくらいのビジネス規模をイメージしておられますか。
日立ヴァンタラ単体での数字は開示していませんが、日立グループ全体のITセクター(IT関連の事業セグメント)全体では、将来的に年商4兆円、営業利益率15%を目標に掲げています。直近の18年度が年商2兆円、営業利益は約10%の水準ですので、売り上げベースでほぼ倍増させる。いきなりは難しいので、21年度までの3カ年中期経営計画で、まずは年商2.6兆円、営業利益率は13%を目指している段階です。当社は海外ビジネスにおける中核事業会社として成長の一翼を担っていくポジションです。
――ITとOTを組み合わせたソリューションやデジタル変革の支援といったビジネスを伸ばしていくには、まとまった規模の人的リソースが必要になると思いますが、その辺りはどうでしょうか。比較対象として、海外進出に積極的に取り組んでいるNTTデータの海外勤務の社員数は8万6000人を超えています。
日立ヴァンタラを含めた日立グループのITセクター全体の海外勤務の人員数はおよそ2万3000人体制です。ご指摘の通り、ライバル他社に比べて海外における人的リソースはまだ多くありません。ソリューションやデジタル変革支援で海外ビジネスを伸ばしていくには、顧客企業との接点に当たる「フロント人材」と、システム構築や実装を担当する「デリバリー人材」の両方を一段と拡充していく必要があります。今の中計では人員の積極採用やM&Aなどを通じて、フロントとデリバリーの両方を合わせて4万人規模へ増やしていく計画を立てています。
もう一つ、IT×OTやLumadaといった最新のデジタル技術や知見によってビジネスをスケール(拡張)していく手法は、日立グループの強みを全面的に生かすものです。例えば、既存のSIビジネスにLumadaの知見を加えることでビジネスをスケールさせることを当社では「スケール・オブ・デジタル」と呼んでいます。これとは別に、製造や交通、エネルギーといった日立の他の事業セクターのビジネスにLumadaの知見を加えてスケールさせる手法を「スケール・バイ・デジタル」と位置付けています。
とりわけ、同一グループ内の事業でスケール・バイ・デジタルができるケースは、世界的に見てもそれほど多くなく、特色を生かせるとともに、純粋なコンピューター系、IT系のライバル会社との差別化にもなります。幸いにも、日立グループや当社の立ち位置に魅力を感じて、企業向けのデジタルビジネスの経験豊富な海外人材が新たにメンバーに加わってくれることも増えてきました。新生・日立ヴァンタラの成長を牽引する中核的な人材になってくれる人が、これからも数多くきてくれるものと手応えを感じています。
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