ゲームチェンジモデルを開発中
――新社名が「富士フイルム ビジネスイノベーション」になった理由は。
ドキュメントだけでなく、ビジネス全体をイノベーションしていく会社であり続けたいというのが社名に込めた思いです。派手ではないですが、富士フイルムというブランドを売っていくことになるわけですし、いい名前だと思っています。
――ここ数年、複合機をクラウドの出入り口にするような取り組みをかなりされてきた印象です。
そうした取り組みも新社名の下にさらに加速します。そのためのベースになる取り組みとして、特に複合機のセキュリティには非常に力を入れていて、オフィスに必要なセキュリティ機能の網羅性などは他の複合機メーカーの追随を許さないレベルです。
また、複合機だけでなく、オフィスの設計からトータルで当社にやってほしいというオーダーもかなりいただくようになりました。オフィスの設計をお客様と一緒にやって、複合機もその環境に最適な製品を最適な台数、最適な場所に配置する。単純に複合機の販売台数を増やすという取り組みとは違うアプローチです。
また、当社はいろいろなソフトウェアも開発していますが、これまで630万本も売れているドキュメント管理の「DocuWorks」は、ホワイトカラーの生産性向上に寄与できる非常に便利なソフトウェアです。複合機だけではなく、お客様のトータルなビジネスの合理化をお手伝いしていくということです。
――社名変更までの1年3カ月で、どんな準備を進めるのでしょうか。
まずは、当社がどう変わるのか、変わらないことは何なのか、お客様はもちろん、パートナー、そして従業員に対しても丁寧に説明していきます。富士ゼロックスに入社して、ゼロックスブランドに愛着はやはりあるわけですからね。そして、新社名を認知していただく取り組みもやっていきます。大きな変化をスムーズに乗り切るには、それなりに時間をかける必要があります。これを1カ月や2カ月でやってしまうと、軋轢も大きくなってしまう。
また現在、業界のゲームチェンジができるような複合機の新モデルも開発しています。ある程度かたちになっていて、私も毎週フォローしていますが、業界の勢力図を変えるようなゲームチェンジモデルになると確信しています。これからの1年3カ月は、これを世に出すための準備期間でもあります。新会社になった時に、こういう旗印があるといいじゃないですか。
――新モデルの概要だけでも聞きたいですね。
ごめんなさい、言えません(笑)。でも、みなさんきっと、「Wow!」と言うはずです。それは私がお約束します。
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富士ゼロックスのR&Dをけん引してきた技術者である玉井社長。自身が設計した三次元図面作成用のスケールにそのこだわりが詰まっている。一見、変わった形に見えるが、精緻なシミュレーションを基に立体図の書きやすさを追求した。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「ゼロックス」との決別は次善の策じゃない
当初は親会社の富士フイルムホールディングス(HD)が米ゼロックスを買収し、同社と富士ゼロックスの経営統合によりビジネスのスケールを追求するはずだった。2018年1月にこの計画を発表してから約2年。決着はまったく違う形になった。
富士フイルムHDと米ゼロックスの合弁だった富士ゼロックスは富士フイルムHDの完全子会社になり、富士フイルムグループは単独、独自ブランドで全世界をフィールドとしたビジネスに踏み出すことになる。週刊BCNでは当初、この流れを「富士フイルムHDが米ゼロックスの買収を“断念”した」と伝えてきた。
しかし玉井社長の思いは違うという。「ゼロックス」と決別し、「富士フイルム」ブランドで戦っていくのは、米ゼロックス買収を断念した末の次善の策ではなく、現時点での最善手だと考えているのだ。
R&D部門をけん引してきた技術者ならではの視点で富士ゼロックスの強みを冷静に見極め、勝算をはじき出した。「自分たちのポテンシャルは分かっている」と不敵に笑う。
プロフィール
玉井光一
(たまい こういち)
1952年、大分県生まれ。東京大学で博士(工学)の学位取得。72年、東芝に入社。2003年、富士写真フイルムに入社。10年に富士フイルムホールディングス取締役執行役員。富士ゼロックス代表取締役副社長を経て、18年6月、富士ゼロックス代表取締役社長に就任。
会社紹介
1962年、富士写真フイルムと英ランク・ゼロックスの折半出資で設立。2001年に富士フイルムの出資比率が75%となり、同社の連結子会社に。19年11月には富士フイルムホールディングス(HD)の完全子会社となり、米ゼロックスとの合弁は解消された。さらに20年1月、米ゼロックスとの間で結んでいる「技術契約」(技術/ブランドライセンスや販売テリトリーなどを規定した契約で21年3月末が契約期限)を更新しない方針を発表。21年4月に「富士フイルム ビジネスイノベーション」に社名を変更する予定。「ゼロックス」と決別し、「富士フイルム」ブランドでグローバル市場における成長を図る方針だ。