顧客のDX推進を支援する富士通の戦略子会社Ridgelinez(リッジラインズ)が4月1日付で立ち上がった。リッジラインズが実践していくDX推進のコンサルティング能力と、富士通が持つ先端技術を掛け合わせることで競争力を発揮する狙いだ。ややもすればゴールが曖昧になりやすい「DX」の概念だが、顧客企業のビジネスが成長することを主眼においたコンサルティングを心がけるという軸はぶれないようにするという。顧客やリッジラインズ、そして富士通グループで成長に結びつく「DX体験」を共有し、根づかせる。外部コンサルティング会社から抜擢された今井俊哉社長に話を聞いた。
コロナ禍で事業環境が激変する
――まずはリッジラインズがどのような会社なのか教えてください。
4月1日付けで立ち上げたリッジラインズは、富士通本体や富士通総研からの出向や事業移管などにより、まずは300人規模の体制からスタートしました。事業環境が大きく変わる中で、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を支援するコンサルティングサービスを主に提供していきます。
――「DX」は、デジタルを活用したビジネス改革であるとか、レガシー業務の刷新であるとか、人によって解釈の振れ幅が大きい印象があります。
「DXを成し遂げた」体験をもっている会社はごく限られており、富士通自身でさえも限定的なDX体験しかありません。DXが曖昧な概念になりがちなことにはそうした背景があります。リッジラインズでは、このあたりを解きほぐして顧客企業の成長につなげる役割を担います。顧客がDXを経て稼げるようになる、顧客にDX体験をしてもらう徹底的な顧客起点で取り組んでいきます。
――新型コロナウイルスの一連の混乱で、事業環境が激変しています。予想外のこととはいえ、大変な時期の船出となりました。
事業環境は常に変化していますし、DXはそうした事業環境の変化を先取りしていくものでなければならないはずです。新型コロナウイルスによって変化の振れ幅が大きくなったとするならば、それに即座に適応して変革を推し進めるまでです。辛いことをやりきらないと、何ごとも変えられませんからね。
グループ増収効果2000億円を視野
――リッジラインズの設立説明会の場で、富士通の時田隆仁社長は「データを活用して顧客や社会に価値を還元する仕組みが十分ではなかった」と話しています。これをもう少し噛み砕いてご説明いただけますか。
私なりに解釈しますと、これまでのシステム構築(SI)では、どういったビジネス的な成功、成果を手に入れるのか、そのためにどうしたいのかを明確にしないままプロジェクトが始まってしまうケースがあったように思います。
安全面に振りすぎて、顧客の業務要件を新しく構築するシステムに詰め込めるだけ詰め込む。この結果、SIerはまとまった額の売り上げは得られても、営業利益率は一桁。顧客企業は多額の費用を支払っても、従来と大して変わらない成果しか手にできない。ITベンダーと顧客が互いに痛み分けになっているケースをよく見かけます。
一方で、SIを手がけない戦略系と呼ばれるコンサルティング会社も完璧ではありません。DXの文脈に限って言えば、最先端のデジタル技術を駆使することが前提であり、これをシステムに落とし込めない、技術に精通していないコンサルティングはあまり役に立たない。つまりDXでは戦略コンサルティングと先進デジタル技術の導入支援を両立したサービスが求められています。リッジラインズは、こうした顧客のニーズに応えていくためにできた会社です。
――DXの具体的な在り方は、顧客の業種や業態、市場でのポジショニングによって千差万別です。
そうですね。ただ、一つだけ明確に言えることは、DXは常に「成長」とともにあるということです。新しい技術で業務を効率化し、経費を削減した、利益が増えたと満足するのではなく、そこで手にしたキャッシュを成長が見込める分野にきちんと投資していくことこそDXの前提となります。成長分野はいくつか考えられますし、アプローチの仕方も無数にあります。その中で優先順位をつけてDX推進を支援します。
しかし、この「優先順位」というのが実はくせ者で、優先順位を下げられてしまった部門は、置いてけぼり感が強まって、つい「他人事」になってしまうのですね。これでは全社改革は難しい。そもそも全社改革で改革項目を挙げていくと、だいたいどんな会社でも10や20は出てくるものです。これを三つくらいに絞って着実に実行していくのがいい。DXの効果を最大化するには、会社の限られた部門だけの変革では、やはり限定的な効果しか得られません。それをどこまで一体感をもって遂行できるか、人間関係や組織の熱量みたいなところまで踏み込んでいかなければなりません。
――リッジラインズの競争力の源泉、中核となる部分は何だとお考えですか。
リッジラインズが実践していくDX推進のコンサルティング能力と、富士通が持つ先端技術の掛け合わせができることです。これが競争力の源泉となり、実力や実績のある世の中の戦略系のコンサルティング会社との差異化につながる。まずは、半年後をめどにDX支援の事例を公表したいと考えています。
売り上げ規模は向こう3年以内をめどにおよそ200億円、従業員数で今の2倍の600人規模に増やしていく目標です。当社のコンサルティングサービスを起点とした技術サービスやSIなどを合わせた富士通グループ全体の増収効果は1000~2000億円ほどを見込んでいます。
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