富士通改革に外部人材を積極活用
――今井社長のキャリアのスタートは富士通だとうかがっています。
ご指摘の通り、今回35年ぶりに富士通グループに戻ってきました。まぁ、でも外部が長かったこともあって「出戻り」という感覚は薄いです。3月末まで外資系コンサルティング会社の副代表を務めていましたが、富士通を変えていきたいという時田社長の思いの強さを感じましたので、この仕事を引き受けることにしました。
――富士通の歴代の社長も変革に取り組んでおり、その過程で社内政治の軋轢もあったと聞いています。今回、時田社長が打ち出した「IT企業からDX企業へ」の一連の改革では、今井社長をはじめ、元SAPジャパン社長の福田譲氏、元インフォシス日本法人代表の大西俊介氏など外部人材を役員や理事として積極的に迎え入れています。
富士通社内でどのようなことが起こったのかは詳しくは知りません。ただ、一般論としてヒト、モノ、カネを戦略的に再配置するような大規模な変革を遂行しようとすれば、必ず波風が立つものです。内部のしがらみがない外部人材を活用するのも経営手法の一つだと思います。
――いくら経営トップが変革を推し進めようとしても、会社全体として足並みを揃えるには相当の困難が伴うのでは。
企業において熱量の伝わり方には「時間差」があると、私は常々感じています。例えば、経営トップ、幹部、従業員の三層構造があったとします。トップが「○○の改革をするぞ」と方針を掲げるのですが、その時点では幹部層はまだ腹落ちしていません。従業員層はその方針すら知らないでしょう。根回しなり、説得なりで幹部層がまとまってから、ようやく従業員が「最近、○○改革の話がよくでるな」と感じるようになります。
この段階で、時間差の存在を把握せず、「よしよし、全社に周知されたようだ。では、次の△△改革を推進する」と経営トップが先走ってしまうと、幹部層、従業員層は混乱してしまい、トップの熱い思いが伝わるどころか、空中分解しかねません。だからこそ、DX推進にはちゃんと成果なり、成功なりが実感をもって末端の従業員まで浸透させることが大切なのです。
――成果が得られなかったらどうなりますか。
それはそれで、ちゃんと全社で共有すべきです。こうこうこういう理由でうまくいかなかったが、次の挑戦では失敗を踏まえてこうすると詳らかにする。中途半端なかたちで共有されてしまうと、「過去に誰々がやってもうまくいかなかった」と変革に後ろ向きな負の感情だけが残ってしまいます。そうではなく、客観的に分析し、データを構造化、可視化して課題と向き合うことが大切です。リッジラインズは組織のあり方や特性まで踏み込んで、顧客のDXを支援していきます。
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仕事鞄は「TUMI(トゥミ)」の背負えるタイプを選んだ。リュックは若者のイメージが強いが、「年配者こそ腰を痛めないためにリュックにすべき」と話す。健康維持とフットワークよく仕事ができる点が気に入っている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
野心が富士通グループを変える
新卒で富士通に就職して間もない頃。同僚3人とともに、ある大手製造業のアカウント営業に配属された。運良く優良顧客を担当したことで、売り上げは同期の3倍。誇らしかったという。
ある日、客先で外資系ITベンダーの担当者とばったり会った。向こうは1人で同じような額の仕事をしていた。たまたま割り当てられたアカウントではなく、キャリアを認められて獲得したポジションであることは明白だった。「自分もああなりたい」と会社を辞めて、自費でMBA(経営学修士)の取得を目指して米国の経営大学院に進学した。
学費、滞在費は全て親からの借金だったこともあり、帰国後は借金返済のため、「実績次第でまとまった報酬を得られる経営コンサルティング会社に就職せざるを得ない状況」だったと振り返る。毎年2割は辞めていく厳しい世界ではあったものの、実力に見合った報酬が得られるのが大きな魅力だった。
リッジラインズの報酬体系も、富士通とは段階的に変えていく。顧客の成功と多額の報酬。その両方を得ようとする野心的な人材を集め、富士通グループのビジネス変革の一翼を担っていく。
プロフィール
今井俊哉
(いまい としや)
1960年、東京都生まれ。82年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、富士通入社。86年、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に進学。88年、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン入社。97年、取締役。02年、SAPジャパン バイスプレジデント。05年、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン パートナー。12年、ブーズ・アンド・カンパニー・ジャパン 代表取締役社長。15年、同社とPwCの統合に伴いPwCコンサルティング副代表執行役に。20年4月1日、Ridgelinez(リッジラインズ)代表取締役社長に就任。
会社紹介
富士通グループのDXビジネスのけん引役として設立された戦略子会社。2020年4月1日に営業を開始した。富士通や富士通総研などから約300人が集まった。外部人材の採用にも積極的に取り組んでいくことで向こう3年で600人規模へ拡大するとともに、年商200億円規模への成長を目指している。