NTTの固定電話網がIP網に移行するタイムリミットが迫っている。IP網移行に伴うEDIの刷新はデータ・アプリケーション(DAL)にとって大きなビジネスチャンス。企業のデータ連携のビジネス領域をさらに大きくしていくために、企業間の受発注業務に特化した従来型のEDI(電子データ交換)に加えて、企業全体のデータの流れを一元的に可視化、管理する需要を積極的に取り込んでいく。コロナ・ショックで業務のデジタル化、分散ワークが進展することは、データ連携の需要増につながるとの期待もある。4月1日付でトップに就任した安原武志社長に話を聞いた。
コロナでレガシーEDIの
移行に一部遅れ
――従来の固定電話を使っているEDIをIP網に対応した方式に2024年までに切り替えなければなりません。今般のコロナ禍で移行の遅れは出ていますか。
一部業種で遅れが出ることが懸念されています。EDIは業界ごとに仕様を決めて運用されているのですが、まだ移行に向けたスケジュールが明確でなかったりする業界もあるようです。この遅れがさらに後ろ倒しになるのではないかと気を揉んでいます。
当社製品の販売パートナーの話などを含めて全体を俯瞰してみると、流通・小売業は割とまとまっていますが、製造業は分野ごとに温度差がある印象です。機械や電機、鉄鋼、繊維、化学といったそれぞれが所属している業界団体ごとに推奨仕様を決めていくのがEDIの特徴で、当社としても販売パートナーと足並みを揃えて、ユーザー企業が属する業界のEDI移行をできる限り後押ししていく考えです。
――御社のEDIビジネス全体で見ると、コロナ禍の影響はいかがでしょうか。
販売パートナーであるSIer各社が手がけるプロジェクトが一部遅れるなどの理由で新規受注が伸び悩むのではないかと強く警戒しています。当社では、これまでのソフトウェア製品の売り切り型から月額課金型へと移行しつつあり、リカーリングの比率は昨年度売上高全体の約65%を占めるまでに拡大しています。
実は、22年3月期までの3カ年中期経営計画では、リカーリングに相当するストック型ビジネスの売上高比率65%を目標に掲げていましたが、中計初年度で達成してしまいました。本来は、景気の変動に強くなる目的でリカーリング収益の売上高比率の目標を設定したのですが、プロジェクトの遅れや月額課金モデルを厳格に適用したことなどで減収になったことで、リカーリング比率が予想より高くなったきらいはあります。リカーリングは売上高比率ではなく、受注件数の伸びの中で捉えていくことが大切なのだと改めて認識したところです。
――リカーリング収益に移行したことで、単年度で見た売り上げが目減りしてしまう現象が起きているわけですね。
分かりやすい例を挙げると、年度末の3月に5カ年契約60カ月分を課金型で受注したとしても、その年度で売り上げに計上できるのは1カ月分だけ。言い訳になってしまいますが、売り切り型だと3月にドーンと売り上げを計上できるわけです。リカーリングを主軸としつつ売り上げも伸ばすには受注件数そのものを増やしていくしかありません。幸い、昨年度は当社戦略製品の累計出荷本数が前年度より31本増えて382本に拡大していますし、製品ライセンス全体の出荷本数で見ると、累計1万2528本、昨年度までの5カ年の年平均成長率(CAGR)は9.6%と安定的に増えています。
ハイタッチ営業の
手法を活用
――御社は中期経営計画で「EDI専業メーカーからの脱皮」を掲げ、戦略製品であるデータ連携基盤の「ACMS Apex」の拡販に力をおられますが、進捗はいかがでしょうか。
まず、誤解のないようにしてもらいたいのですが、「EDI専業メーカーからの脱皮」とは「EDI事業をやめる」のではなく、EDI専業メーカーの強みや既存市場でのシェアの大きさを強みに、データ連携ビジネス全体の市場でもリーダーを目指していくという意味です。その上でお話しますと、売り上げ的には先に述べた理由で中計初年度はつまずいてしまいましたが、データ連携ビジネスの拡大に向けた取り組みは着々と前進しています。
EDIは、流通BMSやebXML、全銀協標準通信プロトコルなど、業種や用途ごとに通信手順を決めて受発注データをやりとりしてきました。EDIによって受発注の業務が自動化され、サプライチェーンの効率化、生産性の向上に大きく役立ってきたことに間違いはありません。ただ、企業全体を見渡したとき、電子的なデータのやりとりは受発注だけではありませんよね。今や企業のあらゆる業務がデジタル化され、さまざまなデータがAPIによってシステム間を行き来しています。ApexはEDIを含めた企業データを網羅的に連携させるコンセプトで開発しています。
ユーザー企業にApexのコンセプトをより深く理解してもらうため、当社の営業体制を大幅に強化しています。EDI専業ですとユーザー企業のEDI担当者としか接点を持てません。しかし、Apexを必要とするのは基幹業務システムや、企業内データ全般を管理しているCIO(最高情報責任者)である可能性が高い。であるならば、これら意思決定者と直接接点を持ち、課題解決をともに考えるハイタッチ営業の手法が有効です。今年度からはハイタッチ営業の体制を一段と充実させました。
――間接販売をメインにしてきた御社ですが、直販もやるということでしょうか。
これまで通り全国54社の販売パートナーの皆さまに販売していただきます。当社はユーザー企業の需要を正確に理解し製品開発に反映したり、ユーザーの需要そのものを喚起し、新しい市場を開拓する努力を行うということです。
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