コロナ禍の混乱が続く中、企業は変化への適応スピードを一段と高めていく必要に迫られている。だが、明確な見通しがきかない状況では、そのスピードを上げることは難しい。NTTデータ経営研究所は、市場動向の予測や新技術の目利きの役割を担うことで、顧客企業のビジネスの変革を推進していく。今年6月にトップに就任した柳圭一郎社長は、「将来、コロナ禍のあのときNTTデータ経営研の提言があったからこそ、変革を成功裏におさめることができたと顧客から評価されるよう研究やコンサルティング活動に邁進していく」と話す。
目利きで価値創造の一翼を担う
――この6月、NTTデータの副社長からNTTデータ経営研究所社長に就任されましたが、まずはNTTデータ経営研のNTTデータグループにおける位置づけからうかがいます。
顧客企業に提供できる価値をより大きなものにするために、NTTデータ経営研は重要な役割を果たしています。ITによる価値提供には市場動向や新技術の目利きからはじまって、システムの設計、開発、運用の各フェーズがありますが、当社は主に市場動向や新技術の目利きの部分を総勢300人余りのコンサルタントによって担っています。
グローバル展開するNTTデータグループは、欧州や北米の主要市場でコンサルティング機能を担う組織がありますが、いまの時点ではNTTデータ経営研は国内でのコンサルティングを主軸に据えています。
2021年度(22年3月期)までのNTTデータグループの中期経営計画では、最先端の技術や知見を蓄積する拠点「センター・オブ・エクセレンス(CoE)」の活用に力を入れています。CoEはNTTデータグループの強みを集約し、グローバルでの競争力を高めていく役割を担っているのですが、NTTデータ経営研の知見もCoEの強化に役立てていきます。
――顧客企業のデジタル変革(DX)を推進するため、主要ITベンダーはDXを専門とする子会社や組織を相次いで強化しています。NTTデータ経営研はDX推進のポジションにあるのでしょうか。
従来のシステム構築(SI)ビジネスとコンサルティングの境目がなくなりつつあると感じています。ユーザー企業といっしょになって、どのようなDXにすべきかを議論し、知見を持ち寄ることが一層求められるようになっています。
NTTデータ経営研としては、NTTデータ本体があまりSIを手がけていない領域にも果敢に進出していき、顧客企業が抱える課題や、社会的な課題の解決に向けた提言をこれからも積極的に行っていく方針です。社長を任されてから2カ月弱のあいだ、さまざまなプロジェクト報告を見てきましたが、当社は実に幅広い、多種多様な領域でコンサルティングビジネスを手がけています。NTTデータグループのSIに直結するもの、しないものさまざまですが、顧客や社会の課題を解決し、DX推進につなげていく活動を加速させていく方針です。
脳科学をデジタルツインに応用
――NTTデータ経営研のコンサルティングで強みとなる分野はどのようなものが挙げられますか。脳科学の分野で非常に先進的な研究をされている印象です。
そうですね。脳科学はいわゆる「デジタルツイン」の文脈で研究を続けている領域です。人間の脳の活動をデジタルで再現することで、例えば広告映像を見たときに人がどのように感じるのかをシミュレーションする技術です。実際の脳の活動に似た動きをするプログラムを置くことから“デジタルによる双子=デジタルツイン”の分野の一つと位置づけています。
これを生身の人間でやろうとすれば、脳の活動や血流をfMRI(磁気共鳴機能画像法)といった各種の計測技術で計測しなければならず、コストも時間もかかりますし、実験に参加する人の負担も大きい。脳をデジタルツインに写し取ることで、大量の情報を繰り返し入力し、脳の反応を再現することが可能となります。先の広告映像の例では、さまざまなパターンの映像をターゲットとする世代や性別の人の脳活動を模したデジタルツインに繰り返し入力することで、好感度や関心度を正確に測定することができるわけです。
――他にはどのようなものがありますか。
スマート農業の分野では、落花生農家や千葉県立農業大学校などと千葉落花生スマート農業実証コンソーシアムを組み、熟練者でなくても落花生の最適な収穫ができる支援システムの開発や農作業の自動化に取り組んでいます。収穫期の判断を支援するシステムでは、ドローンによる空撮画像や固定カメラで取得した画像をAIにより解析。実際の収穫の最適期と比べて誤差3日以内で判定できるようAIモデルの開発を目指しています。他にも千葉県農林総合研究センターなどと協力し、千葉県の特産品であるニホンナシの病害予測システムを手待ちのスマートフォンで簡単に利用できるようにする実証事業も昨年から今年にかけて行っています。
データを収集し、バーチャルな空間で分析し、それをリアルに戻していくというデジタルツインの手法はスマート農業の分野にも応用できます。
――コロナ・ショックは、御社のビジネスにどう影響を与えていますか。
業績面ではNTTデータグループ全体での見通しをまだ明らかにできない状況です。ただ、変化に適応するスピードを一段と上げていく必要に迫られていることは確かでしょう。端的な例ではありますが、緊急事態宣言が発出された直後の4月上旬のタイミングで、当社は新型コロナウイルス対策と働き方に関する緊急調査を実施しています。それによれば週3~4日以上テレワークを実施した組織は東京都では36.5%あったのですが、全国では20.0%に過ぎませんでした。首都圏と地方の格差が浮き彫りになるとともに、変化への適応スピードという面でも課題があることが分かりました。
[次のページ]変化への適応にやりがいを感じる性分