今年6月にインターコムの社長に就任した須藤美奈子氏は同社初の女性社長だ。「50周年、そして100年企業を目指すための礎をつくる」と意気込む。コロナ禍にあっては、リモートワークをしている従業員の勤務状況を把握するシステムや、オンライン商談のツールなどが売れ筋商材となった。強みとする通信と情報セキュリティを核に、変化し続ける市場のニーズを的確に捉える商品開発力に磨きをかけ、さらなる成長へとつなげる。
台湾の開発現場で多くを学ぶ
――まずは大まかな経営方針からうかがいます。
私はインターコムという会社を「100年企業」にしたい。そのためには、ヒット商品をつくり続けることと、インターコムの「品質」により磨きをかけていくことが欠かせません。
ソフトメーカーとして、ラフ案から企画会議、開発、β版、出荷許可の判定までの一連の工程を、しっかりとしたルールに基づいて推進していくことをこれまで以上に大切にしていきます。特定の天才肌の人だけに頼っていてはダメだし、ましてや声の大きい人に引っ張られてもダメ。それぞれの工程を担当する人の能力を最大限引き出せる枠組みがあってこそ、継続的に売れる商品がつくれると考えています。
インターコムの「品質」についてですが、ここで言う「品質」とは、製品のことだけでなく、企画や営業、開発、管理、サポートに至る全ての部門の仕事の品質を念頭に置いています。会社そのものの品質と言ってもいいと思います。インターコム製品のユーザー体験を高めていくには、当社の全ての部門の品質が高い水準に保たれている必要があります。
当社は2022年6月に40周年を迎えます。まずは、従来にも増して売れる製品をつくり、より多くのユーザーに素晴らしい体験をしてもらう。そうすることで50周年までの成長のビジョンが見えてきますし、その先の100周年の実現に向けても、しっかりとした枠組みづくりを私の代でやっていきたいと考えています。
通信とセキュリティを強みに
――須藤社長がそのようにお考えになるきっかけはあったのでしょうか。
私は1996年から5年間、台湾支社に赴任していて、そこでの経験がターニングポイントになりました。
コロナ禍で台湾のIT大臣が話題になりましたが、当時から台湾は“電脳立国”と呼ばれるほどITに強く、大学をはじめとする高等教育機関でのIT人材の育成に力を入れていました。当社も台湾の優秀なIT人材の力を活用してビデオ通話のソフトなどを開発しており、私はそこのマネージャーというポジションでした。理工系の大学を出た優秀な技術者が多く入社してくれ、動画ファイルの圧縮を専門とする人もいれば、通信を専攻した人、インターネットで遅延を極力少なくする音声伝送の技術を持っている人と、多様なエリートが揃っていました。
一方で、彼らは専門分野には精通しているのですが、製品の企画やライバル他社の動向、そして最終的に売れる製品に仕上げられるかについては、あまり関心を示さないという課題がありました。
――須藤さんはどのようにして彼らをまとめあげたのですか。
恥ずかしながら、それをやってくれたのは工程管理に長けた台湾の方です。技術者のモチベーションを下げずに、日本の本社で考えたラフ案を、実際の製品にまとめあげていく力量は見事なものでした。私はそれを間近で見て、企画立案、開発、β版の動作検証、出荷したあとのサポートの一連の工程がバラバラにならないようにする大切さを学びました。ただし、天才的な工程管理のスキルを持つ人に依存しているようでは、継続的な品質向上にはつながりません。より完成度の高いルールや枠組みをつくり、安定して優れた顧客体験を生み出し続けられるようにすることが大事だと考えるようになったのです。
――コロナ禍で市場環境が大きく変わっていますが、直近の売れ筋商材はどんなものがありますか。インターコムは、メインフレームのエミュレーターやEDI(電子データ交換)、パソコン通信やFAXのまいと~くシリーズ、情報漏えい対策・IT資産管理など「通信」と「情報セキュリティ」の領域に強いイメージです。
おっしゃるとおり、当社は通信/セキュリティ領域の技術を応用することで数多くのパッケージソフト製品を世に送り出してきました。直近の売れ筋もその強みを生かした製品が多く、コロナ禍でリモートワークが急増したことに対応してセキュリティを強化するソリューション、在宅などでの勤務状況を見える化するツール、オンライン商談ツールといった商材がよく売れています。
具体的に、例えばIT資産管理の「MaLionシリーズ」は非常に好調です。パソコンの操作ログから情報漏えいを起こしていないか管理できるのはもちろん、IT資産管理の特性を生かしてリモートでの勤務状況を把握できる点が注目されています。普段あまりおつきあいのなかったテレビ局の取材がきたほどです。
また、「RemoteOperator Sales」というプレゼンテーション資料などを共有しながら電話で商談ができるサービスも急伸しています。メールであらかじめ資料の接続先を商談相手に伝えて、クリックすることで資料を画面に映し出し、会話は電話で行う仕組みです。相手先のパソコンのマイクやスピーカーが常に機能しているかどうかは分かりませんので、国内の営業であれば電話のほうが確実に商談相手とコミュニケーションが取れると判断したのですが、まさにそうした点を評価していただいています。
――パッケージソフトというと、オンプレミス(客先導入)のイメージが強いのですが、クラウド版の比率はどうですか。
実は直近の売上高に占める比率を見ると、すでに月額課金型のクラウド版が7割を占めています。以前は主力の方式だった売り切りのパッケージは3割まで下がっており、クラウド移行が急速に進みました。
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