沖データは、店舗や工場、文教の現場で活躍するプリンタ開発に力を入れる。狭い現場で役立てるよう部品や素材レベルから設計を見直し、省スペース化、高い耐久性のある製品を続々と投入。売り方についても、SIerやソフト開発ベンダーと連携を強化し、業務システムで使うデバイスの一つとして組み込んでもらう販売チャネルの開拓を推進している。2021年4月1日付で沖電気工業本体と統合したあとも、従来の規模の経済が求められる一般オフィス用途のプリンタ市場とは一線を画す方向へと進んでいく方針だ。
沖電気と統合、米国での販売終了
――2021年4月1日付で親会社の沖電気工業に吸収合併されることになりました。どういった経緯なのか、お話しいただけますか。
私は沖データの発足と同時に沖電気工業から沖データへと移り、以来26年余りにわたって沖データの社業の発展とともに歩んできました。1994年の沖データ設立時には、まずはプリンタ事業で独立採算を目指すべく取り組んできたのを思いだします。
独立採算の観点から、沖データのプリンタ工場は、沖電気工業本体の工場とは完全に別ラインで稼働していました。しかし今後、プリンタで培ったノウハウや技術のさまざまな分野への応用を加速させていくことを考えると、両社を統合したほうが効率がいいという判断に至りました。
――欧米市場を中心とした海外事業の売上高比率は7割と聞いていたのですが、今回、米国でのプリンタ販売を年内で終了し、欧州でも拠点の統廃合を進めるとのこと。コロナ禍でオフィスでのプリント需要が減少したことを受けての措置でしょうか。
沖電気工業グループのプリンタ事業を抜本的に見直していく流れの一環であり、コロナ禍は直接関係ありません。米国での沖データによるプリンタ販売は年内で終了しますが、他社にプリンタモジュールを供給したり、製造を受託するといったビジネスは継続します。欧州については地域によって収益を見込める部分が少なからずあるのに対し、米国で当社自身による営業や保守体制を維持しても、現段階では今以上の収益が見込みにくいことが販売終了の直接的な原因です。
――プリンタ事業を抜本的に見直すとは、どういうことでしょうか。
汎用的なプリンタを量産しても当社の強みを十分に生かすことができないということです。そうではなくて、耐久性やカスタマイズ性、システム構築や組み込みビジネスを手がけているSIerなどとの相性のよさを前面に出していく方向性をより明確に打ち出していきます。
振り返れば、パソコンの普及拡大と歩調を合わせて生産台数を伸ばし、国内外に生産拠点を増やし、ピーク時の05年頃には年商2000億円規模まで伸びました。今はそのおよそ半分です。売り上げ規模を追求して汎用性が高い製品を増やしすぎたことで、結果的に競合他社との差異が分かりづらくなり、逆にビジネスを縮小させてしまったことを反省しなければなりません。
来年度以降の新体制後も、沖電気工業グループとして特色あるプリンタ事業をこれまで以上に追求していきます。目指すべき領域は必ずしもプリンタ市場のボリュームゾーンではありませんが、だからこそ他社が真似できない製品づくりへとつながり、プリンタ事業の競争力を高めることができると見ています。
国内外100社以上を訪問して聞き取り
――特色あるプリンタ事業とは、具体的にどのようなものでしょうか。
プリンタの用途は、一般的なオフィスで使う汎用的な用途と、店舗や医療現場、工場などの現場で使う業務特化型の用途の大きく二つに分けられると思います。当社は後者に焦点を当てていきます。
これまでの市場調査の結果、現場用途では高い耐久性が求められることが分かっています。頑丈で壊れず、業務が止まらないことが、一般的なオフィス用途よりも重視される傾向が強いのです。そこで、まずは耐久性があることを分かりやすくユーザーに伝えるため、現場向けのプリンタに5年間のメーカー保証をつけました。リースなら期間は一般的に4~5年であることから、実質的にライフサイクル全部を保証するものです。
また、狭い現場でも邪魔にならないよう省スペース化を積極的に進めてきました。当社プリンタは光源に小型化しやすいLEDを使っていることから、他社に比べて優位です。この11月下旬から出荷した最新のA4カラー機「COREFIDO(コアフィード)C650dnw」は、足かけ4年半を費やして設計や素材選びを根本から見直した自信作です。
例えば、トナーや定着器などの消耗品の交換時に必要なスペースを従来比で半分にしたり、冷却機構を全面的に見直し、プリンタの左右を2センチ開けるだけで冷却できるようにしました。これによってプリンタを設置するときに必要となるスペースを70%削減しています。プリンタ本体の大きさのみならず、実際に現場に設置し、運用するスペースも大幅に削減しています。
――店舗のバックヤードや工場の作業場は、確かに狭いイメージがありますよね。
そうなんです。国内外100社余りのユーザーの現場を実際に訪問し、運用実態を徹底的に調べたところ、「現場は想像以上に狭い」ことが分かりました。本社の情報システム部には専門知識を持った人員がいても、現場にはいないことがほとんど。障害が起こると、その日の作業が止まってしまうことも十分に考えられます。そこで極めて壊れにくい頑丈なプリンタをつくって、その印として5年保証をつけました。文教や医療現場などはシステムの入れ替え周期が比較的長いことから、19年2月には当社初の7年保証をつけた機種も出しています。
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