富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)の初代社長に就任した阪本雅司社長は、地域経済とともに会社を成長させることと、ユーザー企業の課題の解決を徹底することの二つを重点施策に挙げる。同社は、旧富士ゼロックスの国内販売会社31社のすべてと旧富士ゼロックス本体の国内営業部門などを統合し、全国1万人を超える巨大な国内販売会社として今年4月1日に発足した。複合機メーカーである富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)製品の国内販売を一手に担うだけでなく、ユーザーの課題解決に役立つ高度で複雑なITソリューションや働き方改革も全国規模で積極的に提案していく。
高度なITソリューションを駆使
――富士フイルムBIジャパンの初代社長として、まずは経営方針をお聞かせください。
私の経営方針はとても明確で、一つに地域経済とともに会社を成長させること。もう一つはユーザー企業の経営的、業務的な課題解決を徹底することです。
もともと地域販社31社を展開し、地域に根ざしたビジネスを展開してきました。富士フイルムBIジャパンとして統合後も、原則販売会社があったところに拠点を置いて、地域密着の営業体制を引き継いでいます。課題解決型の営業スタイルについては、規模の小さい地域の販売会社では解決できる課題のレベルを上げにくいという構造的な問題がありました。統合後は全国1万人余りのリソースを機動的に使うことで、より高度で複雑なITソリューションも扱えるようになりますし、富士フイルムBIの商品で足らないものがあれば他社から持ってきます。私は富士フイルムBI本体の取締役専務も兼務していますので、メーカー経営陣の一人としても課題解決に知恵を絞ります。
――大都市圏を中心にリモートワークが定着し、オフィスでのプリントボリュームの回復が遅れる、あるいは伸び悩むことが懸念されています。主力の複合機ビジネスは逆風が吹いている状態ですが、どう対処しますか。
複合機を単純に紙に印字するだけの機械として見れば、ペーパーレス化の流れのなかで先細りになっていくでしょうし、そもそもオフィスで仕事をする人が減っていますのでプリントボリュームも増えません。しかし、その一方で複合機をある種のコミュニケーションツールだと捉えれば、ビジネスの見え方が変わってきます。紙に情報を写したり、逆に、紙に書き込まれた情報をデジタル化するゲートウェイの役割を担わせ、このゲートウェイをうまく活用することで、もっと効率的でスマートな働き方や職場づくりができると考えています。
旧富士ゼロックス時代から当社グループは働き方改革を支援する「Smart Work Gateway」のコンセプトを打ち出してきました。複合機や当社が独自で開発してきた文書管理の「DocuWorks」を軸に、さまざまな業務アプリケーションと連携させるゲートウェイ化を推進することで、より広範な課題の解決につなげ、ビジネスの幅を広げていきます。
人のいるところがオフィスになる
――複合機のゲートウェイ化やDocuWorksを媒介とした業務アプリとの連携は、これまであまり進んでいなかったのでしょうか。
残念ながら複合機の稼働率で考えると、まだ低い水準にあると言わざるを得ません。何を持って“稼働率”とするかは議論がありますが、例えば高速機は毎分70枚以上をプリントできますが、最高速度でプリントする時間は24時間のうち、ごくわずかですよね。私は複合機のゲートウェイ化によって、なんとか複合機を常時フル稼働させ、もっと多くの価値を生み出せるようにしたいと考えています。
そのためには、複合機が単体で動いていてはダメで、業務アプリとの連携であったり、コミュニケーションの中心にいつも複合機が存在できるようにしていかなければなりません。リモートワークの定着で働き方がこれだけ変わっているのですから、複合機の在り方も当然変化に適応し、ユーザー企業から見て投資対効果に優れたツールだと評価されるよう変えていきます。
――地域経済とともに会社を成長させるとの方針ですが、どう取り組みますか。
これまでの働き方を続けていては、大都市圏に人が集中するばかりです。就労人口がどんどん減っていますので、地方はますます人がいなくなります。若者が単身で大都市に出てくると子育てのハードルも高まり、ますます少子高齢化が進む悪循環は、どこかで歯止めをかけないとなりません。私はコロナ禍で苦しんでいる今を将来のチャンスに変えたいと思っています。
朝から晩までオフィスに張りついていないと仕事ができないわけではない。むしろ場所や時間の制約から解放されて、「人のいるところがオフィスになる」ことが、今回の一連のリモートワークで証明されたのではないでしょうか。何かとやり玉に挙げられるファクスでさえ、今は手元のスマホで簡単に閲覧できます。先のDocuWorksと連携して電子印鑑による承認や、取引先との電子契約のやりとり、営業支援、顧客管理といった業務アプリとの連携など、すべてオンラインでできる時代です。
であれば、地元に住みながらリモートワークをする選択がもっと増えてもいい。旧富士ゼロックス長崎が長崎県壱岐市と協働して2017年にテレワークセンターを開設するなど、自治体との連携にも取り組んできました。リモートワークの有用性が実証されたことで、これからますますオフィスのボーダレス化が進む。当社はこうした新しい働き方を支援していくことで、地域で働く人を増やし、経済活性化につなげたいと考えています。
多様性を受け入れる働き方を支援
――場所にとらわれない働き方と言えば、駅やビルのなかに設置してある個室型ワークスペース「CocoDesk(ココデスク)」の関西進出が始まりました。個室型ワークスペースはライバル他社の“後追い現象”も起きています。
CocoDeskは法人や個人で契約していただき、外回りのスキマ時間や出張者のみなさんに愛用していただいており、おかげさまですでに首都圏を中心に稼働数が84台に増えています。これからのオフィスは固定的なものではなく、CocoDeskのようにスキマ時間で使ったり、自宅、生まれ故郷など必要に応じて選べるものになっていくと見ています。
多様性を受け入れるダイバーシティ&インクルージョンな組織が、国際的な競争のなかで有利になると言われて久しいですが、都心の一等地にあるオフィスに毎日通う時点ですでに多様性が失われている気がします。都心や地域、あるいは海外などさまざまな場所で暮らす人が持ち前の独自性を発揮し豊かな能力を結集することがイノベーションにつながると捉え、新しい働き方の提案に力を入れます。
――そのためには業務のデジタル化、ペーパーレス化を一層推進していく必要がありそうですね。判子や紙の書類が氾濫しているようでは場所の制約から逃れられません。
業務のデジタル化の必要性は、全国的に見られる普遍的な課題であることから、当社では中小企業のIT戦略立案から運用・管理を総合的に支援する「IT Expert Service」を昨年末から始めました。富士フイルムBIグループに迎え入れたオーストラリアのITサービスプロバイダーのCodeBlueが、本国を中心に500社余りのユーザー企業に展開しているサービスで、ここで体系化された知見やノウハウを日本のユーザー向けに提供するものです。また、大量の紙の申請書や帳票類を扱う大規模ユーザー向けには、米リップコードとの合弁事業によって、同社のAIを駆使して紙文書を素早く電子化する製品の販売も始めています。億枚単位の紙文書を画像データとして保管するとともに、再利用しやすいよう文字認識によってタイトルや属性データをAIが自動でタグづけする機能などが特徴です。
こうしたITソリューション系の商材は、富士フイルムBIグループとして急ピッチで拡充していますので、当社としても積極的に活用していきます。
Favorite Goods
就職活動で会社を訪問する際に都内で買ったネクタイ。当日朝に「訪問してもいいですか?」と電話。「(就職活動の時期が)早すぎる」と断られたことで心に火がつき、その日、夕方「遅く」に訪問して、そのまま当時の富士ゼロックスに就職した。
眼光紙背 ~取材を終えて~
課題解決へのこだわり、人一倍強く
阪本社長がユーザー企業の課題解決に人一倍強いこだわりを持つようになったのは、日頃懇意にしてもらっていたユーザー企業の経営者から相談を持ちかけられたとき、十分に応えられなかった苦い経験からだ。
「こんな課題があるんだけど、阪本君、どうしたらいいか」と問われた。当時、まだ駆け出しのSEだったにもかかわらず、声をかけてもらえたことがうれしくなり、つい気がはやって「○○がいいと思います」と回答した。だが、結果としてその商材はユーザーの課題解決には役立たなかった。
「今から思えば技術の“目利き”ができていなかった」と振り返る。「きっと課題を解決してくれる」と期待をかけられていただけに、それが叶わなかったことが互いのわだかまりとなって、「気がついたときには、そのユーザーから足が遠のいていた」。
それ以来、阪本社長は課題解決に強いこだわりを持つようになる。富士フイルムビジネスイノベーションジャパンの経営に際しても、売りたいものを売る営業は御法度。ユーザーが抱える課題から逆算して何が必要なのかを徹底的に吟味し、提案できる実力を一段と高めていく。
プロフィール
阪本雅司
(さかもと まさし)
1959年、兵庫県生まれ。84年、大阪工業大学大学院経営工学科卒業。同年、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。2001年、西日本営業部ソリューションビジネスセンター長。13年、執行役員国内グローバルサービス営業事業担当。17年、常務執行役員国内営業担当。19年、取締役常務執行役員国内営業担当。20年、取締役専務執行役員。21年4月1日、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン取締役社長に就任。富士フイルムビジネスイノベーション取締役専務執行役員を兼務。
会社紹介
富士フイルムビジネスイノベーションジャパンは、旧富士ゼロックスから富士フイルムビジネスイノベーションへ移行する2021年4月1日付のタイミングで設立された国内販売会社。31社の国内販売会社すべてと旧富士ゼロックス本体の国内営業部門などを統合し、従業員数は1万人を超える。