KeyPerson
共創で顧客ニーズにきめ細かく応える
OSK 代表取締役社長
橋倉 浩
取材・文/齋藤秀平 撮影/大星直輝
2021/10/29 09:00
週刊BCN 2021年10月25日vol.1896掲載
二刀流で大きな手応え
――今年3月に社長に就任しました。これまでのビジネスはどのような状況でしょうか。社長になったのは3月ですが、それまでは製品開発を統括するR&D本部長を務めており、当時から取り組んできたことが大きく二つあります。
以前からオンプレミスの製品がクラウドにシフトしていくというのは当然分かっていましたが、その前段として、販売・会計・給与を中心とした基幹系パッケージ製品「SMILE(スマイル)シリーズ」と、ワークフロー・ドキュメント管理・スケジューラー・コミュニケーションなどで構成する情報系パッケージ製品「eValueシリーズ」を融合させていくことが必要だと考えていました。そして、2017年にリリースしたのが「SMILE Vシリーズ」です。今まで基幹系は年商100億円未満の企業が主なユーザーとなっていましたが、SMILE Vは、情報系の主戦場だった100~300億円のお客様にも広がっており、大きな手ごたえを感じています。
もう一つは、先ほど申し上げたクラウドシフトへの対応を進めてきました。昨年7月にSMILE Vの情報系についてSaaSでサービスインし、今年上期に販・財・給の基幹系SaaSもサービスインしました。これまでSMILE Vは基幹系と情報系の二刀流と位置づけていましたが、オンプレミス版にクラウド版が加わったことで、この面でも二刀流と言えるようになりました。オンプレミスとクラウドの連携も可能になり、お客様が必要なものを提供できるバリエーションが増えました。
――前社長の宇佐美(愼治)さんは年初に、「今年はクラウドビジネス立ち上げの年になる」とおっしゃっていました。あらためてOSKにとってのクラウドの位置づけについて教えていただけますか。
これまでもIaaS上で我々の製品を動かすことは可能でしたが、昨年から今年にかけてSaaSが立ち上がったのが大きなポイントです。提供しやすい価格体系などが実現できており、本当の意味でクラウドビジネスが立ち上がったと言えます。
ただし、OSKはあくまでソフトウェア会社です。クラウド上で動くソフトを提供しているので、稼働プラットフォームについては販社さんにお任せしています。その部分については他のベンダーと比べると少し変わっているかもしれません。とはいえ、オンプレのビジネスを捨てたわけではありませんので、お客様の幅広いニーズに応えていくことを考え、お客様起点でいろいろなバリエーションを揃えていくつもりです。
――社長就任時はコロナ禍真っただ中でした。ビジネスを取り巻く環境についてはどのように捉えていますか。
非常に不安が拭えない中でのスタートとなりました。我々の営業が販社さんのところに行けなかったり、販社さんもお客様のところに行く活動が制限されるといったことがあり、第1四半期(1~3月)の業績はかなり厳しい状況でした。第2四半期で多少持ち直し、下期は上向くかと思っていましたが、再び感染が拡大し、また厳しい状況に入りました。
ただ、IT業界はコロナ禍でも生産性を落とさない、もしくは上げるといった部分で貢献できますので、今後のことはそこまで心配していません。デジタル庁が発足し、今後、日本全体でデジタル社会の形成が加速することが期待されています。そこにデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が加わることも予想しているので、先の見通しについては前向きに捉えています。
――業務ソフトの領域では、クラウドがスタンダードとして定着しつつあるように見えます。市場の動向についてはどのように分析されていますか。
クラウドを基盤としたシステムの導入が拡大している状況は当然把握しており、我々が主戦場にしてきたオンプレよりもコロナ禍ではフィットしているのも事実でしょう。
ただし、ソフトウェアもクラウドも手段でしかありません。コロナ禍をきっかけに、経営者の意識を含めて、ITの仕組みを使って生産性を上げていく、さらにはDXを推進するという機運が高まっています。トータルでそういう方向に向かっている市場のニーズをいかに支えるかが大事だと考えています。

協業はニュートラルに
――自社の強みや課題については、どのように認識されていますか。製品の開発からサポート、さらにカスタマイズも含めてワンストップで提供できることは、これまでと変わらないOSKの強みです。我々はもともとは大塚商会の研究開発集団として設立した経緯があり、今でもそのDNAは大事にしています。会社として売り上げや利益を上げるのは当然ですが、それとは別に、研究開発拠点としての活動も続けています。積極的に研究開発費用を投じて、新しい技術をタイムリーにリサーチし、それを製品に展開していくことができる環境があります。
一方、課題としては、09年に全社員が転籍し、独自に事業運営を進めていくことになりました。大塚商会経由に加えて、そのほかの外販ビジネスの割合を高めることを目指していますが、この部分はまだ目標を達成していないので、引き続き注力していく必要があると考えています。
――社長になってから力を入れてきた取り組みについて教えていただけますか。
キーワードは共創です。私が社長になってから、SMILE VのAPI連携開発パートナー制度を開始し、製品の連携に力を入れてきました。クラウド環境が普及し、今の時代に合ったソフトやサービスが、ものすごいスピードで開発・提供されています。そうした製品とOSKのシステムを柔軟に連携することで、お客様がほしいものを早く、安く提供できると思っています。
契約や経理、電子請求などの分野ごとにパートナー製品との連携を進めていますが、各分野で協業するパートナーは限定していません。同じ分野のパッケージでも、ベンダーによっては微妙に使い勝手などが違う場合があります。お客様によって異なる要望にもきめ細かく対応できるよう、幅広い連携の基盤を整備するのがこの取り組みの狙いです。
――SMILE Vとサードパーティーの連携をいかに拡充していくかについては、どのような計画を立てていますか。
パートナーを何社に限定するとか、そういうことは考えていません。お客様にニーズがあるソリューションを構築できそうであれば、今後もさまざまなベンダーにアプローチしていきたいと思っています。今日は競合だけど、明日は協業というベンダーはいくらでもあるでしょう。既存ビジネスの競合関係を理由に連携の可能性を排除するということがあってはならないと思っています。お客様のニーズは多様化しているので、柔軟な考えが必要です。他ベンダーとの協業はニュートラルに考えなければならない環境になっている気がします。
――親会社の大塚商会との関係は、OSKのこれからの経営にどのような影響を及ぼすでしょうか。
OSKは大塚商会の100%子会社なので、大塚商会が目指すビジネスを全力で支援、協力していくという姿勢は変わりません。先ほど外販の比率を上げるというお話をしましたが、それは大塚商会経由の比率を下げて、外販の比率を上げるという意味ではありません。大塚商会とのビジネスが活発なまま、それ以外の販路もより拡大することが必要だと考えています。
――最後に今後の目標を聞かせてください。
ソフト開発会社にとっては共通のテーマかもしれませんが、よりよい製品やサービスを最高の品質で提供するというのが究極の目標です。現代の市場のスピード感に応えたソリューションを提供するには、何度か申し上げたように共創の輪を広げていくことが現実的な解だと思っています。それをベースに、お客様が笑顔になる製品を提供することを目指して全力で取り組んでいきます。

Favorite Goods
今年、還暦を機に一新したスコッティ・キャメロンのパター。購入の決め手は、ショップで「これはいいなと一目惚れ」したから。兄の影響で始めたゴルフ歴は34年。新しいパターについては「パットが上達したかどうかはさておき、構えた時の満足感がたまらない」と語る。
眼光紙背 ~取材を終えて~
技術者としても、経営者としても「正直」に
キャリアの大半をITエンジニアとして技術畑を歩んできた橋倉社長の目に、現役のエンジニアたちはどう映っているのか、取材の最後に聞いてみた。返ってきた答えは「技術的にいろいろな選択肢があってうらやましい」だった。
橋倉社長は大手SIerで経験を重ね、30歳の時に大塚商会に入社。その後、OSKの所属となった。技術者時代は、システムの開発や新技術の調査を担当し、OSKでは情報系パッケージ製品「eValue(イーバリュー)シリーズ」の開発などに関わった。
新しい技術が次々と登場する現在とは異なり、当時のシステム開発では「やれることが限られていた」と明かす。「今の技術者は、常に新しい技術を追いかけないといけないという点では昔より大変だと思う。しかし視点を変えれば、どんどん新しいことに取り組めるということ。昔より絶対に楽しいはず」
技術者時代から大切にしてきたのは「何事にも正直であれ」の姿勢。厳しい局面や追い詰められた状況でも、正直に対応することを心掛けてきた。立場は経営者に変わったが、これからも信念は変えず、経営のかじ取りをしていくつもりだ。
プロフィール
橋倉 浩
(はしくら ひろし)
1960年、宮崎県生まれ。83年、旧CSK(現SCSK)入社。UNIX技術者として東京証券取引所の証券端末の開発に従事。89年、大塚商会入社。本部テクニカルエンジニアとして主に新技術の調査、受託開発、技術サポートを担当。2002年OSK出向、受託開発・製品開発に従事。09年、OSKとして独自事業運営推進のため転籍。15年、執行役員R&D本部長補佐。16年、上席執行役員R&D本部長代理。17年、取締役兼上席執行役員R&D本部長代理(兼)品質保証部長。18年、同製品開発部長。19年、取締役兼常務執行役員R&D本部長。21年3月15日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
大塚商会のソフトウェア研究・開発拠点として1984年に設立され、2004年に現在の社名に。販売・会計・給与を中心とした基幹系パッケージ製品「SMILE(スマイル)シリーズ」や、ワークフロー・ドキュメント管理・スケジューラ・コミュニケーションなどで構成する情報系パッケージ製品「eValue(イーバリュー)シリーズ」に加え、両方を融合させた「SMILE V シリーズ」などを提供している。21年10月現在の従業員数は469人。
二刀流で大きな手応え
――今年3月に社長に就任しました。これまでのビジネスはどのような状況でしょうか。社長になったのは3月ですが、それまでは製品開発を統括するR&D本部長を務めており、当時から取り組んできたことが大きく二つあります。
以前からオンプレミスの製品がクラウドにシフトしていくというのは当然分かっていましたが、その前段として、販売・会計・給与を中心とした基幹系パッケージ製品「SMILE(スマイル)シリーズ」と、ワークフロー・ドキュメント管理・スケジューラー・コミュニケーションなどで構成する情報系パッケージ製品「eValueシリーズ」を融合させていくことが必要だと考えていました。そして、2017年にリリースしたのが「SMILE Vシリーズ」です。今まで基幹系は年商100億円未満の企業が主なユーザーとなっていましたが、SMILE Vは、情報系の主戦場だった100~300億円のお客様にも広がっており、大きな手ごたえを感じています。
もう一つは、先ほど申し上げたクラウドシフトへの対応を進めてきました。昨年7月にSMILE Vの情報系についてSaaSでサービスインし、今年上期に販・財・給の基幹系SaaSもサービスインしました。これまでSMILE Vは基幹系と情報系の二刀流と位置づけていましたが、オンプレミス版にクラウド版が加わったことで、この面でも二刀流と言えるようになりました。オンプレミスとクラウドの連携も可能になり、お客様が必要なものを提供できるバリエーションが増えました。
――前社長の宇佐美(愼治)さんは年初に、「今年はクラウドビジネス立ち上げの年になる」とおっしゃっていました。あらためてOSKにとってのクラウドの位置づけについて教えていただけますか。
これまでもIaaS上で我々の製品を動かすことは可能でしたが、昨年から今年にかけてSaaSが立ち上がったのが大きなポイントです。提供しやすい価格体系などが実現できており、本当の意味でクラウドビジネスが立ち上がったと言えます。
ただし、OSKはあくまでソフトウェア会社です。クラウド上で動くソフトを提供しているので、稼働プラットフォームについては販社さんにお任せしています。その部分については他のベンダーと比べると少し変わっているかもしれません。とはいえ、オンプレのビジネスを捨てたわけではありませんので、お客様の幅広いニーズに応えていくことを考え、お客様起点でいろいろなバリエーションを揃えていくつもりです。
――社長就任時はコロナ禍真っただ中でした。ビジネスを取り巻く環境についてはどのように捉えていますか。
非常に不安が拭えない中でのスタートとなりました。我々の営業が販社さんのところに行けなかったり、販社さんもお客様のところに行く活動が制限されるといったことがあり、第1四半期(1~3月)の業績はかなり厳しい状況でした。第2四半期で多少持ち直し、下期は上向くかと思っていましたが、再び感染が拡大し、また厳しい状況に入りました。
ただ、IT業界はコロナ禍でも生産性を落とさない、もしくは上げるといった部分で貢献できますので、今後のことはそこまで心配していません。デジタル庁が発足し、今後、日本全体でデジタル社会の形成が加速することが期待されています。そこにデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が加わることも予想しているので、先の見通しについては前向きに捉えています。
――業務ソフトの領域では、クラウドがスタンダードとして定着しつつあるように見えます。市場の動向についてはどのように分析されていますか。
クラウドを基盤としたシステムの導入が拡大している状況は当然把握しており、我々が主戦場にしてきたオンプレよりもコロナ禍ではフィットしているのも事実でしょう。
ただし、ソフトウェアもクラウドも手段でしかありません。コロナ禍をきっかけに、経営者の意識を含めて、ITの仕組みを使って生産性を上げていく、さらにはDXを推進するという機運が高まっています。トータルでそういう方向に向かっている市場のニーズをいかに支えるかが大事だと考えています。
- 社長になってから力を入れてきた取り組み キーワードは共創
- 協業はニュートラルに SMILE Vとサードパーティーの連携をいかに拡充していくか
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
