KeyPerson
電子署名から契約管理へ、ビジネスをスケール
ドキュサイン・ジャパン 取締役社長
竹内賢佑
取材・文/藤岡堯 撮影/大星直輝
2022/11/28 09:00
週刊BCN 2022年11月28日vol.1947掲載
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
いろいろな人のためになりたい
──統合データ分析プラットフォームを手掛ける米Databricks(データブリックス)の日本法人トップからドキュサインというのは意外に思えるのですが、どのような経緯があったのですか。データブリックスは会社としてのポテンシャルがあり、これから間違いなく明るい未来が待っているということも言われていました。自分でも5年、10年は続けたいと考えていたのですが、たまたま(ドキュサインから)お話をいただき「逃したらいけないな」と感じました。
ドキュサインは間口が広いソリューションです。エンタープライズから中小、数人で動いている企業まで、あらゆる会社に契約という業務はあります。そして、署名をする人は特定の人だけでなく、全従業員が対象となる話です。企業も個人もすべて網羅しているソリューションは少ないでしょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れの中で、署名は常に人が介在しており、最後の砦とも言えます。それに対して取り組んでいけるのは非常に面白いなと。「いろいろな人のためになりたい」と思ったんですよね。直接的に個人と企業に影響していけるという点が非常に魅力的でした。それに自分自身も使ってましたからね。不動産契約や社内で採用通知を出すときなど、十数年は利用していました。自分がファンでもあったんです。
──日本法人の現況をどう捉えていますか。
最近はアライアンスビジネスにもっと力を入れていくフェーズになっていると思います。また、日本の市場自体も電子契約・署名サービスの利用率が30%ほどにまで浸透してきていると言われています。まさしくキャズムを超えたあたりです。そう考えると、主なターゲットはアーリーアダプターから、マジョリティへと移っていくでしょう。エンタープライズからSMBの市場まで展開していける、面白いフェーズになってきました。
日本法人は過渡期にあるとも言えます。コロナ禍で特需があり、引き合いはポンと膨らみました。海外ではその特需は終わっている感じですが、日本ではもともとDXが進んでいなかったので、勢いは続くとみています。本社からも期待されていて、ビジネスはさらに伸びるだろうという状況です。
日本法人は今まで、足りないリソースの中でよくやっていたとは思っています。現在はビジネスをスケールしていく段階であり、どの職種もバランスよく増やしていきたいと考えています。来年度に向けて、プランを固めている段階ですが、日本は注力市場でありますので、パートナー支援もコンサルタントもプロフェッショナルサービスも、営業もプリセールスも、すべてを強くしたいです。
──ビジネスの成長に向けた施策はどのように考えますか。
二つの戦略を考えています。SMB市場はニーズがあるので、しっかりと取り込んでいきたい。ボリュームを取る戦略を進めています。
一方、エンタープライズでは利用を活性化していきたいです。実は、ドキュサインはプロダクトポートフォリオが広がっており、電子署名だけでなく契約に関わるすべての分野を網羅できる統合型のプラットフォームに生まれ変わりつつあります。契約書の準備から法務部門でのやりとり、署名、ドキュメントの保管まで、一つのプラットフォーム上で完結できるようになります。これを「コントラクト・ライフサイクル・マネジメント」(CLM)と言いますが、エンタープライズの皆さんには、電子署名から入っていただき、CLM全体での利用を提案していくことになります。
それから、難しい部分もあるのですが、今は日本にデータセンターがないので、これを準備して、ガバメント部門にも注力したいので、本社とも調整をしています。現時点でわれわれは日本の公共部門には踏み込みきれていませんが、可用性といった強みが出せる部分だと考えています。

業務変革支えるパートナーに期待
──自社ソリューションの浸透に向けては何が課題になりますか。電子署名自体は簡単にスタートができ、DXの入門となります。ただ、最後の最後まで残る「ラストワンマイル」とも言えます。なぜなら、契約は相手がいて初めて成り立つものであり、先方もドキュサインを使わなければ、成立しないという問題があるからです。浸透の点で言いますと、現在使っていただいているお客様にアダプションを進めるようなコンサルティングは必要ですし、さらに利用を促進するために、電子署名のソリューションそのものをもっと理解してもらう必要もあります。この二つの面で取り組まなければなりません。電子契約・署名サービスの利用率が30%程度という話をしましたが、実際に電子署名を送っている数というのは、それほど多くないのかもしれません。そこを増やしていかなければ、本当の意味で根付いたとは言えないでしょう。
当社の製品群はITソリューションと言われますが、実は業務ソリューションの性格が強く、(顧客は)業務プロセスの変革を進めていく必要があります。そこではパートナーの力を借りていかなければなりません。総務系をBPOで担っているパートナー、ITツールの定着に強いSIerなど、エコシステムを確立させなければならないと思っています。
ディストリビューションのチャネルもつくっていかなければなりません。協力店、二次店はすごく大事になってくるので、きちんと整理していく段階にあります。今後のビジネスで考えると、CLMが出てくることになれば、業務プロセスの変革を進めていくため、マネジメントコンサルティングを手掛けているパートナー、また、大きなSIerなどとの新しいアライアンスも立ち上げる必要があると考えています。電子署名は導入が簡単すぎて、パートナーの皆さんにとってはあまりメリットがなかった部分もあったでしょう。ただ、CLMになればビジネスボリュームが増えてくるはずです。
本社にも理解してもらい、私が着任してから、パートナーに関連する組織を大きくしています。パートナービジネス、販売チャネルも定着化支援の分野もすべてイネーブルしていかなければならないと考えています。
競合とともに市場盛り上げ
──日本では国産ベンダーのソリューションも多く、競争は厳しいように見えます。エンタープライズでは「ドキュサインじゃないと」という企業は多いです。また、われわれの強みとしては99.99%の可用性を謳っています。とはいえ、競合の皆さんとバチバチやり合うというよりも、電子署名の市場は、やっとキャズムを抜けたあたりなので、一緒に盛り上げようという認識があります。
実際、「クラウド型電子署名サービス協議会」という組織を立ち上げ、市場をどう変えていくかについて議論しているほか、政府へのアプローチなどに一緒に取り組んでいます。電子署名はビジネスを便利にするというか、商慣習をがらっと変えてしまうツール、むしろ変えないと導入しにくいツールであります。そのため、官民一体で取り組まなければならない面もあり、協議会で継続して働きかけています。
──社内のマネジメントの面で課題はありますか。
社内のコミュニケーションの円滑化は意識して取り組んでいるところです。もっと気軽に、フラットに話ができるよう心掛けています。着任して以降は、それなりによくなってきた印象です。それから、本社からきた情報、私が今考えている戦略を透明性をもって説明しています。言えるところは全部言うというぐらいで。距離は遠くないなあという雰囲気が少しずつ醸成されているように感じています。
──今後の目標を教えてください。
電子署名やCLMのソリューションにおける日本のデファクトスタンダードになることです。それは売り上げや利用者数でナンバーワンになるということでなく、「電子署名といったらドキュサインだよね」と認知されることです。市場自体がまだブレイクスルーに至っていない面もありますが、あと5年もあれば、かなり浸透していくのではないでしょうか。DXの機運が高まっている中で、この火を消してはいけません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ドキュサインからのオファーが届く直前、休暇でインドネシアに滞在していた。サーフィンを楽しむため、船で外海にあるスポットに向かい、いざ海に飛び込もうとした瞬間、手元のスマートフォンに連絡が届いた。確認すると、自身の署名が必要な案件のよう。そこで登場したのはドキュサインだ。さっと署名を済ませ、あらためて波を満喫したという。
この「CMのような」体験を「ドキュサイン・モーメント」と表現する。このような体験があったからこそ「ドキュサインに入ってよかった」と感じている。
印鑑文化が根強い日本において、電子署名は理解されにくい領域だったかもしれない。実際、日本法人は「鳴かず飛ばず」な時期もあったそうだ。ただ、働き方が大きく変貌する中で、その価値に気がついた人は少なくないだろう。
グローバルでの認知度と比べれば、まだまだ距離がある。それでも「初めのスパイクは乗り越えた」。もっともっと多くの人に“モーメント”を感じてもらいたい。そう願っている。
プロフィール
竹内賢佑
(たけうち けんすけ)
1979年生まれ、2002年米アメリカン大学卒。04年にIT業界に入り、11年にマサチューセッツ大学アマースト校で経営学修士(MBA)を取得。12年に米Adobe(アドビ)日本法人のアカウントエグゼクティブ、14年に営業統括本部本部長。16年、セールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)に移り、マーケティングクラウド事業部ディレクター、コマースクラウド事業部執行役員を経て、20年5月にデータブリックス・ジャパン社長。22年7月から現職。
会社紹介
【ドキュサイン・ジャパン】電子署名サービス「DocuSigne Signature」を中心とした製品群を展開する米DocuSign の日本法人。ドキュサインのソリューションは180カ国以上で、100万社を超える企業に利用されており、ユーザー数は10億人を上回る。電子署名から契約管理へ、ビジネスをスケール
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
いろいろな人のためになりたい
──統合データ分析プラットフォームを手掛ける米Databricks(データブリックス)の日本法人トップからドキュサインというのは意外に思えるのですが、どのような経緯があったのですか。データブリックスは会社としてのポテンシャルがあり、これから間違いなく明るい未来が待っているということも言われていました。自分でも5年、10年は続けたいと考えていたのですが、たまたま(ドキュサインから)お話をいただき「逃したらいけないな」と感じました。
ドキュサインは間口が広いソリューションです。エンタープライズから中小、数人で動いている企業まで、あらゆる会社に契約という業務はあります。そして、署名をする人は特定の人だけでなく、全従業員が対象となる話です。企業も個人もすべて網羅しているソリューションは少ないでしょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れの中で、署名は常に人が介在しており、最後の砦とも言えます。それに対して取り組んでいけるのは非常に面白いなと。「いろいろな人のためになりたい」と思ったんですよね。直接的に個人と企業に影響していけるという点が非常に魅力的でした。それに自分自身も使ってましたからね。不動産契約や社内で採用通知を出すときなど、十数年は利用していました。自分がファンでもあったんです。
──日本法人の現況をどう捉えていますか。
最近はアライアンスビジネスにもっと力を入れていくフェーズになっていると思います。また、日本の市場自体も電子契約・署名サービスの利用率が30%ほどにまで浸透してきていると言われています。まさしくキャズムを超えたあたりです。そう考えると、主なターゲットはアーリーアダプターから、マジョリティへと移っていくでしょう。エンタープライズからSMBの市場まで展開していける、面白いフェーズになってきました。
日本法人は過渡期にあるとも言えます。コロナ禍で特需があり、引き合いはポンと膨らみました。海外ではその特需は終わっている感じですが、日本ではもともとDXが進んでいなかったので、勢いは続くとみています。本社からも期待されていて、ビジネスはさらに伸びるだろうという状況です。
日本法人は今まで、足りないリソースの中でよくやっていたとは思っています。現在はビジネスをスケールしていく段階であり、どの職種もバランスよく増やしていきたいと考えています。来年度に向けて、プランを固めている段階ですが、日本は注力市場でありますので、パートナー支援もコンサルタントもプロフェッショナルサービスも、営業もプリセールスも、すべてを強くしたいです。
──ビジネスの成長に向けた施策はどのように考えますか。
二つの戦略を考えています。SMB市場はニーズがあるので、しっかりと取り込んでいきたい。ボリュームを取る戦略を進めています。
一方、エンタープライズでは利用を活性化していきたいです。実は、ドキュサインはプロダクトポートフォリオが広がっており、電子署名だけでなく契約に関わるすべての分野を網羅できる統合型のプラットフォームに生まれ変わりつつあります。契約書の準備から法務部門でのやりとり、署名、ドキュメントの保管まで、一つのプラットフォーム上で完結できるようになります。これを「コントラクト・ライフサイクル・マネジメント」(CLM)と言いますが、エンタープライズの皆さんには、電子署名から入っていただき、CLM全体での利用を提案していくことになります。
それから、難しい部分もあるのですが、今は日本にデータセンターがないので、これを準備して、ガバメント部門にも注力したいので、本社とも調整をしています。現時点でわれわれは日本の公共部門には踏み込みきれていませんが、可用性といった強みが出せる部分だと考えています。
- 自社ソリューションの浸透に向けての課題 業務変革支えるパートナーに期待
- 競合とともに市場盛り上げ
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