フォーティネットジャパンは、次世代ファイアウォール(FW)「FortiGate」を多くのSMB(中堅中小企業)に導入するなどして大きな成長を遂げてきた。2022年7月に社長執行役員に就任した田井祥雅氏は、これまでの強みを生かしながら、エンタープライズの開拓とOT(オペレーショナルテクノロジー)セキュリティの推進を目標に掲げている。サイバー攻撃が増加・巧妙化する中で、SMBからエンタープライズまで多くの企業のセキュリティを支え、サイバー攻撃に強い社会の実現を目指す。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
エンタープライズの開拓に着手
──20年11月の入社から、副社長兼メジャーアカウント統括本部長としてどういったことに取り組まれたのでしょうか。
米Fortinet(フォーティネット)はSMBに強い会社で、特に日本ではその部分をより強く取り組んできました。SMBの場合、パートナー経由が大半で、お客様の中には、IT部門がないケースも多いため、シンプルなメッセージを使って販売するかたちを重視しています。
一方のエンタープライズは、欧米では数年前からビジネスが順調に伸びていますが、日本では当社を知らないお客様が多く、営業していたものの、なかなか導入が進まないといった課題があり、そこをどう伸ばしていくかが私のミッションでした。エンタープライズでは案件が大きくなるため、当社製品を使うことで自社のビジネスにどういったメリットがあるのかを経営層の方々は重視します。そのため、直接会って、当社のことを説明し理解してもらうことからスタートしました。加えて、セミナーの開催などマーケティング強化にも取り組みました。その結果、エンタープライズでの利用は拡大しており、エンタープライズを担当しているパートナーが当社製品の販売をスタートするなど成果が出ています。
──その後、22年7月に社長に就任されました。
もともと次の社長にという話をいただいていたため、驚きはありませんでした。ただ、私はエンタープライズを中心に手がけてきましたが、久保田さん(久保田則夫前社長)が注力してきたSMBにも責任を持つことになるため、その覚悟は必要でした。
──年々、従業員も増えています。組織づくりで重視する点を教えてください。
従業員数は526人(22年9月30日時点)で、急速に組織が拡大しています。コロナ禍に入社した社員も多く、社員同士で顔を合わせる機会が少ないなど、不安もある状況でしたが、マネジメント層が努力していることもあり、現在はうまく運営できています。
会社としては、エクセレントカンパニーを目指しています。具体的には、プロフェッショナルな人が集まり、互いを尊敬、信用して新しいモノを作り出し、社員が当社で働いていることを自慢できる環境をつくっていきたいです。
──国内企業はDXの推進に取り組んでいますが、セキュリティ意識は変化しているのでしょうか。
本当の意味でセキュリティ意識の変化の潮目は、22年3月に起きたトヨタ自動車の取引先部品メーカーがサイバー攻撃を受け業務を停止した結果、トヨタ自動車の国内全工場が停止した事件からだと思います。グループ会社や取引先などの業務が止まると、全体に大きな影響を及ぼすことが明確になりました。
事件後に製造業の経営者にお会いすると、自社やサプライチェーン企業のセキュリティについて質問されるケースが増えており、国内企業のセキュリティ意識は高まっていると感じています。
さまざまなニーズに対応する製品群
──22年度のグローバル売上高は前年同期比32%増の44億2000万ドルと高成長を遂げています。強みはどこにあるのでしょうか。
フォーティネットは創業以来、技術を重視してきた企業です。例えば、独自のセキュリティプロセッサーを開発しているため、高いパフォーマンスの製品を安価で提供でき、他社と大きな差別化が図れています。
FortiGateは、IDCなど民間調査会社の調べで、グローバルにおいて次世代FWの出荷台数シェア1位を獲得しています。セキュリティ市場は、続々と新規のベンダーが参入し競争が激しくなっています。その状況下で、主要な分野のナンバーワンの製品を持っていることは強みです。
そして、当社の特徴としてソフトウェアとハードウェアの両方を備えている点があります。特にハードウェアは簡単に参入できない領域であり、ハードウェアの次世代FWを提供するトップベンダーは当社を含めわずかです。こういったビジネスモデルを確立できているのは大きいですね。
──国内企業ではベストオブブリードの考え方が浸透していますが、どう拡販していくのでしょうか。
ベストオブブリードの考えが強いのは確かであり、当社を含め各セキュリティベンダーがプラットフォーム戦略により、利用する製品のベンダーを統一し統合的に管理することを訴求していますが、なかなか進まないのが現状です。営業面で見ても営業スタッフが数十あるプロダクトをすべてきちんと覚えるのは難しいです。そのため、どこに集中していくのかを見極めて進めていこうと考えており、現在は、FortiGate、SD-WAN、SASE(Secure Access Service Edge)を注力ポイントとしています。
すべてが当社の製品になるとは思っていませんが、パートナーには、次世代FW以外にもSD-WANやSASEなどの製品を訴求し、同じベンダーの製品を使うことでコスト面をはじめとした得られる価値を説明しています。
──IT全体でクラウド化が進んでいます。セキュリティ対策への影響はありますか。
インターネットがメインとなり社内ネットワークの利用が減る、サーバーやアプリケーションがクラウドに移るといった変化が起きていますが、まだまだレガシーなサーバーやメインフレームは残っていますし、社内ネットワークも必要ですので、すべてインターネットに置き換わることはないと考えています。そのため、オンプレミス、クラウド双方のセキュリティ製品を持つことは重要です。
また、働く場所が多様化し、リモートワークから社内ネットワークにアクセスする、本社からクラウドにアクセスするなどさまざまなケースが発生する中で、重要となるのがセキュリティポリシーの統一です。(ポリシーを統一するのは)難しいことですが、オンプレ、クラウド問わずセキュリティを提供できる当社だからこそ実現できると考えています。
OTセキュリティの推進に取り組む
──「Secure OT Summit」の開催や「OTセキュリティアセスメントサービス」 の提供などOTセキュリティの強化も進めていますね。
従来の製造業では、工場内にネットワークを引き、その中で生産を行っていたので、外にはつながっていませんでしたが最近はデータをクラウドに上げたりするなどインターネットにつながるようになったことでリスクが拡大しています。
ITの場合は、企業のIT部門がネットワークやインフラの整備を担当しますが、OTでは、IT部門の管轄外というケースが多く、工場で働く人たちがさまざまなこと考え生産性の向上や効率化に取り組んでいます。一番の問題は工場の稼働が止まることであり、止まってしまった場合、いかに早く復旧させられるかが重要です。そのため、売れている製品を提案するよりも、工場が止まらないためにどうするかという視点でアプローチしています。工場の方とディスカッションする中で、こういったプロトコルで話をするのは当社だけと評価していただくことも多くなっています。
日本は製造業の国であり、製造業が好調だと日本全体の景気がよく、その反対の面もあります。だからこそ、リスクに強い工場を作っていかなければなりませんし、それを実現するのが当社の使命だと考えています。
──今後の抱負をお願いします。
容易に金銭を得られるため、世界中でサイバー攻撃を用いる犯罪組織が増え、国への攻撃も拡大しています。今後も、この傾向は続くことから、パートナーやお客様、同業他社と一緒になって、サイバー攻撃による事件が起きにくくなる、起きたとしてもダメージが少なく、早く復活できる社会を作っていきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
前任の久保田則夫氏は、10年以上社長を務め、フォーティネットジャパンをセキュリティ市場においてトップ集団の一角の地位を確立するまでに成長させた。その久保田氏からバトンを受け取った田井社長には、大きな期待が寄せられている。その半面、プレッシャーが大きいことが想像できる。
さまざまなIT企業で要職を務め豊富な経験を持つ。20年11月に入社し、エンタープライズの開拓を任せられたが、「当社のことを知らなかったり、『FortiGate』が社名だと思っていたりする人もいた」という状況だった。それでも、その手腕で実績を積み上げ期待に応えてきた。
重視しているのはカスタマーファーストの考え。「カスタマーには、お客様はもちろんだが、社内の他部門の人など自分に携わる人も含まれる。カスタマーの期待を上回る成果を出すのが大事」。今後、寄せられる期待を上回る成果を上げ、フォーティネットジャパンをどのように進化させていくのか楽しみにしたい。
プロフィール
田井祥雅
(たい よしまさ)
1986年、東京工業大学工学部卒業。ソニーで開発、営業、企画などを経験後、DRM (デジタル著作権管理)技術企画の責任者として音楽配信の立ち上げに尽力。その後 SAS Institute Japanで執行役員ソリューション統括部長、IBMコンサルティングサービス(現日本IBM)で金融フロードコンサル、ソフォスで執行役員技術本部長、マカフィーで執行役員SE本部長、法人営業本部長、シスコシステムズでセキュリティ事業統括執行役員などを歴任 。2020年11月、フォーティネットジャパンに入社、副社長兼メジャーアカウント統括本部長に就任。22年7月より現職。
会社紹介
【フォーティネットジャパン】セキュリティ製品大手である米Fortinet(フォーティネット)の日本法人として2003年2月に設立。次世代ファイアウォール「FortiGate」はSMBからエンタープライズまで多くの企業が利用している。現在は、FortiGateに加えエンドポイントセキュリティやSASE、SD-WANなど幅広いソリューションを展開。従業員数は526人(22年9月30日時点)。