NTTデータ イントラマートは、「業務の自動化までできるローコード開発」をキーワードにビジネスを拡大させている。これまで訴求してきた価値が市場で認められるようになったためで、中山義人社長は「今までの取り組みが花開いてきた」と手応えを感じている。ローコード開発の案件の大型化などでビジネス環境が変化しつつある中、社内やパートナーの変革を進めてさらなる成長を狙う。
(取材・文/齋藤秀平 写真/大星直輝)
かつてない高みにいる
──23年3月期上期(22年4月~同年9月)の連結売上高は39億700万円と、上期として過去最高を更新しました。第3四半期まで累計の売上高は前年同期比3.5%増となり、引き続き拡大傾向にあります。まずは直近のビジネスの状況を振り返ってください。
絶好調で、かつてない高みにいると言っても過言ではありません。特にWebシステム基盤構築パッケージソフトウェア「intra-mart」の販売や保守などを含むソフトウェアセグメントの伸びが堅調で、売り上げは大きく増えています。導入企業は、今期末で9000社を突破する見込みです。これまでは一般法人分野が中心でしたが、最近は金融と公共の増加が目立っています。いずれも自動化の遅れが指摘されていた業界ですが、コロナ禍でデジタル化の機運が高まったことで引き合いが増えています。
──引き合いが増えている要因について、もう少し詳しく教えてください。
かねて訴求していた「業務の自動化までできるローコード開発」のキャッチフレーズが市場に浸透していることが要因としてあります。ローコード開発の領域は、現在、非常に注目されていますが、ローコード開発自体が目的ではなく、その先で何をするかが重要になります。われわれの製品は、ローコード開発とともに、目的となる業務の自動化をかなえるツールを提供しており、それが市場で評価されています。今まで進めてきた取り組みがすべて重なり、花が開いてきたと感じています。
大型案件への対応が課題
──ローコード開発というと、ほかのITベンダーも力を入れている領域ですが、対象や競合関係についてはどのように考えていますか。
われわれがターゲットにしているのは、どちらかというと基幹システムのフロント周りのローコード開発になるので、(業務部門による)“市民開発”とは少し違います。対象としては企業の情報システム部門やSIベンダーを想定しており、かなり高度な機能が求められます。さきほど申し上げた業務プロセスの自動化とローコードに関しては、他社も同じような機能を提供しており、競争は非常に激しくなっていますが、負けていないという自負があります。例えば、業務の自動化では、われわれの出自はワークフローなので、他社の製品よりきめ細かいつなぎ込みが可能になっており、しっかりと差別化ができています。
──さらに成長するために、何が課題だと認識していますか。
最近は、ローコード開発の案件が大型化しています。具体的には、スクラッチ開発で対応していたような数億円以上の規模の案件をローコード開発したいというニーズが出ており、20人や30人といったチームでの開発への対応が必要になっています。開発内容の重複を避けたり、工数を管理したりするような機能が求められるようになっているので、製品の開発には重点的に投資しています。
あとは何を自動化するのか、どのように競争力を伸ばすかといった部分について、上流工程でコンサルティングの要求があり、お客様に伴走することが重要になっています。システムが稼働したところをスタートとし、ゴールに至る過程に寄り添うことにしっかり取り組まなければならないと認識しています。人に対しては今まで以上に焦点を当てなければならないので、採用の強化や人材の育成を進めています。
──ツールを提供するだけでなく、顧客に寄り添う姿勢はパートナーにも求められると思いますが、各パートナーの意識や支援の状況はいかがでしょうか。
われわれは国内外で200社を超えるパートナーネットワークを保有しています。その中で、感度の高いSIベンダーは、変化の流れを捉えていて、場合によっては自分たちのビジネスモデルにインパクトが出るとみています。ただ、全てのパートナーが同じように理解しているわけではありません。お客様がDXの実現に向けて内製開発にシフトしつつあり、今までの一括請負とは収益のあげ方が変わる可能性がある中、どう動くべきか悩んでいるパートナーは多いです。そのため、社内向けと同じようにパートナー側でも人材を育成し、自分たちのビジネスに合うように拡張してもらうことなどに取り組んでいます。
──大規模なローコード開発においては、パートナーであるSIベンダーの存在や役割はどのように変わるとみていますか。
大規模なローコードでは、SIベンダーがいないとシステムを構築できないのが実態です。お客様は、SIベンダーに丸投げで開発を依頼する状況がありましたが、これからは自分たちでITの主導権を持ち、どのようなシステムが必要かを考え、ベンダーに発注していくことが増えるとみています。そうなった場合、SIベンダーは引き続き重要な存在となりますが、担う役割には変化が出てくると思っています。
「グローバル」を視野に
──21年から本格的に活動を開始したユーザー会「IMUG(あいまぐ)」を設立した狙いを教えてください。
お客様にとっては、昔はメーカーやSIベンダーからの情報を知っていれば問題ありませんでしたが、各企業がDXの実現を目指す今は、それぞれが固有の強みを生かした正解を探しています。他社がどんなことをしているのか、あるいはどういう風に実現したのかといった情報は非常に大切です。これはわれわれとだけの付き合いでは提供できないため、お客様同士が交流できるユーザー会を設立しました。参加企業の状況を見ると、管理職だけでなく、現場の社員も出ているので、上から言われてDXに取り組むのではなく、それぞれが自分事として捉える状況が生まれています。
──今後の目標を聞かせてください。
個別業務だけを改善しても、全体を変えることはできず、結局、DXは実現できないと考えています。全体最適につなげるためには、大規模なローコード開発が必要で、今後、ニーズはさらに伸びていくとみています。市場では、グローバルベンダーが競争相手になっていくことが予想されるので、われわれのソリューションをグローバルでも競争力があるレベルまで引き上げることを目指します。今は売り上げの9割以上が国内となっていますが、北米や欧州で成果が出始めています。製品の強化と並行してビジネスのグローバル化にも力を入れていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長として「長期的な成長に向けた投資」を常に念頭に置いてきた。中にはどうなるかわからないものもあったというが、「必ず芽が出ると信じてきやってきた」と振り返る。
世の中がDXに向けて動き出す中、これまで個別に進めてきた取り組みが重なり、成果が出始めている。各企業の状況を見ると、創業の原点となった「競争力の源泉となる企業固有の強みを伸ばしたい」との思いに「ようやく時代が追い付いてきた」と感じる。
グローバル展開など、花が咲くまでにまだ時間がかかる取り組みは少なくない。周囲からやめるように言われることもあるが、信じた道は簡単にはあきらめない。
会社を設立してからすでに20年以上がたった。事業展開のポイントを聞いたところ「途中でやめず、成功するまで続けることが大事だ」と教えてくれた。現状は「いいかたちになっている」が、それに満足することなく、これからも将来を見据えて挑戦する。
プロフィール
中山義人
(なかやま よしひと)
1966年6月、山梨県生まれ。92年4月、旧NTTデータ通信(現NTTデータ)に入社。2000年2月、NTTデータ イントラマートを設立。01年、同社代表取締役社長に就任。09年、NTTデータ・ビズインテグラルを設立、代表取締役社長に就任。21年3月、東京大学大学院博士課程(工学系研究科先端学際工学専攻)を修了。MIJS理事。
会社紹介
【NTTデータ イントラマート】NTTデータの社内ベンチャーとして事業を開始。Webシステム基盤構築パッケージソフトウェア「intra-mart」の開発・販売を主な事業として展開。2022年3月期(21年4月~22年3月)の売上高は76億5300万円、営業利益は8億4300万円。国内外におけるintra-martの導入実績は同月末時点で8900社を突破。