ランサムウェア攻撃に対する最後のとりでとしてバックアップ/リカバリーソリューションの重要性が高まっている。その老舗ベンダーである米Veritas Technologies(ベリタステクノロジーズ)の日本法人で、今年4月からトップを務める金光諭佳社長は「30年以上にわたる信頼と実績を基に、どんな環境のデータも守るソリューションを展開する」と意気込み、パートナーとの協業を通したさらなる成長に取り組んでいる。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
顧客の選択肢を阻害しない
―― ビジネスの近況を教えてください。
非常に好調で、就任以来、本社の期待以上の成長ができています。コロナ禍の収束や半導体供給の問題が解消されたことが成長要因に挙げられますが、非常に大きいのはランサムウェア攻撃の脅威拡大です。
現在、企業がフォーカスしなければならないデータ量が莫大になりつつあります。それに加えて、オンプレミスやクラウド、ハイブリッドクラウドといった多様な環境で事業を展開する中、ランサムウェアへの対応が迫られています。そうした状況下で、当社は「お客様の選択肢を阻害しない」ことを開発のポリシーとしており、顧客がどのような環境でどのようなテクノロジーを使っていたとしても、それに対応するデータ保護のソリューションを提供することを基本理念としています。
IT業界では、あるときは仮想環境、あるときはオープンソースのデータベース、そして現在はクラウドというようにトレンドが移ってきましたが、いずれの環境であってもカバーできることが当社の優位性であり、顧客に評価されるポイントです。
―― 顧客はデータ保護に関して、どのような課題を抱えているとお考えですか。
複雑な環境下でデータを保護・管理する上で、採用を検討すべきソリューションの数は膨大です。そこから最適解を導き、運用できる高度な知見を有した人的リソースを確保することは、顧客にとって課題となるでしょう。
そうした課題への支援として、自社のソリューションに関してはデータ管理を自動化するためのAIの開発が進んでいます。また、昨今のサイバー攻撃の情勢から自社だけでカバーできない領域に対しては、パートナーとの協業を積極的に進めることでサイバーレジリエンスの包括的な向上を後押しします。
直近ではデータ保護やデータガバナンス、データセキュリティを統合するレファレンスアーキテクチャー「Veritas 360 Defense」を発表しました。ランサムウェア攻撃に対するサイバーレジリエンスという観点では、バックアップを取るデータの安全性や、データ復旧後の環境がセキュアであることが必要となり、セキュリティとバックアップの統合が有効です。Veritas 360 Defenseは、セキュリティパートナーのソリューションと当社のソリューションの統合性を検証した上で、ベストプラクティスと開発の設計図を提供します。顧客やパートナーの導入や運用の負荷を軽減し、安全なアーキテクチャーの利用が可能になります。
これは当社が顧客のサイバーレジリエンスの向上を支援する取り組みとして、あくまでスタートラインとなります。今後は、当社ならではの知見も盛り込みながら、継続的な取り組みを進める計画です。
オンプレミス/クラウドの双方に注力
―― 昨年、クラウドデータ管理プラットフォーム「Veritas Alta」を発表されましたが、今後はクラウドのバックアップソリューションの提供に注力していくのでしょうか。
確かに、Veritas Altaの提供に力を入れていますし、顧客やパートナーからの問い合わせも非常に増えています。だからといって、これまで強みとしてきた「NetBuckup」を始めとしたオンプレミスのバックアップソリューションの提供に力を入れないというわけではありません。強調したいのは、顧客からの要求に応じて、当社はより幅広い方法でデータを保護できるようになったということです。市場ではオンプレミス、クラウド、ハイブリッドクラウドのいずれもバックアップを取りたいという要望が高まっています。Veritas Altaが加わったことで、そうしたニーズに応えることができています。
―― Veritas AltaはSaaS型で提供されますが、顧客層に変化はあるのでしょうか。
当社が従来、得意としていたのはエンタープライズであり、Veritas Altaもメインのユーザー層は変わらないと考えています。ただし、SaaSで提供するため、成長企業など、より幅広い顧客に利用が進むのではないかと考えており、さまざまなポテンシャルを秘めていると捉えています。今後、市場の反応を見ながら、可能性を探りたいです。
―― オンプレミスやクラウド環境に対するバックアップやデータガバナンスなど、幅広いソリューションを提供しています。こうしたソリューションの広がりをどのように顧客に訴求しますか。
それぞれのソリューションがどのようにビジネスに貢献できるか、顧客やパートナーに丁寧に説明していくことが第一になるでしょう。オンプレミスが得意なパートナーやクラウドが得意なパートナーがいますし、顧客からのニーズも業界によって異なります。必要なソリューションに的確にアクセスできるように、しっかりとセグメンテーションしキャンペーンを展開していきます。
また、データの保存環境を問わず統合管理が可能なことを、訴求していきます。いざ復旧が必要な緊急時にツールが統合されてなかったり、人に依存したオペレーションが強いられたりしてはならないので、オンプレミスやクラウド、ハイブリッドクラウドといったさまざまな環境のデータの保護を一つの管理コンソールに統合されたかたちで可能にしています。
30年にわたって蓄積した知見を生かす
―― 販売チャネルの拡大にはどのように取り組まれますか。
オンプレミスからクラウドまで、われわれが提供できる価値を全て自力で顧客に届けるにはやはりリソースが必要なので、パートナーによる間接販売を重視していく方針です。お互いのビジネスの方向性をすり合わせ、双方にとって価値のある取り組みを探っていきながら、パートナーエコシステムの拡大に力を入れます。
具体的な取り組みとしては、昨年と比べても技術的な支援の場を提供する機会を増やしています。顧客の課題に対して当社で実現できることを正しく理解してもらう場を、さらにスピードを上げながら提供していきたいと思っています。
また、パートナープログラムの拡充も図っていきます。これから当社が注力したい業界に対してはプログラムを充実させることで、お互いの利益の最大化を目指していきます。先日もMSP(マネージドサービスプロバイダー)向けのプログラムの拡充を発表しましたが、こうした取り組みを増やしていきます。
―― 今後のビジネスの成長に向けて、どのようなことに取り組みますか。
まずは、日本市場の顧客の声をグローバルにしっかりと届けていきます。現状でもグローバルから発信される情報に、日本市場からの声が反映された例がありますが、その数を増やします。日本市場で生まれた課題が、グローバル全体の課題として共有され、ソリューション開発に反映されていくようなリージョンにします。
また、30年にわたってバックアップ市場のリーダーポジションにあることを生かしたいです。当社には有事の際に顧客を支援するための知見が蓄積されており、適切にデータを保護する上で、顧客が気づいていない潜在的な課題を含めて支援の方策を知っています。この知見から提供できる付加価値をどのように育て、顧客へと還元していけるかにチャレンジします。
顧客やパートナーからの引き合いの状況を考えると、ビジネスチャンスを拡大する余地がまだまだあります。それを自社や現在のパートナーのスキームで全て拾い上げることは難しいでしょう。一つでも多くの顧客の課題を解決できるように、既存の仕組みを深化させ、新しい仕組みをつくっていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「停滞があまり好きではない」という。自身の性格については、「やるかやらないかという選択肢があった時に、ひるまずにやれるタイプ」と分析し、「変化に挑むことへの積極性が評価され、(現職のポジションへの)就任につながったのだろう」と話す。
ただ、性急に変革を進めるデメリットには注意を払う。顧客の大事なデータを守る企業として「変革によって顧客の事業環境にも変化を強制してしまうことがあってはいけない」。同じように組織マネジメントの面でも「ただ変わることを強制したくはない」という。長年にわたって積み上げてきた知見やノウハウを掘り下げていけば、生かしきれていないポテンシャルが多くあるはずで、「やれることはまだまだある」と語る。パートナーや顧客との関係性の中でそうした知見を生かし、活用する仕掛けに積極的に取り組む。
プロフィール
金光諭佳
(かねみつ ゆか)
米Ericsson(エリクソン)やフィンランドNokia(ノキア)の日本法人などで営業部門を統括し、その後米CloudBlue(クラウドブルー)日本法人でカントリーマネージャーとして新規ビジネスの立ち上げに従事。2023年4月から現職。
会社紹介
【ベリタステクノロジーズ】米Veritas Technologies(ベリタステクノロジーズ)は1983年に創業。Fortune Global 500社の87%を含む、グローバルで8万社以上の顧客に、データ保護やデータガバナンス、コンプライアンスの確保を支援するソリューションを提供する。