オートメーションプラットフォームの提供で存在感を示す米UiPath(ユーアイパス)日本法人は、顧客の支援の対象を、一部の定型業務の自動化から、全社的なビジネスプロセスの改善へと広げている。2月に就任した南哲夫カントリーマネージャーは「非定型業務を効率化するAIと定型業務を自動化するロボットの組み合わせで市場機会は拡大する」との見方を示し、コンサルティング部隊の強化やパートナーとの連携で商機をつかむ構えだ。
(取材・文/大畑直悠 写真/馬場磨貴)
RPA前後のプロセスを最適化
――RPAを取り巻く市場環境をどのように見ていますか。
実は入社前にユーアイパスに対して不安に思うところがありました。それは、日本法人がビジネスを本格化し、政府による働き方改革の推進や企業のDXの進展が追い風となって、RPAによる業務の自動化の支援で確固たる地位を築いていた一方で、顧客の中には、RPAでできることはやり尽くしてしまい、この先は何に投資すればいいかという迷いが生まれていると感じたからです。
加えて、生成AIが登場したことで、この技術で何もかもできるようになるのではないかという期待が広がったタイミングでもあり、ユーアイパスが果たすべき役割が改めて問われる時期でした。しかし、RPAと生成AIがそれぞれ得意なことを組み合わせたビジネスを展開することで、ユーアイパスに多くのチャンスがあると今は確信しています。既に顧客の中でもRPAを中心に、その前後のプロセスに生成AIを含むAIを当てはめようとする動きが広がっています。
――生成AIとRPAの組み合わせで何ができるのかもう少し教えてください。
生成AIに優位性があるのは非定型的な業務の部分です。例えば、出張費を精算する場合、正しい手順で進めるために、必要に応じてチャットなどで生成AIと対話してガイダンスを受ける使い方が考えられます。その後、経費精算システム上で実際に申請され、内容をチェックする段階になると、定型業務であるためRPAが向いており、必要な情報を参照して、宿泊費の上限や支給される日当のルールに沿っているかを確認し、エラーがある場合はメールやチャットでアラートを出してくれます。
これまでRPAは、各定型業務でまばらに利用されることが多かったのですが、生成AIを活用して非定型業務の支援も可能になったことで、一続きの長いプロセス全体を最適化できるようになります。各業務システムでAIを活用し、システム間のつなぎ目の部分で、情報の照合や必要なデータの出し入れをロボットに担わせることで、これまで以上に顧客の生産性を向上します。
「三位一体」で顧客基盤を拡大
――顧客へのアプローチの方法に変化はあるでしょうか。
当社はRPA製品による自動化だけに注目されがちですが、われわれが提供する価値の本質は顧客のBPR(業務プロセスの再構築)であることをもっと前面に出す必要があります。そのためにはコンサルティング機能を強化して、従来、大部分を占めたパッケージとSIだけではなく、より付加価値の高い提案型のビジネスに力を注ぎます。これはグローバルで進めている戦略で、日本法人もこれに合わせて、まずはパートナービジネスに力を入れ、当社だけではカバーできない部分は協業を通して展開します。特にコンサルティングファームやグローバルSIパートナーとの連携に焦点を当てる方針です。もちろんこれまでRPA市場で一緒に成長してきたパートナーとの関係は引き続き重要ですが、顧客の全社的な変革を一緒に担うことができるパートナーの開拓にアクセルを踏んで取り組みます。
当社のオートメーションプラットフォームとAIの組み合わせは、今後のセールスの主軸になると考えています。難しい案件はわれわれのコンサル部隊が先陣を切ってチャレンジしつつ、パートナーの持つ知見を組み合わせます。マーケティング部隊がこれをサポートし、三位一体となって成功例をつくり、そこから顧客基盤を拡大していきます。
――提案型のビジネスを進める上で、チャレンジとなる点はありますか。
注意しなければいけないのは、自動化すべきではないプロセスをしっかりと見極めることです。例えば製造業では、品質や精度などの価値を人が介在するプロセスで生み出している場合が多々あり、自動化してしまうとこの価値を担保できなくなる恐れがあります。顧客への提案を進める上で、ビジネスプロセスの中の何が競争力の源泉になっているかを、われわれがしっかりと理解しなければなりません。
――AIとRPAのビジネスでまず芽が出そうな領域はどこでしょうか。
一連の業務プロセスの中でドキュメントの処理を最適化する「IDP(Intelligent Document Processing)」と呼ばれる領域に関心を持つ顧客は非常に多いです。具体的には、オートメーションプラットフォーム上で提供する、アプリケーションのデータを用いてビジネスプロセスを可視化する「Process Mining」や、デスクトップの操作を分析する「Task Mining」、ビジネスコミュニケーションをAIで分析してインサイトを提供する「Communications Mining」を用いて、改善する余地があるプロセスを明確にし、最適な処理の仕方を深掘りします。ここで発見した課題に対し、AIを活用してPDFやスキャン画像といったさまざまなドキュメントからテキストを抽出、分類、処理できる「Document Understanding」によって情報を活用できる状態にしてから、RPAによってドキュメント処理のプロセスを改善することで、マニュアル業務を削減できます。
業界特化型の販売戦略を強化
――今後の成長に向けてどのような戦略を推進しますか。
業界特化型の販売戦略を強化したいと考えています。人事管理や経費精算のようなホリゾンタルな領域だけではなく、製造業における品質管理の申請など各業界に特有のプロセスに対応していきます。
これを進めるためにパートナー戦略においても、業界ごとのシナリオを明確にしなければなりません。これまではERP周りの変革などのように、特定箇所に対して漠然と協業するケースがあったので、各業界のニーズに沿って、より具体的な価値を顧客に届けられるようにします。
――中堅・中小企業向けにはどのようにアプローチしますか。
ここでもパートナーチャネルを重視し、われわれのマーケティングやインダイレクトセールスと連携しながらニーズを掘り起こしていきます。また、当社は多様なノウハウを蓄積していますが、これをまとめ上げることができておらず、宝の持ち腐れとなっていることは否めません。しっかりと体系化し、パートナーと共有しながらアプローチします。
――今後の抱負を教えてください。
顧客の労働生産性を向上して、人口減少などの社会課題に少しでも寄与する仕組みを提供できる会社にしたいです。DXには三つの柱として、クラウド人材の確保、サービスや製品のデジタル化、ビジネス変革の推進に人材を割ける仕組みの構築があると考えています。特に重視しているのは三つめで、人材が不足している企業は、実は問題が人材のポートフォリオにある場合が多いです。優秀な人材が業務に追われてリスキリングなどができず、必要な場所に動かせない結果、エッジの効いたサービス・製品の提供やスピード感のある経営が難しくなっていることがあります。
当社は単にRPAなどを提供して終わりではなく、コンサルティングから入って、業務の自動化などで顧客の生産性を高め、ビジネス変革を担うことができる人材をバックオフィスから解放してDXの推進に人材を割り当てられるようにするところまで支援できる企業を目指します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
これまで大手クラウドベンダーで要職を歴任し、日本企業のDXに関わってきた。さまざまな企業を支援する中で、日本企業には品質の高いサービスや製品をつくり出すポテンシャルがある一方で、事業を改革する部門に必要なリソースを注げていないために足踏みしていると感じたという。
日本企業の生産性の向上は長年にわたる課題だが、「ユーアイパスに入社したのは、カントリーマネージャーに就任したかったからではなく、これを解決したい一心から」と力を込める。長年にわたってIT業界の一線で活躍してきた経験を生かし、AIと自動化で日々の業務を削減し日本企業の成長に弾みをつけたいとの思いを強くしている。
プロフィール
南 哲夫
(みなみ てつお)
兵庫県出身。1990年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、新日本製鉄(現日本製鉄)に入社。その後、日本マイクロソフト、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパンなどを経て、2023年にUiPathに入社。24年2月から現職。
会社紹介
【UiPath】米本社は2005年にルーマニアで創業。「より多くの人々が、より創造的、協調的、戦略的に働けるよう、あらゆる知的業務をレベルアップさせる」をミッションとする。日本法人は17年に設立。国内に五つの拠点を持つ。