OKIグループで保守運用サービスを担うOKIクロステックは、7月から全国で本格稼働を始めた新札対応の現金処理機の安定稼働に大きな役割を果たしている。銀行ATMやセルフレジ、券売機などさまざまな分野で現金処理機は使われており、全国約180カ所の拠点網をフルに生かして安定稼働を支える。保守運用サービスを通じて顧客の信頼を勝ち取るとともに、OKIグループの主要なリカーリング(継続収益)ビジネスを支える重要な役割も担う。近年では医療機器や、電気自動車向けの充電設備の保守運用など独自領域への進出にも果敢に取り組んでいる。
(取材・文/安藤章司 写真/馬場磨貴)
保守運用で信用を勝ち取る
――7月から新紙幣が流通し始め、新札対応の現金処理機の稼働も本格化しています。現金処理機はOKIグループが強みとしている製品で、その保守運用を担うOKIクロステックの仕事はまさにこれから本格化する見通しです。
メカトロニクス製品は現場で実際に動かしてみないことには、正しく動作するかどうか分からないところがありますので、全国をカバーする当社の約180の保守運用の拠点をフルに生かして安定稼働に努めています。
――先日、OKIグループの役員懇談会の席上で、OKIの社長(森孝廣社長)が7月に現金処理機の保守運用を指揮する対策本部を240人体制で立ち上げたと話していました。「納入してからが本番」という強い意気込みを感じました。OKIクロステックが実質的な“実働部隊”だと伺っています。
現金処理機の設計製造の過程で新札サンプルを使った動作試験をメーカー内で何度も行っていますが、それでも新札が市中に出回ったあとの汚れ具合、折れ曲がり具合で想定外のことも考えられます。OKIグループの保守運用を担う会社として、メーカーと密に連携して対応しています。現金処理機は、銀行ATMや小売店のレジ、出納機など現金を扱うさまざまな機械に組み込まれており、現場で本稼働した後も全国サポート網を駆使してしっかり保守運用を行うことで、ユーザー企業からの信頼を勝ち取っていく所存です。
――ほかにどのような製品の保守運用を手掛けていますか。
一番ボリュームが大きいのは、OKI本体のエンタープライズソリューション事業セグメントが手掛けている銀行ATMや現金処理機で、次がOKIパブリックソリューション事業セグメントが担っている自治体向けの防災無線や高速道路で料金を徴収するETC(電子料金収受システム)、航空管制、ほかにはOKIコンポーネントプロダクト事業セグメントのプリンターやPBX(構内電話交換機)などが主要製品です。OKIグループ以外に向けた当社独自ビジネスとしてIT機器の保守運用、電気工事なども請け負っています。
直近の売上高構成比をざっくり申し上げると、OKIクロステック売上高全体のうちOKIグループ連携ビジネスが7割、外部顧客向けビジネスが3割を占めています。OKIグループ関連の売上高では、エンタープライズソリューション事業セグメント関連が約60%、パブリックソリューション事業セグメントとコンポーネントプロダクト事業セグメントがそれぞれ約20%を占めるイメージです。
セルフ化、省人化にチャンス
――OKIグループのビジネスを俯瞰すると、今回の現金処理機のように更改期が終わると次の更改期までそのビジネスが落ち込んでしまう需要の波の影響を受けやすい印象があります。
防災無線やETC関連などは計画された更改期があり、そうした大型案件の反動減は確かに存在しますが、一方で当社が担う保守運用サービスは次の更改期までずっと続くリカーリング型ですのでOKIグループ全体の収益の安定化、平準化に貢献する非常に重要な立ち位置を担っています。
――安定収益という点では優秀な保守運用ビジネスですが、売り上げ伸び率で見た場合はどうですか。ハードウェアの単価が大きく上昇しない中、保守運用の売り上げの伸び率も限られるのではないでしょうか。
製品ごとの保守費用という目線で見ればその通りですが、保守運用サービスを必要とする場面は増えています。分かりやすい例がセルフ化、省人化です。少子高齢化で働き手が減るなか、セルフレジや無人店舗、ビル警備や配膳で使うサービスロボットなどは今後も増え続けることが期待できます。OKIグループはこうした分野のハードウェアや、制御ソフトウェアの開発に長けており、当社の保守運用サービスとセットで展開していくことで新しい需要、新規売り上げを獲得していきます。
――キャッシュレス化の流れの中で、銀行ATMや現金処理機の稼働台数が減り、ペーパーレス化で印刷ボリュームが伸び悩み、ひょっとしたらチケットレス化で鉄道の券売機や精算機も減るかも知れません。
銀行ATMや券売機など専用端末に相当する設備はなくならないとみています。むしろ店舗や駅の無人化が進めば進むほど、それまでの店員や駅員の役割を担い、お客様とのコミュニケーションを行う端末の多機能化が進むのは間違いありません。多機能型の端末にはプリント機能が内蔵されることが多いため、OKIクロステックがこれまで手掛けてきた専用端末やプリンターの保守運用ノウハウを生かせるでしょう。
とはいえ、端末やプリンターの全体的な稼働量は減る可能性はありますので、OKIグループ連携のビジネスとは別に、当社独自に新領域を開拓していく努力も従来以上に行っていきます。
新しい分野にも果敢に挑戦
――独自ビジネスで有力視している分野を教えてください。
医療機器や電気自動車の充電ステーションなどの分野です。医療機器は人命に直接関わることから保守や修理を行うのにメーカー認定の資格や実務経験が問われますので、それなりに参入障壁が高い。さらに、医療機器のスタートアップや外資系メーカーが新規参入するケースでは、全国をカバーする保守網が十分でないケースが多く、当社が保守を担うこともあり得ます。
充電ステーションについては、パナソニックと充電設備のシェアリングサービスで使用する設備の保守運用サービスにおいて2023年11月に業務提携しています。パナソニックが手掛けて電気自動車用の充電設備を貸したい人と、電気自動車ユーザーをつなぐプラットフォームサービスで、当社は充電設備の保守運用を全国規模でサポートする役割です。電気自動車の普及状況がどうなるのかまだ見えないところはありますが、早いタイミングでノウハウや知見を蓄積して競争優位性を獲得していきたい。
――冨澤社長ご自身のキャリアについて話していただけますか。
実は同じ部署に5年以上いたことがないんです。新卒入社でOKIに入ったのですが、それも群馬県の実家近くにOKIの大きなビルがあって、「ここだったら実家から近いしいいかな」と思ったのも束の間、開発部門や商品企画、本社の経営企画、そしてブラジル赴任など数多くの異動を経験させてもらいました。今年4月にOKIクロステック社長に着任する直前までは、OKIグループ連携で最も接点の大きいエンタープライズソリューション事業部を担当していました。
――大学では理工系だったのですよね。
そうです。当初は群馬県にあるOKIの工場でネットワーク機器の開発を担当していました。日本のメーカーは海外の国際標準化団体が制定した規格に準拠した製品を開発するフォロワーの立場に甘んじることが多く、駆け出しだった私はそれが気に入りませんでした。そこで会社の許しを得て米スタンフォード大学のコンピュータ科学の研究生として渡米し、標準化団体で一時期活動していました。1990年代のインターネットがまだ主流ではなかった頃、遠距離通信でよく使われていた非同期転送モードの規格化で一応の成果をあげるものの、結局その規格は国内でしか使われませんでした。
ただ、ビジネスを有利に進めるためにも新しい分野に果敢に挑んでいくことは今でもとても大切だと考えています。OKIクロステックの保守運用ビジネスにおいても、人材育成を含めて新しい分野に挑戦し、活躍できるよう取り組んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
銀行ATMや現金処理機、防災無線、プリンター、PBXなど数多くのメカトロニクス製品を開発しているOKIグループ。客先に納品したり、他のメーカーにOEM供給したりした後も、期待どおり稼働しているかどうか、常に関わりを持つことを重視しているのが同社グループの特色でもある。
このOKIグループの特色を支えているが、「全国に保守網を展開するOKIクロステックであり、安定稼働を通じてユーザー企業の信頼の獲得していく」と冨澤社長は話す。メカトロニクス製品は更改期に売り上げが集中する傾向にあることから、次の更改期まで保守運用で安定収益源を確保するとともに、「医療や電気自動車などの分野で独自ビジネスの開拓にも力を入れる」方針。
キャッシュレス化、ペーパーレス化などメカトロニクス製品の事業環境が大きく変わろうとしているなか、保守運用サービスもこれまでとは違う新しい領域へ進出していく必要に迫られている。
プロフィール
冨澤博志
(とみざわ ひろし)
1963年、群馬県生まれ。85年、東京大学工学部卒業。同年、沖電気工業(OKI)入社。2010年、システム機器事業本部企画室長。14年、OKIブラジル副社長。17年、OKI執行役員メカトロシステム事業本部副本部長兼海外メカトロシステム事業部長。20年、コーポレート本部副本部長。23年、常務執行役員エンタープライズソリューション事業部長。24年4月1日、OKIクロステック代表取締役社長執行役員に就任。
会社紹介
【OKIクロステック】OKIグループの保守運用などを担う。全国180拠点を展開しメカトロニクス製品などの安定稼働を支えている。1960年設立。連結従業員数は約3000人。