ストレージをはじめとしたデータインフラストラクチャー製品を提供する米NetApp(ネットアップ)が存在感を高めている。強みを持つNASだけでなく、SANでもポートフォリオを拡大。日本法人は、国内でもAIのビジネス実装が進むことで、データをより活用しやすいかたちにITインフラを刷新していく企業が増えると展望。ストレージの種類や、オンプレミス/クラウドの違いを問わず、データを一元的に管理できる仕組みを提供し、サイロ化していたストレージ環境を統合できるソリューションとして訴求を強化している。
(取材・文/堀 茜 写真/大星直輝)
効率的なデータ活用を支援
――社長に就任して5年を迎えました。振り返っていかがですか。
この5年間にいろいろなことがありました。最も大きかったのはコロナ禍です。リモートワークが浸透してクラウドの利用率が上がり、ハイブリッドクラウドの導入が進みました。ハイブリッド/マルチクラウドの世界では、データをどう管理するかが非常に重要です。この5年間でよりデータの重要性が高まり、本格的なデータドリブンの世界に入りました。今進んでいるAIの導入では、データがさらに重要になります。そういった意味で当社は非常にいいポジションにおり、お客様が必要とするデータインフラの構築を支援しています。
――顧客の需要に変化はありますか。
コスト重視という視点は変わらずありますが、それに加えて、サステナビリティーの優先順位が高まっています。限りあるエネルギーや、データセンターのキャパシティーをどうするかという大きな課題が出てきています。
お客様はストレージに対して、データをいかに効率的に使える製品であるかという点を求めています。できるだけデータを圧縮し、同じスペースの中でさらに効率を上げていく必要があります。同時に、データをオンプレミスに置くかクラウドに置くか、フラッシュを導入したほうがいいのかといったように選択肢が広がっていますが、当社は複数のオプションから最適なものを選べるようにしています。
AIに最適なインフラを構築
――製品展開の方針を教えてください。
ネットアップにはNASのイメージがあるかもしれませんが、SANにも注力しており、調査会社のレポートによると、オープンシステムの外付けストレージ市場全体では、出荷容量シェアで首位を獲得しています。当社が9月に開催したグローバルイベントでは、SAN専用に最適化したASA(All-Flash SAN Array)シリーズで、フラッグシップ製品の新製品を発表しました。SANは成熟した技術である一方、多くのお客様はデータのサイロ化という課題を抱えており、AIをうまく利用できるインフラへの変革が求められています。今後AIの活用が増える中で、SANの市場でもシェアを伸ばしていくことが顧客の価値創出につながり、当社のビジネスにとっても大きな可能性があると考えています。
――日本企業のAI実装はどんな段階にあるとみていますか。
グローバルと比べて若干遅れていて、今はPoC段階のプロジェクトが多いと思います。日本は、多様な業種・業界にデータが蓄積されており、AIの活用ではポテンシャルが高いです。これから全ての企業がAIカンパニーになっていき、AIドリブンが当たり前になっていくでしょう。しかし、様子見で周りの動きを待っているようでは後れを取ってしまいます。日本企業の飛躍を支援していきたいです。また、AIをより早く推進するにはベストプラクティスが必要です。どう構築すればいいのか、どんなインフラが必要なのか、最適な方法が求められています。われわれはそれをできるだけシンプルにしています。
――ストレージメーカーとして、AI推進のためにどんな支援をしていますか。
AI時代に顧客が必要とするのは、データをより活用できる環境です。AIをエンタープライズレベルでビジネスに実装するには、AIをいかにデータのそばに持ってくるかがかぎになります。
ストレージはITインフラの一部ですが、AIのためにデータ全体のインフラをどう構築するかという観点で、当社では「インテリジェントデータインフラストラクチャー」という考え方を提案しています。これは、ストレージも、データマネジメントも、セキュリティーも含め、環境を問わずあらゆる場所にあるデータをシンプルに管理し、新たなサイロをつくることなく高いパフォーマンスを提供しAIを推進するためのソリューションです。
――AI時代に求められるストレージとして、ネットアップの強みは何ですか。
管理しやすいデータマネジメントの体制です。当社は、ストレージ用オペレーティングシステムの「ONTAP」を長年提供しており、お客様にも高く評価していただいています。ONTAPは、どの製品でも同じ運用形態で使うことができます。データの価値が横に広がり、運用の負担は減り、環境を問わずセキュリティーポリシーを統一することができる。ハイパースケーラーが提供しているクラウド上のデータも、ONTAPで連携が可能です。
当社は、1人の情報システム担当者でもストレージ関連のインフラを管理できるようにしたいと考えています。現状は、SANとNASの運用は別々のチームで行っていることが多いと思いますが、ONTAPでそれを統合できます。構築も運用もシンプルにできる製品は、人手不足が深刻な日本においては非常に役立つと思っています。
――AIに最適化したデータインフラの再構築の動きは、国内ではどの程度ありますか。
当社のチャネルパートナーは、皆さんAIをビジネスチャンスだと捉えています。それをどう実現していくか、当社とパートナーが一緒に今取り組んでいるところです。ステップを踏んで、時間をかけて進めていくことになりますが、間違いなく動き始めています。AIはデータがないと動きません。AIのためにデータを適切に管理する体制の必要性をメッセージとして発信してきたいです。
パートナーとビジネスを伸ばす
――最近は製品のセキュリティー機能を特に強化しているように見えます。
私たちは、セキュリティー、さらにデータレジリエンスがとても大切だと考えています。情報システムを保護するにあたり、最終的にデータがどこにあるかということを考えると、攻撃者のアタックポイントはストレージになります。最後のとりでとして、ストレージをしっかり守っていくことが義務になります。そのため、高いセキュリティー機能をストレージ製品にもONTAPにも入れています。ワンクリックで機能を開始でき、追加のコストは必要ありません。当社の製品は最もセキュアなデータストレージだと自信を持って言えます。
――従量課金型のストレージサービス「KeyStone」のニーズはいかがですか。
今とても伸びていて、2024年は昨年比で3倍程度と伸び率は高いです。コストだけではなく、運用面での利便性も支持されています。KeyStoneはオンプレミスのストレージを“as a Service”で提供するモデルですが、クラウドとの連携が非常に優れているのも特徴です。クラウド移行を考えるお客様が、その最初のステップとしてKeyStoneを使うというケースもあります。
――パートナービジネスの戦略を教えてください。
パートナーコミュニティーは非常に大きく、400社以上です。当社のソリューションがどんどん広がってきているので、用意しているコンピテンシー(定義されたスキルや知見)をパートナーに取得していただいています。パートナーコミュニティーを盛り上げ、お互いにビジネスを伸ばしていきたいです。
――パートナーに期待する役割は何でしょうか。
専門性を高めていただき、お客様の価値を一緒につくっていくことを最も重視しています。データインフラは複雑な世界になっていますが、当社はそこをできるだけシンプルにしたいと思っています。この考え方をお伝えすることで、パートナーにもお客様にもネットアップのファンを増やしていきたいですね。
――これからの目標をお聞かせください。
顧客の満足度を高めることが最優先事項です。それができれば、自然とビジネスも成長していくでしょう。ネットアップの製品は、業種を問わずあらゆる業界で使っていただいていますが、データの扱い方は業種・業界によって異なる面もあります。今後は、業種や業界に特化した対応も重視していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
イラクで生まれ、ヨルダンで育ち、英国の大学で学んだ後に来日した中島社長。30年以上過ごした日本での日々を「たくさんの出会いに恵まれて素晴らしい時間を過ごしてきた」と振り返る。自然の美しさや、住んでみなければ分からなかった日本ならではの文化や、やり取りの機微もとても気に入っているという。
ビジネス面では「日本企業のポテンシャルはとても大きい」と力を込める。「グローバルでリーダーシップを取れる可能性のある人材も会社もある」とみており、その支援をしたいと考える。ネットアップについては「風通しがよく働きやすい」。日本法人で働く仲間とともに、自社のビジネスを伸ばすことで「日本社会全体の競争力アップに貢献したい」と力強く語った。
プロフィール
中島シハブ・ドゥグラ
(Shihab Douglah Nakajima)
イラク出身。英国の大学を卒業後、1991年に横河電機に入社し、化学や電力関連の設計、エンジニアリング関連のプロジェクトを経験。2000年に米Cisco Systems(シスコシステムズ)日本法人に移り、専務執行役員コーポレート事業統括や専務執行役員サービス営業統括などの要職を歴任。19年12月から現職。
会社紹介
【ネットアップ】米NetApp(ネットアップ)は1992年設立。カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、データインフラストラクチャー企業としてストレージやデータ管理ソリューションを提供。特にNAS製品は業界トップシェアを誇る。日本法人は98年設立で、従業員数は約240人。