コンテンツ管理プラットフォーム「Box」を提供する米Box(ボックス)が国内市場で業績を伸ばし続けている。成長の源泉はパートナーにあり、容量無制限のファイルストレージに生成AI機能を組み込んだ製品を100%間接販売で提供する戦略が功を奏している。日本法人Box Japanで、2月に社長に就任した佐藤範之氏は、製品の良さをパートナーエコシステムを通じて広める取り組みを継続し、人と組織の働き方を変革するというミッションの実現に自信を見せる。
(取材/日高 彰 文/堀 茜 写真/大星直輝)
100%間接販売で高成長
――2月に社長に就任されました。Box Japanでのキャリアはだいぶ長いですね。
外資ベンダーで日本法人の市場開拓に携わりたいと思って転職し、日本法人立ち上げから間もない2014年に入社しました。私のキャリアで5社目ですが、10年以上勤めているのは初めてです。当社は日本進出以来成長を続けており、社員数名の頃から仲間がたくさん増え、とてもやりがいを感じています。
――FY(会計年度)2025の日本法人の売り上げは、グローバルの23%を占めます。なぜこれほど日本市場で広がっているのでしょうか。
よく聞かれるので、いろいろ分析していますが、一番大きいのは(販売の)パートナーモデルです。日本法人開設当初から100%間接販売の方針を取っています。外資のSaaSベンダーで多いのは、最初はエンタープライズ向けに直販でシェアを伸ばし、成長が鈍ってきたら間接販売にかじを切るというパターンです。しかし、それではパートナーのやる気を引き出しきれません。パートナーと一緒にエンタープライズを攻めつつ、中堅・中小も開拓したことで、市場全体にアプローチできていることが大きいです。100%間接販売によって、パートナーの投資意欲も呼び起こせています。300社のパートナーと市場に向き合っていることが、大きな成長につながっているのでしょう。
――間接販売に振り切るのは日本法人独自の戦略なのでしょうか。
そうです。そもそもIT人材の7割がパートナー側にいる状況や代理店モデルなど日本の特性について、米国本
社は理解が浅いので、前任の古市(古市克典・現会長)が決めました。当社の商材を導入してもらうには(ユーザーの)IT部門がキーになり、IT部門との関係性が強いのは代理店なので、代理店を仲間にしたほうがうまくいくという考えをぶれずに貫いてきました。米国では直販が当たり前なのですが、今パートナーモデルを実装しようとしていて、日本がどうやってうまくいったのかということを米国本社が逆輸入している段階です。
――古市会長からバトンを引き継いで、どう会社を率いていきますか。
パートナーモデルは、今後も戦略の軸で変わらない要素です。古市から受け継いだ経営基盤、カルチャーなども含めて、良いものはより磨いていきます。変えていく部分もおのずと出てくるとは思いますが、これまで市場でフォーカスしてきたセグメントを、私の代でさらに広げていく際には、変えるというよりもアジャストする必要があると考えています。
外部の生成AIをバンドル
――Boxにクラウドストレージというイメージを持つ人も多いと思いますが、製品のビジョンを教えてください。
米国本社CEOのアーロン・レヴィは、ビジョンとして「人と組織の働き方を変革する」と10年以上言い続けています。ファイル、非構造化データをどう利活用するかにフォーカスした製品設計になっています。文書などの非構造化データは会社の中で日々発生しますが、保管と利活用のやり方を高度化させることで、お客様の業務に直結したインパクトをもたらすことができます。DXをストレージファイルを起点にやっていくということです。
ファイルサーバーは登場以来イノベーションが起きていなかった領域であり、そこに当社が新しいププラットフォームを提供し、電子署名やワークフローの機能などを実装することで、市場では新しいソリューションとして受け入れられています。
――エンドユーザーからは、どういった点を評価されていますか。
お客様には「コンテンツのサイロ化をやめましょう」と伝えています。ツールごとにファイルの格納領域があ
る分散状態は弊害が大きく、欲しいファイルを探すのに時間を費やしたり、(見つからずに)一から作り直したりすることで生産性が落ちてしまいます。
もう一つはセキュリティーの観点です。あるアプリケーションに格納している時はアクセスコントロールができていても、そこからダウンロードをして違う人に共有し、違うアプリケーションに入れて、そこではアクセスコントロールができていないとなると、セキュリティーホールだらけになってしまいます。DXを進めている企業ほど、これが大きな課題です。
さらに、コストの問題もあります。多くのアプリケーションは、無料で使えるファイル容量に限りがあります。生まれるデータの量が消去できるデータを上回っていく中で、気が付くと容量を超えてチャージが始まってしまう。ストレージにコストを多く払えないという顧客が、データ容量無制限のBoxに改めて今価値を感じていただいています。サイロ化をやめて、これからの課題を解決するために一元管理をしましょうというメッセージが響いていると考えています。
――データからどう価値を生むかという観点で、生成AIが注目されています。どう製品に取り入れていますか。
コンテンツがBoxに集中していることが非常に大事で、連携させるAIは自社でつくるのではなく、すでに世の中に出ているものとつなげるという、プラットフォームとしての立ち位置です。今多くのお客様がAIを活用する上で課題に感じているのは価格です。どんなリターンがあるか描けない中で多額の投資をするのは難しい。投資するとなっても、サイロ化したデータを1カ所に集め、AIの回答品質に影響が出ないレベルに整備するのが難しいのです。
Boxは、多くのAIモデルを好きなだけ使えるようライセンスにバンドルすることで、価格面で顧客の負担を減らしました。データはすでにBox上に集まっていて、そこにAIをつなぐだけなので環境整備は早いですし、RAGの処理もわれわれがやりますので、お客様が使いやすくなっています。
(Boxは)アプリケーションのインフラを全てハイパースケーラーのクラウドに載せています。(調達している)ストレージ容量はエクサバイトを超えており、(調達効率が良いため)12万社の顧客に容量無制限で還元しても当社の利益率は悪くありません。これをAIのクエリーにも当てはめたのが今回のアプローチです。AIはまさにBoxの環境と相性のいいテクノロジーです。
――AIのAPI利用についてもスケールメリットが効いているわけですね。では、Boxで使えるAIによって、企業の課題をどう解決できるのでしょうか。
企業にあるデータのうち、非構造化データが9割と言われています。これまでは人が開いて内容を確認しなければならなかったものを、AIが理解するようになります。例えば、契約書から必要な項目を自動抽出し、これをトリガーにワークフローを自動で組むなどです。ファイルの中身を抽出して活用する作業がAIで大きく加速します。
金融、公共でさらなる拡販を
――販売戦略を教えてください。
これまでの成長をけん引したのはエンタープライズの顧客でしたが、収益の多様性を確保することがさらなる成長につながります。そこでSMBや、大都市圏以外の地方に注力します。地方での展開においては、すでに契約しているパートナーの各地の拠点をうまくアクティベートできれば、伸ばしていけるとみています。
業界では、金融と公共にフォーカスします。比較的保守的な業界ですが、Boxの認知度もある程度上がってきた中で、代表的な企業で全社導入いただく案件が続いています。そろそろ本格的に広がりそうだとみており、パートナーとの協業、マーケティングコストなどあらゆるものを厚めにやっていきます。
新たなパートナーの開拓という意味では、公共分野で必要だと考えています。自治体での導入が伸びてきていますが、実績がある代理店と地方の販売店が組んでいただくのが良いのではないかと思います。
――今後の目標をお聞かせください。
当社はこれまでパートナーとの協業によって成長を続けてきました。パートナーはBoxとつながるシステムを多数開発したり、自社の強みのあるソリューションと連携させて販売したりしており、当社はプラットフォーマーという立ち位置だと改めて自覚しています。パートナーモデルをより昇華させ、当社だけの成長ではなく、パートナーエコシステムの経済圏としてしっかり太らせていくことを目標に掲げたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
外資ベンダーで、日本法人の売上比率が2割を超えるのは異例の高さだ。間接販売に振り切る戦略が成長をけん引している。佐藤社長は好きな言葉として、アフリカのことわざを挙げた。「早く行きたいなら一人で行け、遠くに行きたいならみんなで行け」。遠くまでパートナーと一緒に来ることができたと振り返りつつ「これからは合わせ技で、早く遠くに行きたい」と語る。
佐藤社長が入社した当時のパートナーキックオフでは、パートナーのブースが三つしか出ていなかったという。今はイベントを開くと30社以上ブースが出る。Boxを単体で売るだけでなく、パートナーのソリューションを組み合わせることで双方の成長を描く。「より早く、より遠く」を見据える佐藤社長の挑戦の先に、日本企業の変革が実現することを期待したい。
プロフィール
佐藤範之
(さとう のりゆき)
1972年生まれ、大分県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒業。96年、富士通に入社し営業としてキャリアをスタート。セールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)など数社を経て2014年、Box Japanに参画。日本市場の開拓や西日本などの営業組織立ち上げをリード。22年に専務執行役員。25年2月より現職。
会社紹介
【Box Japan】クラウド型コンテンツ管理プラットフォーム「Box」を提供する米Box(ボックス)の日本法人で2013年設立。国内の顧客企業数は約2万社。 FY(会計年度)2025(24年2月~25年1月)のグローバルでの売上高約10億9000万ドルのうち、日本が占める比率は23%。