野村総合研究所(NRI)は、2027年3月期からの次期中期経営計画の策定に当たり、AIによるビジネス変革や業界プラットフォームの拡充、人的資本への投資拡大を重視している。AI活用では自社の生産革新から徐々にユーザー企業のビジネス変革へと比重を移し、業界プラットフォームは非金融分野やオーストラリアへの横展開を推進する。人的資本への投資では処遇改善に加え、成長や社会貢献を実感できる環境づくりに力を入れる。海外ビジネスの営業利益については、将来的に国内と同水準の20%程度に高めることを視野に入れている。
(取材/安藤章司 写真/大星直輝)
現行計画の目標達成は射程圏内に
――社長就任から1年余りが過ぎました。まずは、これまでの取り組みをお話しください。
経営幹部との意思疎通を重視し、率直な意見交換を重ねたこともあり、どのように進んでいくのかという方向性がぶれることなく進められました。業績面では海外事業で一部苦戦している部分がありますが、26年3月期までの中期経営計画で掲げた売上高8100億円、営業利益1450億円を射程圏内に収めるところまで来ています。
――27年3月期からの次期計画については、どのような方向性をお考えですか。
経営チームで議論を進めている最中ですので、まだ明確にはお答えできませんが、▽AIによるビジネス変革▽知的資本への投資による新しいサービスの創出▽人的資本への投資拡大ーの三つを軸とする方向で検討しています。この3点については、次期計画を待たずに本年度から前倒しで取り組んでいる項目でもあります。
まず「AIによるビジネス変革」では、社内のシステム開発の生産革新に取り組んでおり、25年3月期はAI関連で100億円規模の投資を行いました。プログラムの自動生成やテストの自動化などにより、システム開発の速度を上げて納期を短縮したり、品質の底上げ・安定化につなげたりと成果を挙げています。
AI活用を前提としたシステム設計や品質管理の手法を確立し、生産に従事していた人的リソースを要件定義や設計といった上流工程にシフトできれば付加価値を高められ、生産力の向上によってさらに多くのプロジェクトをこなせるようにもなり、売り上げの増加が期待できます。
AIによるビジネス変革は、ユーザー企業にも当てはまります。当社のコンサルティングによる業務変革の提案力と、顧客が有する既存システムへの深い理解、AI実装力を掛け合わせ、ユーザー企業のビジネス変革に力を注いでいきます。26年3月期のAI関連の投資額は170億円を計画しており、前年度までの社内の生産革新に加え、今後はAIによるユーザー企業のビジネス変革を推進する分野への投資比率を徐々に高める予定です。
知的資本を集約したサービスを創出
――ユーザー企業先でのAIを使ったビジネス変革の推進は、具体的にどのようなものをイメージしていますか。
ユーザー企業の売り上げや利益を伸ばす分野でのAI活用を推し進めていきます。25年4月には特定の業界や業務に特化した大規模言語モデル「業界・タスク特化型LLM」を発表しています。80億パラメーターのLLMに業界の専門知識や業務タスクを学ばせ、特定の業界・業務の範囲内であれば「GPT-4o」に遜色ない性能を発揮できます。インターネット通販のレコメンド性能を飛躍的に高めたり、保険業務で法令順守をしつつより的確な提案を行ったりと、ユーザー企業のビジネスに密着したAI活用を推進します。
――「知的資本への投資による新しいサービスの創出」の取り組みを教えてください。
証券総合バックオフィスシステム「THE STAR」をはじめ、当社では業界に特化した共同利用型のビジネスプラットフォームを複数提供しています。先人たちが築いてきた当社の特色あるビジネスモデルでもあり、知的資本を集約したサービスだと言えます。こうした知的資本を活用した新サービスの創造では、例えば銀行や証券、保険、資産運用など金融商品を横断的にカバーするサービス開発や、キャッシュレス決済に象徴されるような金融サービスに新規参入する非金融業ユーザー企業向けサービスの拡充を進めます。
ほかにも、年末調整時に従業員が生命保険料などを支払った証明書をオンラインで管理できる仕組みや、マイナンバー活用の分野にも積極的にビジネスプラットフォームのノウハウを応用するとともに、海外への展開も進めています。
オーストラリアのグループ会社Australian Investment Exchange(AUSIEX=オージーエックス)では、現地の企業向けに金融ビジネスプラットフォームの提供を始めました。オージーエックスは株式や債券のバックオフィス業務分野に強みを持ち、当社がSTARシリーズで長年培ってきたノウハウと相性が良いのが背景に挙げられます。当社が強みとする金融ビジネスプラットフォームを展開することでオーストラリアでの収益力の向上が期待できます。
――25年3月期は国内営業利益率が20%を超える好調ぶりだったのに対して、海外営業利益率は2%弱と苦戦しています。
オーストラリアへ進出したのが16年と比較的早い時期だったこともあり、金融ビジネスプラットフォームをはじめとするNRIらしいビジネスモデルの構築が着々と進んでいます。一方で北米へは21年になって中核事業会社のCore BTS(コアBTS)をグループに迎え入れたこともあり、NRIらしいビジネスモデルの展開はこれからです。北米の事業会社の強みと、NRIグループの強みであるコンサルティング力、顧客業務への深い理解、システム実装力を融合させて、少しずつでも着実に前へ進み、将来的には海外ビジネスの営業利益率も国内同様の20%水準に押し上げたいと考えています。
専門家集団としての強みを生かす
――「人的資本への投資拡大」についてはいかがですか。
SIerの経営の根幹は人材であり、スキルの高い人が最大限の能力をどれだけ発揮してくれるかにかかっています。AIなどのソフトウェアへの投資はありますが、工場のような設備投資というよりは、人材への投資の側面が強くなります。競合他社に比べて見劣りしない報酬などの処遇改善は当然行うとして、その上で重要なのは「成長している実感」と「社会に貢献している実感」だと思います。少し背伸びをして挑戦するプロジェクトと、それが成功したときにお客さんから感謝されることで「次も頑張ろう」とモチベーションが上がりますよね。経営者としては、そう感じてもらえるプロジェクトを社員に提供し続けるとともに、各種の研修やソフト開発投資を通じた人材育成に注力します。
――柳澤社長のキャリアについても教えてください。
SEとして入社した後、比較的早いタイミングでコンサルタント職に就きました。コンサルタントは都合25年ほど務めましたが、前半の3分の2は通信や精密機器の業界におけるM&Aや事業再生、営業戦略を担い、後半3分の1は企業の組織風土の改革、経営理念の浸透といったプロジェクトに従事しました。
コンサルタントはそれぞれ得意とする専門分野があり、プロジェクトで求められる知見を持った人が集まって仕事をします。例えば私が組織風土の改革の専門家だとすれば、海外進出先の経営管理の専門家、競合他社の動向に詳しい専門家、ITの専門家などが集まり、顧客企業の経営コンサルティングに当たります。大先輩に教えを請うこともありますが、私より一回りも若いメンバーの専門知識に助けられたことが何度もありました。
――コンサルティングとITソリューションからなる専門家集団というのは、NRIの特色でもありますね。
コンサルティングとソリューションの掛け合わせについて、当社では「コンソリューション」と呼んでいます。これに前述した業界特化のプラットフォームを駆使したビジネスモデルを実践している競合会社は、世界的に見てもそれほど多くありません。この特色や強みを生かして国内外でビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
23年末に行われた社長就任会見で、柳澤社長は「社長1人で何かをするというよりは、担当役員をはじめとする経営チームが力を合わせて経営目標を成し遂げていきたい」との考えを示していた。コンサルタント時代に、職階や年齢に関係なく、プロジェクトに必要な知見をもった人員を総動員したチームで仕事に当たっていたことが、現在の経営手法につながっている。
それぞれの事業分野を束ねる経営幹部は、その分野の専門家でもあり、「しっかりと意思疎通した上で任せるところは任せる」とし、社長として判断すべきところ以外は経営メンバーに任せる方針を貫いている。
就任後は声を掛けやすい雰囲気づくりを心掛け、経営メンバーの相談にできる限り応じるよう努めてきた。踏み込むべきところには踏み込み、最終的には自信をもって「そこは心配しないで任せてください」と言ってもらえることを喜びとし、チームメンバーの力を引き出す経営を実践する。
プロフィール
柳澤花芽
(やなぎさわ かが)
1967年、神奈川県生まれ。91年、野村総合研究所(NRI)入社。96年、東京大学大学院社会学研究科修士課程修了。2015年、経営コンサルティング部長。17年、金融コンサルティング部長。19年、経営役人事、人材開発副担当、人事部長。21年、執行役員人事、人材開発担当、経営企画副担当。23年、常務執行役員事業戦略、コーポレートコミュニケーション、IR担当、総合企画センター長。24年4月1日に社長。6月21日付で代表取締役社長に就任。
会社紹介
【野村総合研究所】2026年3月期の連結業績予想は売上高で前年度比5.9%増の8100億円、営業利益で同11.2%増の1500億円を見込む。25年3月期のオーストラリアや北米などの海外売上高は1125億円で全体の約14.7%を占める。連結従業員数は約1万7000人。