NTTドコモビジネスは、IoTやAI、デジタルBPO、地域・中小企業DXを重点領域に位置付け、事業拡大を図っている。強みの通信サービスとITソリューションを組み合わせた価値の創出に加え、各領域間での相乗効果も生み出し、中堅・中小企業への訴求を目指す。「NTTドコモ」のブランドが中堅・中小企業ユーザーに広く浸透していることを受け、社名もNTTコミュニケーションズからNTTドコモビジネスへ7月1日付で変更。四つの重点領域を切り口に顧客の裾野を拡大し、顧客数を足元の約60万社から将来的に180万社に増やす考えだ。
(取材/安藤章司 写真/大星直輝)
──およそ四半世紀にわたって掲げてきた「NTTコミュニケーションズ」の看板を「NTTドコモビジネス」へ変えた狙いについてお話しください。
当社は1999年の設立以来、長距離・国際電話サービスやデータセンター(DC)、通信ネットワークを展開するなど、手広くビジネスを手がけてきました。これまで比較的規模の大きい顧客が多くを占めてきましたが、2022年のNTTグループ再編で海外事業はNTTデータグループの傘下に移り、当社はNTTドコモグループに属することになりました。再編の一環として、NTTドコモの法人ビジネスを担う人員約6000人、NTTコムウェア(現NTTドコモソリューションズ)の外販事業を担う約400人が当社に合流しています。
当社に法人向け事業部門を集約した背景には、顧客ターゲットを全国の中堅・中小企業まで広げることを基本戦略としていることが挙げられます。足元の取引関係にある顧客数は約60万社ですが、将来的に3倍の180万社以上に広げていく考えです。
これを踏まえ、中堅・中小企業ユーザーによりなじみのある社名にしたほうが覚えてもらいやすいと考え、7月1日付で「NTTドコモビジネス」に変えました。社名変更は中堅・中小企業ユーザーに寄り添い、この市場でビジネスを伸ばす決意の表れと受け取っていただければと思います。NTTドコモの無線ネットワークと当社の有線ネットワーク、ITソリューションを組み合わせれば、十分に実現可能だと見ています。
IoT、AI、BPO、中小企業に焦点
──NTTドコモビジネスの重点事業は何ですか。
IoT、AI、デジタルBPO、地域・中小企業DXの四つを重点領域として位置づけています。まずIoTについてですが、通信回線とITソリューションを組み合わせた販売先として非常に有望です。個人向けのスマートフォンは一人に2台もあれば十分で、市場は人口分しかありませんが、モノにひも付くモバイル回線はほぼ無限に市場が広がります。例えば電気や都市ガス、プロパンガス、水道などのスマートメーターとモバイル回線のビジネスは、ドコモグループに入った22年頃から急速に伸びています。
スマートメーターとモバイル回線は非常に相性がよく、検針の自動化のみならず、ガス栓の開閉、ガス漏れを検知する機能を実装するケースもあります。ユーザー企業はスマートメーターで業務効率化や業務変革を行え、当社はモバイル回線にIoTで付加価値をつけて販売することができます。
──スマートメーターのほかに、どのようなIoTビジネスが好調ですか。
工場向けの「ローカル5G」や「5Gワイド」の無線ネットワークサービスが好調です。工場はさまざまな生産設備にセンサーを取り付けて監視しており、そのものが“IoTのかたまり”なのですが、有線ネットワークでは生産ラインのレイアウト変更の際の通信ケーブルの取り回しが複雑になってしまいます。その点、ローカル5Gには通信帯域を確保しながらIoTの配置の自由度を大幅に高められるメリットがあります。
とはいえ、ローカル5Gの通信機材は大がかりになるので、中堅・中小の事業所からは当社の5Gワイドが好評です。5Gワイドは全国の5GやLTEの通信圏内であれば誰でも利用でき、一般ユーザーと比べて優先的に通信帯域を割り当てることで、速度と安定性を確保するサービスです。ローカル5Gのメリットと5G・LTE公衆回線の手軽さを組み合わせた、当社独自のサービスとなっています。
ほかにもスマートフォンの二次元バーコードを使った決済でもモバイル回線を使うケースが増えており、これもある種のIoTとして見ることができます。決済はリアルタイム性が求められる分野で、少し遅延しただけで使い勝手が大きく悪化するシビアな領域です。当社の高品質かつ安定したモバイル決済向け通信サービスを流通小売業のユーザーに積極的に提案しています。
学習と推論の分散処理を支援
──二つめの重点領域であるAIの取り組みはどうですか。
AIの利用が広がっていくと、通信ネットワークやDC設備の使い方が大きく変わるとみています。例えば、リアルタイム性があまり求められないAI学習用のサーバーは再生エネルギーが調達しやすい地方の大型DCに設置し、リアルタイム性が重要になってくる推論用サーバーはユーザーの近くに設置するのが効率的です。特に輸送機械の運転やロボットに使うAIは、リアルタイム性が重要視されます。
分単位で通信帯域を変えられる当社の通信サービス「RINK」や、光通信技術を全面的に活用したオール光ネットワーク(APN)を活用すれば、学習用と推論用のサーバーを別々の場所に設置する方式を導入しやすくなります。25年6月にはコンテナ型DCに強みを持つゲットワークスと当社、子会社のNTTPCコミュニケーションズがタッグを組んで、ユーザー近くの遊休地などに推論用サーバーを搭載したコンテナ型DCを構築するサービスを始めています。全国約70拠点で運営している当社DCも駆使しながら、推論と学習をつなぐAIの分散処理サービスの伸びが期待できます。
──RINKやAPNはAI向け分散型DCのみならず、IoTにも応用できそうです。
RINKは帯域制御や主要クラウドとの接続、セキュリティー対策といった多様な機能をネットワーク内に実装していることが当社の強みです。計算資源の乏しい小型センサーや防犯カメラなどのIoT端末のセキュリティーをRINK側で担うケースも増えています。今後はAIを駆使して、システムやネットワーク運用の自動化や最適化にも取り組んでいきます。
当社がこれから開拓を進めていく中堅・中小企業ユーザーの多くは、情報システムの人員の限りがあるため、RINKのようにネットワーク側に主要な機能を実装することでユーザーの運用負荷を軽減できますし、RINKを販売してくださる販売パートナーの手離れも良くなります。
AIエージェントがBPOを変える
──デジタルBPOについてもお聞きします。
デジタルBPOは、IT領域に焦点を当てたマネージドサービスを柱に据えており、注力領域のIoTやAI、中堅・中小企業ユーザー市場と非常に相性が良く、相乗効果が見込める事業です。BPO大手のトランスコスモスと提携し、彼らの運用ノウハウと当社の技術を組み合わせたサービスを展開中で、社内の業務システムの操作で迷ったときに問い合わせるヘルプデスクから、システム運用の代行に至るまで幅広く手がけています。
近年注目を集めているAIエージェントはBPOビジネスを大きく変える可能性が高いと考えています。これまで人の手で行っていた反復的な業務を、業種・業務の専門知識を学ばせたAIエージェントに任せることで、人間はより付加価値の高い仕事に集中できるようになります。
当社もAI開発のエクサウィザーズとの協業を通じて、金融や製造、公共など業種・業務に特化したAIエージェントの開発を進めています。すでに20種類ほどの特化型エージェントを開発しており、今後は全業種を網羅できるよう、200種類のエージェントの開発を目指しています。
──25年3月期のNTTドコモビジネスの業績に相当するNTTドコモの法人事業セグメントは、売上高1兆9027億円に対する営業利益率が16.6%で、比較的高い水準を維持しています。
通信サービスが軌道に乗ってくると、運用が効率化されて利益を確保しやすくなる側面があります。一方で通信サービスを投入した当初は赤字スタートであることが多いため、成熟したサービスで利益を確保しつつ、新規サービス創出への投資を惜しまず、早期に軌道に乗せることでビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ラグビー好きな父親の影響もあり、幼少期からラグビーに親しんで育った。ラグビーのルールは定期的に見直され、試合がより白熱し、観客が盛り上がるように変更されてきたという。
従業員の評価指標も同様で「会社の目指す方向と合致するよう随時見直す」ことでチームメンバーの意識の向く方向を変えることができると考えている。新しい部門を任されるたびに、細かく評価指標を見直し、会社が求めるパフォーマンスを発揮してきた。社長に就任してからも、経営のルールである管理会計を随時修正しながら、経営戦略や重点領域に合致するよう、従業員全員の意識や働き方の変化を促している。
経営指標を巡って意見が対立しても、一度決まれば皆がまとまって気持ちよく前へ進めるよう、「ノーサイドの精神」で経営のかじを取る。
プロフィール
小島克重
(こじま かつしげ)
1965年、埼玉県生まれ。89年、早稲田大学教育学部卒業。同年、日本電信電話(現NTT)入社。2000年、NTTコミュニケーションズ(現NTTドコモビジネス)ソリューション事業部第三営業部担当課長。11年、ヒューマンリソース部人事・人材開発担当部長。19年、取締役第四営業本部長。21年、執行役員ビジネスソリューション本部第四ビジネスソリューション部長。23年、常務執行役員ビジネスソリューション本部長。24年6月13日付で現職。
会社紹介
【NTTドコモビジネス】NTTドコモビジネスの業績に相当する、NTTドコモの2026年3月期における法人事業セグメントの売上高は、前年度比5.1%増の2兆円、営業利益は同7.5%減の2920億円を見込む。グループ従業員数は約1万7200人。