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ソフトバンクBB 仏ソフト大手との合弁会社で国産ソフトを海外へ提供

2005/10/24 12:40

週刊BCN 2005年10月24日vol.1110掲載

 ソフトバンクBB(孫正義社長)とソフトウェア開発・販売大手の仏アバンクエスト・ソフトウェアは、先進ソフトを国内外で流通する合弁会社「アバンクエストBB」を10月中に設立する。合弁会社では、各国向けに製品とマニュアルをローカライズ(現地語に翻訳)した上で、アバンクエストが販売権を持つ海外ソフトを国内市場へ提供するほか、ソフトバンクBBが扱うコンシューマ向け国産ソフトなどを海外市場へ斡旋する。ソフトバンクBBが国内ソフトの輸出をするのは初めて。パソコン量販店における国内ソフト市場は、年々縮小傾向にあるが、ソフト流通・卸の“雄”が手がける事業だけに、同市場の活性化や国産ソフト開発元の新たなビジネス機会を創出する上で、ソフト業界内の期待が高まっている。


 合弁会社、アバンクエストBBの資本金は1億円。ソフトバンクBBが49%、アバンクエストが51%出資した。10月中に設立し、準備作業を経て来年1月から営業を開始する。アバンクエストは欧米を中心に販売拠点を展開し、26か国言語のソフトを約100か国で提供している。同社は携帯電話やセキュリティ関連の自社開発ソフトやユーティリティソフトの販売権が数百あり、年間売上高は約100億円にのぼる。

 アバンクエストBBでは、アバンクエストが提供するソフトに関する国内の販売権を取得して、製品とマニュアルのローカライズを施したあと、海外ソフトを自社製品に組み込む「パブリッシャー」と呼ぶ国内ISV(独立系ソフトウェアベンダー)へライセンスを供給、ISVを通じたパッケージ販売を行う。さらに、国内のダウンロードとASP(アプリケーションの期間貸し)の販売権も取得し、ヤフーBBのASPサービス「BBソフト」などのコンテンツとして提供する。

 国内ISVの中には、すでに海外ソフトを自社ソフトに組み込み、パッケージとして生産するところもある。だが、ライセンス料が高価であるほか、法制度の異なる海外ソフトベンダーとの契約や安定的にソフトを供給する上でのリスクなどがともなう。

 「合弁会社では、こうした複雑な契約交渉を仲介し、ローカライズも手がけるため、安い原価で海外ソフトを供給できる」(原山健一・流通事業本部ソフトウェアマーケティング統括部統括部長)としており、より多くの海外ソフトを安定的に供給する体制を整える。

 一方、注目されるのは、海外ソフトの国内販売とともに、国産ソフトを海外市場へ展開する道を拓くことだ。アバンクエストが各国の販売元として、各国でのローカライズやパッケージ販売、サポートなどを行い、アバンクエストBBが日本国内の窓口となり仲介業務を実施する。

 ジャングルやイーフロンティアなど、海外展開する国内ISVはあるが、「ローカライズから現地サポート、販売網などを自社で構築するのに限界があり、なかなか海外進出ができなかった」(原山統括部長)が、アバンクエストBBを通じた国産ソフトの流通・卸ルートができるため、“日本発”のソフトが海外へ出る機会が増えそうだ。

 ソフトバンクBBが「パブリッシャー」と位置づける国内ISVからは、アバンクエストBBへの期待の声が高まっている。

 すでに、海外ソフトを製品化しているジャングルの高田晃子社長は、「日本市場では、変化の早いニーズや技術トレンドなどの動きに対応して、付加価値の高いソフトを出し続ける必要がある」と、国内外の有力ソフトをリスクを軽減して流通できる仕組みを打ち立てたアバンクエストBBに注目している1社である。その上で、「ブロードバンド環境で、大容量・高速化が進み、パソコンの性能も上がっている。それにより、新たなニーズが増え、それに対応したソフトが求められている」(同)と、国内外の新規ニーズをとらえた高品質のソフトが機動的に流通すれば、さらにソフト市場は活性化すると見る。

 古くから海外ソフトを独自に調達していたアイフォーは、「多くのISVが幾度か(海外ソフトの製品化に)トライしている。だが、ライセンス料やロイヤルティが高く、海外ソフトは普及しにくいのが現状。通関手続きや倉庫管理などを含め、中間コストを削減し、輸入のスピードアップが図れれば魅力的だ」(佐藤篤・副社長兼イーフロンティア執行役員)と、アバンクエストBBとのアライアンスを視野に入れているという。

 日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(パソ協)によると、国内のパソコンソフト市場は、04年が7862億円で前年比約4%増えた。05年は8149億円に達すると予測しているが、BCNランキングによると、コンシューマ向けソフト市場(店頭販売)は年々減少傾向にあり、店頭の売り場面積も縮小する一方だ。

 ソフト開発に必要な費用は、近年のソフトの性能アップに応じ高くなっているが、一方で開発費に見合う収益を得るのが難しくなりつつある。それだけに、ソフトバンクBBの原山統括部長は、「日本のディベロッパーが減るのは由々しき事態」と、ソフト開発を手がける国内ISVが撤退したり、合併する状況を懸念する。

 来年1月に営業開始するアバンクエストBBの戦略は、海外ソフトのライセンスの提供方法など課題もあるが、ソフト市場を海外へ拡大し、国内ISVの収益力を高めるほか、海外の有力ソフトを持ち込むことで国内ソフト市場が活性化できるものとして注目される。
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