【サンフランシスコ発】 海外ではネット動画が大人気。本家とは似ても似つかない香港人2人組が口パクするだけの「アジアのバックストリートボーイズ」など斬新なヒット作が続々登場し、新たなフィールドを確立しつつある。そんななか、昨秋から国内外で大ブームの英字幕付き動画「Documentary on Japanese Sushi」(原題「日本の形─鮨」)はボーダレスなネット配信時代の可能性と問題点を浮き彫りにした。

 この動画(8分11秒)は、昨年6月発売のDVD「VIDEO VICTIM 2」収録作品だ。原作DVD収録の吹替え版が「英語が堅くて笑えない」と思った首都圏在住外国人Rudd─Crunch君(ハンドルネーム)が日本語の原作に自分で字幕をつけ友達に見せたのがブームの発端となった。もっとも彼自身がネットに公開したのは6時間足らずで削除後は英語圏の日本通が集う会員制コミュに「著作権のある作品だし訴えられたくないんだ」と語っている。

 字幕版は転送に転送を重ねブログ転載などを経て11月15日、匿名の第三者の手によりグーグルビデオ(GV)に掲載。「急にメールが殺到してリンクを辿ったらグーグルにボクが字幕入れたのと全く同じ動画があったんだ」(RC君)。架空のプロダクション名を残し公開者不詳のまま作品は世界に広まる。

 違法コピーの流布を見かねた版権会社アスミック・エース エンターテインメント社は1月、ブロガー複数に停止勧告メールを送り、GVは動画を削除。何百件というリンクが途絶えブームは収束に向かう。

 この措置について同社担当者は「作品が好きであるのならば正規な手続きをとって配信すべき。制作者(監督)とネット配信権を持つ会社からも警告の依頼があった」と事情を説明。「日本版DVDは英語音声、英語字幕付き。オフィシャルな英語版を観ていただければ」というので日本から取り寄せてみたが米製プレイヤーでは再生できず、リージョンフリーソフト(30ドル)を入れたノートで開いて見たが字幕版は確認できなかった。

 日本側の事情は分かるが、海外ファンにしてみれば入手も視聴も困難なうえ、出演者も製作者も謎の作品。「日本人も面白いもの作るね」と盛り上がっていた最中の停止勧告は無用の反発を招いた。

 「同社の対応にはガッカリだ。ネット用の動画でないと一言メールくれれば済む話を削除しないと訴えるって脅すんだ。ただ好きでリンクを張っただけなのに」と語るのは漢字タトゥー評論家ティアン氏。「無名の作品が一晩で脚光を浴びた。メディアの露出からいえば大成功だ。それを著作権のために潰す。不法グループを退治した気かもしれないが実際は有望なファンベースを自らの手で根絶やしにしたのだ」と残念がる。

 未公開の海外作品を仲間内で見せ合う際につける字幕を「ファンサブ」と呼ぶ。原作丸写しの海賊版と異なり発売までのつなぎとして米国では穏当に済ます場合が多い。

 ファンサブ研究家ジョーダン・S・ハッチャー氏は「コンテンツ所有者にとっては厄介な問題。著作権法を盾に削除要求や提訴もできるがRIAA(全米レコード協会)を見れば分かるようにこれはキリがない。訴訟費用も馬鹿にならないしファンの尊敬と良心を犠牲にすることにも。ファンと作品に向ける愛情を共有する方が長期的にはベターな戦略だろう」と語る。「いきなり停止命令ではなく例えば原作販売サイトにリンクを張ってもらうとか、ファンサブは著作権で大概会社側に分があるので無償か最低レートで権利をとって配信で儲けるとか、対処はほかにいくらでもある」と提言。「ファンは客という前に人。利益を出さなくてはならない会社のニーズもきちんと理解しているものだ」と対話の重要性を指摘する。

 グローバルな動画配信の普及につれ市場がクロスする事例は今後ますます増えていく。企業も海外流出・流入の脅威をチャンスに転じる発想の転換が必要ということか。

 一昔前なら字幕は高価な設備が要る作業で素人は真似できなかったが、今は安価なソフトも出回り、RC君のような一般視聴者でもセンスさえ良ければ「2時間」でプロ顔負けの字幕ができてしまう。プロダクションにとってもこれは、相当に頭の痛い時代といえそうだ。
市村佐登美(ジャーナリスト)