知財意識の低さの現われか

 【上海発】このところ、「コーラルQQ」(CoralQQ)というソフトウェアの開発者である陳寿福氏が大変注目を浴びている。インスタントメッセンジャーのQQをベースに開発されたものだが、著作権者のテンセント社から差し止めの裁判を起こされ、敗訴した後も開発をやめなかったことから、ついに逮捕されることとなった。

 「テンセントQQ」(以下、QQ)というソフトウェアは日本では無名かもしれないが、中国では、最も人気があるインスタントメッセンジャーだ。知的財産権者のテンセント社(深・市騰訊計算機系統有限公司)の公式サイトに掲載されている情報によると、2007年6月30日現在、QQの登録ユーザー数は6億人を超え、実際にQQを利用しているユーザーはおよそ3億人という。同ソフトは無償で配布され、広告バナーをユーザーインターフェースに表示する手段で利益を得ている。

 マーケットシェアが高いだけに、QQをベースに開発された「非公式バージョン」が市場に出回っている。コーラルQQはそのなかで有名なものの一つだ。北京理工大学の教師、陳寿福氏が開発したコーラルQQは、相手のIPアドレスや所在都市名を表示する機能のほか、広告バナーをブロックする機能をQQに追加したことで、大変な人気を博している。ユーザーは3000万人もいるそうだ。

 陳氏は、学生であった01年、オリジナルのQQを改変して、コーラルQQをリリースした。その後、陳氏はテンセント社の警告を受け、「コーラルQQのリンクを個人サイトから外し、今後QQの改変は一切行わない」という趣旨の念書を提出したという。しかし04年、陳氏は、「チート行為」(技術的な細工によって偽装し騙す行為)のような仕組みを利用して再びコーラルQQの開発に手を出した。広告バナー外しやIPアドレス表示などの「便利な機能」があるため、コーラルQQのダウンロード数は、一時的にオリジナルQQのそれを上回ってしまった。06年8月20日、テンセント社は、著作権侵害および不正競争を理由に陳氏を提訴し、同年12月20日、北京市海淀区人民法院は、陳氏およびその「コーラルスタジオ」というウェブサイトがコーラルQQのダウンロードサービスを提供していることを権利侵害行為と認め、直ちにサービスを差し止める判決を下した。

 裁判所の調停の結果、被告はウェブサイトを通じて謝罪し、原告に和解金10万元を支払うことになった。しかし、陳氏は依然としてコーラルQQの開発をやめなかった。そして今年8月16日、深・市南山区公安局は、著作権侵害ないし経済犯罪を構成しているという理由で、陳氏を逮捕するに至る。

 だが、不思議なことに、インターネット上での世論は、圧倒的に陳氏の味方だ。著名サイト「網易」のオンライン調査によると、実に95%の回答者が「陳氏を応援する」を選んだ。ユーザーがコーラルQQを応援する理由は、ユーザーエクリペリエンス(ユーザービリティ以上の体験)を向上してくれることによる。しかし、広告が外されることで、QQの運営者の利益が確保できなくなっている一方、実はコーラルQQには別のプラグインが埋め込んである。そういったプラグインには広告がバンドルされているか、またはスパイウェアのような役割を担っている。

 「計算機応用文摘」誌は、「コーラルQQのダウンロード数を市場相場で計算すれば、(陳氏またそのグループの)年間収入は百万元単位になるはずだ」と見積もった。

 この事件から、中国における知的財産権をめぐる社会教育はまだまだ欠けているという結論が引き出される。中国では、著作権侵害の代償は、せいぜい賠償金を払わされるだけだと思い込んでいる人が多い。今回、陳氏が刑事事件に巻き込まれたことは、多少なりともショッキングな出来事だったのではないだろうか。
 魏鋒(ウェイ・フェン=ACCS上海事務所所長、shanghai@accsjp.or.jp)