IT基盤運用は自社、販売はパートナーで

 マイクロソフト(樋口泰行社長)は、企業向けのSaaS型サービス「Microsoft Online Services」を国内でこの春に提供開始する。3月10日にサービスメニューや価格などの詳細を正式発表する。米国ではすでに昨年11月に始めたサービスで、メールやグループウェアなど、ソフトとして提供していたものを月額サービスとして提供する格好だ。サービス提供するためのITインフラはマイクロソフトが保有・運営する形で、この形態で企業向けにSaaS型サービスを提供するのは国内で初のケース。着々と準備を進めてきたマイクロソフトのSaaS型サービスが、いよいよ国内でスタートする。

クリックで拡大 「Microsoft Online Services」は、マイクロソフトの企業向けSaaS型サービスのブランドだ。従来販売しているソフトの機能を月額料金で提供する。すでに米国では昨年7月に発表し、11月にサービスを開始しているが、日本市場でも今春から始めるスケジュールで最終調整に入った。

 サービスとして提供するためのITインフラ(データセンター)は、マイクロソフトが保有・運用する。データセンターは日本ではなく海外に置く設備を使う。ホスティングサービス事業者などのITベンダーが、マイクロソフトの企業向けソフトを活用して自社でITインフラを整備し、SaaS型サービスを提供するケースは現在もある。だが、マイクロソフトがITインフラを自社で運用する形で、企業向けにSaaS型サービスを提供するのは国内で今回が初めてのケースだ。

 今春からスタートするサービスは4種類となっている。(1)Eメールや予定表共有などの「Microsoft Exchange Online」、(2)ファイル共有などの「同 SharePoint Online」、(3)インスタントメッセージ(IM)機能の「同 Office Communication Online(OCO)」、(4)Web会議の「同 Office Live Meeting」。これら4メニューをセット化した「Business Productivity Online Suite(BPOS)」というメニューも用意する。今回のメニューは、「Microsoft Online Services」の第一弾サービスの位置づけで、さらにラインアップを拡充する計画だ。今後はCRMなどのアプリケーションが同ブランドとして発売されることになりそうだ。

 各メニューの価格は3月10日に明らかにするが、米国では各メニューを2~10ドル、「BPOS」を1ユーザー月額15ドルで販売しており、「日本でも米国での価格水準とほぼ変わらない見込み」(磯貝直之・インフォメーションワーカービジネス本部マネージャ)のようだ。「BPOS」については、米国では各サービス個別での利用料金合計よりも9ドル安価に設定している。

 SLA(サービスレベルアグリーメント)は、「Exchange」のEメール機能と「OCO」のIM機能、「SharePoint」の稼働率は99.9%を約束。サポートの応答時間は、問い合わせの90%を60分以内に初期応答する内容などを盛り込む。

 販売方法は販売パートナーを通じた間接販売に絞る。ITインフラの運用はマイクロソフトが自社で展開するが、販売はあくまでITベンダーとの協業に特化する考えだ。販売パートナーはユーザー企業にサービスを販売すると、その販売額の数%を得る仕組みを用意して、販社の営業意欲を掻き立てる。日本での具体的なパーセンテージは現在検討中だが、米国市場のケースで、販社が得られるマージンは初年度は契約額の12%、その後の契約期間中は6%としている。

 磯貝マネージャはパートナー側のメリットについて、「データセンターなどのITインフラに投資しなくても容易にSaaS型サービスを販売できるようになる。また、ソフトを販売するケースに比べて商談期間が短くなるはずで、多くの案件をさばけるようになる」と説明する。また、ソフトのライセンス販売に悪影響を及ぼすのではないかという問いに対しては、「ユーザー層の拡大が期待できる。ユーザーの選択肢を増やし、ニーズに柔軟に応えることが当社の役目」と説明している。

 マイクロソフトはソフトとサービスを併売する「Software+Service」戦略を推進している。そのなかで、今回「Service」の分野で大型商材を投入する形になる。多くのパートナーを抱えるソフトウェアの巨人が、企業向けに用意した安価なSaaS型サービスの売れ行きは、国内SaaS市場が今後どう伸びるかを予測する試金石となる。(木村剛士)

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販社のストック事業への関心がカギ

 マイクロソフトが企業向けに初めて提供するSaaS型サービス。その成功のカギは、やはりパートナーの関心度合いだろう。サービスであっても直販は手がけず、間接販売に販売方法を絞る方針を固めているとなると、販売パートナーの力は欠かせない。これまでソフトのライセンスを販売していたITベンダーが、金額の小さいストックビジネスをプラスとみるか、旨みがないとみるかが勝負の分かれ目になりそうだ。

 2月上旬からマイクロソフトは、ITベンダーの技術者・開発者を対象とした「Microsoft Online Services」に関するセミナーを水面下で開始している。すでに東京で2回開催しており、2月17日に開催したセミナーでは、「定員100人をオーバーする申し込みがあった」(磯貝直之マネージャ)。関心は高そうで、まずは上々の滑り出しといったところか。このセミナーは、3月に大阪、名古屋、そして東京で合計3回開催する予定で、まずは主要商圏での告知活動を積極的に行う考えだ。

 その一方で、見逃せないもう一つの観点がある。マイクロソフトのソフトを活用してSaaS型サービスをすでに提供しているホスティングサービスベンダーの存在だ。マイクロソフトはホスティングサービス用のライセンスを用意しており、これらのITサービスベンダーはすでに「Microsoft Online Services」とほぼ同様のサービスを自社のITインフラで展開している。マイクロソフトの新サービスと競合関係になるわけだ。そうなれば、ホスティングサービス事業者は、「Microsoft Online Services」よりも価格競争力や付加価値がなければ、ビジネスの縮小を余儀なくされる可能性がある。

 「Microsoft Online Services」の売れ行きは、マイクロソフト製品を活用したホスティングサービス事業者の今後のビジネスをも左右する要素を孕んでいるのだ。(木村剛士)