地元に開放、イノベーション沸く場に

 クオリティソフト(浦聖治社長)は2016年12月1日、和歌山県白浜町の旧社屋を同町内の新社屋に移転しオープンした。同時に、本店所在地を東京・麹町からこの地に移した。新社屋は家具や空間の使い方にこだわり、森林に囲まれ海に面する自然豊かな周辺を含めた屋内外のどこでも仕事ができるようにと、フリー・アドレスでペーパーレス化を実現。単なる本社オフィス機能としてだけではなく、新たな働き方を追求する場であり、地元の異業種の方々とも交流し「イノベーションを起こす場」(浦社長)にしたという。本社移転の経緯とオフィスのコンセプトを現地取材した。

集中と分散を繰り返す空間

 「Innovation Springs(イノベーション・スプリングス)」と名づけられた全体の敷地面積は、1万8242平方メートル(5530坪)の広さを有する。そのなかに「白浜リサーチ・パーク」という建物が2500平方メートル(750坪)あり、東南部分にクオリティソフト本社、西北部分には「イノベーション・オフィス」を配置し、自社で開催するドローン教室や地元のさまざまな企業に貸し出すコワーキング・スペースなどに使う空間として整備した。
 
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白浜本社の1階は、幾何学的な形をしたデスクを配置。
フリー・アドレスでどこでも仕事ができる(人物は、クオリティソフトの浦聖治社長)

 同社が和歌山県に進出したのは、田辺市に大企業向けのソフトウェアテストの拠点「和歌山開発センター」として子会社のエスアールアイを設立した2001年6月に遡る。ソフトウェアの品質保証の業務がオフィスコストと人材確保の両面で地方の方がよいのではないかという判断があった。だが、「予想以上に人材が集まった」(浦社長)ため、手狭になった当時の事務所を手放し、02年4月に白浜町にある大手建設会社所有の海沿いにある保養所を借り、そこに移転した。それ以来15年弱にわたり利用してきたが、契約期限がおとずれ、再度の移転を余儀なくされたことで、新社屋を設けた。

 移転した翌月の17年1月、クオリティを存続会社として、クオリティソフト、エスアールアイを吸収合併し、社名を「クオリティソフト」に変更した。浦社長は「新社屋に移転したのを機に、主力ビジネスのクライアントセキュリティに加え、IoT(Internet of Things)を次の柱に据えることにしている。そして、その第一弾として、ドローン事業が立ち上がっている」と話している。

 新社屋は、16年1月に旧生保会社の研修センターを購入し、約8か月かけて施設内外をリノベーションした。以前の建物は、「宿泊用の保養施設ということもあり、個々の部屋が小間切れで仕事がしにくかった」と、浦社長は振り返る。そこで、新社屋のうちクオリティソフトの本社部分は、極力仕切りを排除し一目で全体を見渡せる開放的なスペースにした。1階部分は一般事務と営業、インサイドセールスの担当者が従事し、2階の2部屋がソフトの開発やテストの技術者用となっている。

 オフィスのコンセプトは、「アドレス・フリーに向かうフリー・アドレスオフィス」というキャッチフレーズで、オフィスがいらなくなる形で、働き方改革を実現するオフィスづくりだ。移転前、全社各部門から一人ずつを招集し、旧オフィスの課題抽出を実施したり、執務に使う家具などの要望を聴取してつくりあげた。新社屋には、従来のオフィスのようなリニアな通路や四角い個別デスクがない。スチールデスクを置かず、地元の紀州木(天然木)からつくられたデスクで、その形も幾何学的な形をしている。浦社長は、「コミュニケーションに適した集中と分散を繰り返す空間をねらった。今日座ったデスクには、次の日は座らない決まりもつくった」という。ちなみにこの「Innovation Springs」は、先日発表の第30回日経ニューオフィス賞の近畿ニューオフィス奨励賞を受賞した。
 
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新社屋は、森に囲まれ、
浜辺も徒歩5分という自然の中にある

ドローン学校が好評

 オフィスは、特定の座席をもたないフリー・アドレスだ。全館に社員だけが利用できる無線LANを構築し、社内のどこでも仕事ができる。「当社は社内セキュリティと資源節約に配慮し、早くからペーパーレス化を実現していた」(浦社長)ため、アドレス・フリーは問題なく実現した。

 1階部分には、事務オフィス以外にプールサイドのテラスや地元住民も使える社員食堂、120人が収容可能なセミナールームも配置。浦社長は、「従業員はテラスや森のなか、社屋から徒歩2分の浜辺に出て仕事をすることもある。ネイチャーノマドだ。当社を代表するクラウド型セキュリティ製品『ISM CloudOne』はロケーションフリーを特徴としている。これを使えば、どこにいても、どの端末からアクセスしても、安全・安心な環境がつくれる。人が動いた場所を仕事場にしたい」と、自社製品を使い、働き方を追求する場にもなっている。

 西北部分にある「イノベーション・オフィス」には、宿泊が可能な部屋が10室とコワーキング・スペースが3室ある。同社はここを利用しドローン事業の一環で「ドローンビジネスカレッジ(DBC)南紀白浜校」を開校した。このスクールはJUIDA認定のカリキュラムを2日間の短期合宿で行っているが、申し込みが殺到しているという。ドローン事業をIoT分野における成長事業と考え、オリジナル機体の開発、クラウド管理システムなど、本業との相乗効果を期待しての取り組みだ。

 「南紀白浜」は、温泉地として知られる。同社がこの地を「イノベーション・スプリングス」と名づけたのは、「温泉のように、イノベーションが溢れる泉にしたい」(浦社長)という願いが込められている。異業種の人たちがコワーキング・スペースなどに集い、協働製作したり、コンテストやハッカソンなどを開催するなかで、人的ネットワークの構築や地方創生に向けた取り組みを拡大することをねらっている。

 現在、新社屋には、国内従業員約150人のうち、約80人が在籍している。麹町には、営業と技術部門、管理部門の一部を残しているだけだ。