米オラクルはネットスイート事業の年次イベント「SuiteWorld 2018」を4月下旬、米ラスベガスで開催した(週刊BCN5月21日号3面にて既報)。クラウドERPのパイオニア的ベンダーだったネットスイートをオラクルが約1兆円で買収したのは、2016年11月のこと。ただし、現時点で旧ネットスイートの事業はオラクルの他のERP事業と統合されることなく、独立事業として存在しており、事業部門の責任者も旧ネットスイートの経営陣が務めている。SuiteWorld 2018では「ネットスイートは何も変わらない。顧客中心主義をこれまで以上に追求していく」というメッセージを発信したが、実際のところはどうなのか。SuiteWorld 2018の期間中、日本メディアのインタビューに応じたジム・マッギーバー ネットスイート担当エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)、そしてネットスイートの創業者であるエバン・ゴールドバーグ ネットスイート事業・開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)の両トップに直撃した。

EVPインタビュー
ジム・マッギーバー
オラクルの投資を得てやりたいことを実現
独立性は十分に確保できている

オラクルは自由を尊重してくれている


──オラクルによる買収から1年半ほどが経過しました。

マッギーバー 
ラリー(エリソン会長兼CTO)、マーク(ハードCEO)をはじめとするオラクルの経営陣からは、ネットスイート事業を完全に独立事業としてやっていってほしいというメッセージを思ったより明確に受け取っています。いまは非常に自由な感覚です。

 独立企業だった時からずっとやりたかったけれども投資額が膨らんでしまうのでなかなか実現できなかったこと、さらには株式市場の反応が心配でゴーサインを出す決断ができなかったことなどいろいろあったんですが、オラクルの傘下でネットスイート事業に大きな投資を受けたことで実現できるようになったことも多い。つまり、ネットスイートが現在取り組んでいることは、オラクルにやれと言われたことではないのです。前からやりたかったがハードルが高かったことを、オラクルの力を得て思う存分やれるようになっているということです。

 また、海外市場でのビジネス拡大を思ったより早いペースで進めることができているのも、オラクルとの統合の効果です。正直に言ってこの部分の連携については、オラクルのような大企業がわれわれのスピード感と合わせてこんなに早く動けるものなのかと驚いたくらいです。

──もちろん、課題もあると思いますが。

マッギーバー オラクルの本当のトップの経営層はネットスイートに独立してやっていってほしいと思っているのですが、オラクル全社ですべての人が必ずしもそうした考え方を共有しているわけではないのも事実です。「ネットスイートを助けてあげますよ」と言い出す人が出てくるんですが、実はそれは不要です(笑)。マークは、「オラクルの規模のメリットを存分に活用してくれ。統合によるデメリットは最小限にとどめるから」と言ってくれています。
 

現場も経営陣も不安を乗り越えた


──あなたのキーノートでは、中継で参加したマーク・ハードCEOに対して、会場にいた従業員からネットスイート事業の独立性が将来にわたって担保されるのかというような趣旨の質問も出ましたね(週刊BCN5月21日号3面に詳細)。その内容を聞くと、ネットスイートの現場にはオラクルとの融合にネガティブな思いをもっている人も多いのではないかと感じました。大企業を顧客として成長してきたオラクルと、スタートアップや成長企業といったイノベーティブな企業の支持を成長の糧にしてきたネットスイートの文化的な違いは大きいようにも思えます。

マッギーバー 時間とともに現場の感じ方も変わってきていると思います。最初はオラクルがネットスイートの企業文化を変えるのではないかとすごく不安があったのは事実です。しかし、1年半という時間が経ってもネットスイートの文化はほぼ完全なかたちで残っていて、ほとんどの人が気持ちとしてはオラクルとの統合に対するネガティブな感情を乗り越えています。

 それは社員だけでなく、経営陣も同じですね。旧ネットスイートの主要幹部で、オラクルとの統合のタイミングで会社を去ったのはザック(ネルソン元CEO)くらいです。これまでのオラクルの買収では、経営陣がすぐにそっくり入れ替えになってしまうパターンが多かったですが、ネットスイートの場合はそうではありません。

──オラクルがクラウドERPをリリースして、対象となる顧客の規模という意味ではネットスイート製品と近いところも守備範囲になりました。メディア向けのQ&Aセッションでネットスイートのマーケット担当幹部は、「それはメディアやアナリストの机上の空論で実際の商談の場ではコンフリクトは起きていない」とも発言していました。市場での棲み分けはどのようにしているのですか。

マッギーバー ネットスイートは単一システムで、実装、管理、カスタマイズがしやすいという特徴があります。オラクルクラウドは大規模なビジネスに対応し、大企業向けにつくられています。トランザクションのボリュームが大きい場合や、生産やサプライチェーンの要件が決まっている場合は明らかにオラクルが向いているということになります。顧客にどちらの製品を提案するかというのは、大抵、アカウントがセールスチームにアサインされる時点で明確になっています。ごく稀に、オラクルとネットスイートがお互いの製品を売り合うケースもありますが。

──R&Dや販売戦略はオラクルとどの程度共有しているのでしょうか。

マッギーバー 繰り返しますが、私たちは非常に独立性が高いビジネスをしています。ネットスイート製品のR&Dはエバンにレポートをします。オラクルとの関係は、本当にパートナーシップといえるものです。

 一方で、オラクルのR&Dに対して私たちが要望をすることはあります。例えばデータセンターは今後オラクルのものに移行しようとしていますし、AIやブロックチェーン、IoTの基盤などの新しい技術については、オラクルの大規模な投資を活用できればと考えています。こうしたメリットを享受できるようになったのは、ネットスイートにとって非常にポジティブなことです。
 

成長は加速している


──実際に競合するのはどういうベンダーが多いですか。

マッギーバー マイクロソフトの「Dynamics」などは競合ですが、彼らは世界的にERPビジネスがあまりうまくいっているようにみえませんね(笑)。あとは、世界中のローカルベンダーも競合になります。日本ではオービック、ヨーロッパはSage、中国だと用友、金蝶などです。単一のシステムとして基幹業務やCRM、Eコマースをカバーしたアプリケーションスイートをクラウドで提供しているというのは、ネットスイートの大きな差異化要因だと思っていますが、とくにローカルの競合についてはよく学習し、彼らの長所、短所を勉強してから商談に望みます。お客様に正しい選択をしていただく啓発をするのも私たちの仕事だと思っていて、そのために必要なプロセスです。

──パートナーの関係強化もさらなる成長には重要だというコメントもキーノートではありました。パートナーはネットスイート製品のどんなビジネスで儲けられるのでしょうか。

マッギーバー 導入サービスの提供でも儲かりますが、一番儲かるのはライセンスの再販です。パートナーの利幅も過去の自社の水準や競合のプログラムと比べてずっと高くなっています。サブスクリプションで提供する製品で、ビジネスモデルはストック型になりますから、パートナーにとっては市場の浮き沈みがあっても安定した収益を確保する助けになります。ネットスイートの価値に対する理解度に応じて、仕事がたくさんあるパートナーと全然ないパートナーに二極化している状況もみられますね。

──オラクルによる買収後、売上高や営業利益などの数字は出せなくなりましたが、順調に成長しているという手ごたえはありますか。

マッギーバー あります。確かに数字は出せませんが、17年と比べて18年のほうが大きく成長しましたし、19年は18年よりさらに大きく伸びる計画で、成長が加速しているのは間違いありません。

 

EVPインタビュー
エバン・ゴールドバーグ
汎用のAIエンジンをつくるつもりはない
細業種のノウハウを生かしてUXを向上

使う度に使いやすくなるERP


──あなたのキーノートでは、AIをERPに組み込む「Intelligent Suite」構想が新たに発表されました。いまや業務アプリケーションとAIの組み合わせはトレンドともいえますが、ネットスイートのAIへのアプローチの特徴とは何でしょうか。

ゴールドバーグ 私たちは汎用のAIエンジンをつくるつもりはありません。毎日ネットスイート製品を使うなかでインサイトを提供するためにAIを使うということです。あなたと似た役職の人がどんなKPIを使って業務をマネジメントしているのかを分析したうえで、こんなKPIも使えるのではという提案をしたりとか、データを入力するときにより効率的に入力できるようにフォームの配置を常に最適化するとか。ネットスイートを使うたびにどんどん使いやすくなっていくというイメージです。

 当社のEコマース構築パッケージ「Suite Commerce」でのAI活用例もデモでお見せしましたが、リテールの領域では、米国に限らず欧州、豪州などでもアマゾンの存在は大きくなっていて、アマゾンをどう活用するのか、あるいはしないのか、「アマゾン戦略」を考えなければならなくなっています。しかし、アマゾンが常に最高の顧客体験を提供できているかというと、そういうわけでもない。何らかのかたちでリテールビジネスを手がける企業が自社のECサイトから顧客に直接アプローチした際に、質の高い顧客体験を実現できる仕組みをネットスイートは整えていて、具体的な機能も揃ってきています。ここにAIも活用しています。ネットスイートは蓄積してきた細業種のノウハウもそこに生かすことが可能で、パッケージとしての完成度が高い製品を提供できます。
 

グローバル事業で統合の成果


──オラクルとの統合では、海外展開で効果があったとキーノートでありました。

ゴールドバーグ 例えば、ネットスイートは日本向けのローカライズを10年以上前にして、すごくいいお客様もできたのですが、ビジネスの拡張という意味ではかなり苦労しました。一方で、オラクルの市場開拓の戦略にはすぐれたものがあり、リソースも豊富です。ネットスイートはこれからその力を活用することができるようになり、すでに各地で成果が出始めているということです。

──ネットスイートの人事管理モジュールとオラクルのタレントマネジメント製品「Taleo」を連携させるなど、オラクルのインフラ、プラットフォーム技術の採用を進めているだけでなく、アプリケーションレベルでもオラクル製品と連携し始めているという話もありました。オラクルとの技術面での融合についてはどのような見通しでしょうか。

ゴールドバーグ ネットスイートは顧客のビジネスを動かす単一のシステムをクラウドで提供するという哲学をもっていますが、それは変わりません。ですから、オラクル製品との連携ソリューションは数をそれほど増やそうとは思っていません。年に三つくらいがいいところでしょう。ネットスイートのUXへの影響を最大限考慮したうえで検討します。