NTT東日本グループと農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、「遠隔営農支援プロジェクト」を始めると6月6日に発表した。農研機構の専門家がオンラインで農家の作付けを支援するほか、病害虫の対策などを指導する。システム構築はNTT東日本グループでITを駆使した営農支援を手がけるNTTアグリテクノロジーが主に担う。第1弾の取り組みとして秋田県大潟村の農場「みらい共創ファーム秋田」のタマネギ畑で実証を行う。
左からNTTアグリテクノロジーの酒井大雅社長、
NTT東日本の澁谷直樹社長、農研機構の久間和生理事長、
みらい共創ファーム秋田の涌井徹社長
大潟村を実証の場に選んだ背景には、国内のタマネギ出荷が7月から8月にかけて端境期となっており、東北の気候がこの端境期を埋めるのに適していることが挙げられる。他の産地との出荷時期をずらすことで価格の下落を避けられる可能性が高い。しかし、同地域ではタマネギ生産の経験があまりなく、「専門家からの支援を必要としている」(みらい共創ファーム秋田の涌井徹社長)ことから、今回の遠隔営農支援プロジェクトの実証地に名乗りを上げた。
同プロジェクトでは、タマネギ畑に各種センサーを設置し、日照時間や気温、映像による生育の状況をオンラインで農研機構の専門家が分析できる仕組みを開発。万が一、病気や害虫が発生した際の対処法や、有効な農薬の選定も専門的な見地から助言する。農研機構が運用する農業データ連携基盤「WAGRI」も参照しつつ、次の段階ではAIを駆使して栽培計画や病害虫の防除計画、市場動向の予測を踏まえた出荷計画などを「生産者に自動的に提示する仕組みも視野に入れる」(農研機構の久間和生・理事長)としている。
課題はNTT東日本グループの収益モデルをどのように確立するかにある。ITシステムを担うNTTアグリテクノロジーの酒井大雅社長は「今回のプロジェクトで投資対効果がどのくらいあり、その対価をいくらいただけるのかも含めて検証する」と話す。投資対効果を高めるため、農産物の端境期を狙った作付けや、品質や生産量のバラツキが大きくなりがちな露地栽培に焦点を当てて、徹底的なデータに基づく農業で生産効率を高める。さらには「集荷から流通、消費までのサプライチェーン全体の収益力を高める仕組みづくり」(酒井社長)など、農業を軸に地域全体での価値創出を目指すとともに、遠隔営農支援を必要とする全国の農家への横展開も進める。
NTT東日本の澁谷直樹社長は、「遠隔営農支援の仕組みによって若い人が農業に夢をもって参加することが重要なテーマ」と指摘。農業従事者数が2000年の389万人から22年には123万人へと過去20年余りで7割近く減少している実態を踏まえ、通信ネットワークやデータ分析による支援で若者の農業参入のハードルを下げ、稼げる農業への変革にビジネスチャンスを見いだす。
(安藤章司)