【米ラスベガス発】米Oracle（オラクル）は、米国時間の10月14～16日にラスベガスで開催されたプライベートカンファレンス「Oracle AI World 2025」で、GPUクラウド基盤や法人におけるAI活用を支援するプラットフォーム、AI技術で強化したデータベース製品などを発表し、社会のAI利用を支える企業としての存在感を示した。AIに関連する幅広い領域で新たな取り組みを推し進め、AIによる社会変革を実現する構えだ。

　初日の基調講演にオンライン形式で臨んだラリー・エリソン会長兼CTOは「私たちはAI技術を駆使して、さまざまな産業・エコシステムにおける課題を解決する担い手だ」と語った。個別の業界や産業セクターにとどまらず、それに関係する多様なプレイヤーを含めた環境全体をAIの力で改善する。それがオラクルの目標であるということだ。
 

16ゼタFLOPSのスーパークラスター

　AI開発向けスーパーコンピューターにおいては「Oracle Cloud Infrastructure Zettascale10」の開発が明らかになった。数十万台規模で、米NVIDIA（エヌビディア）製のGPUを複数のデータセンター間で相互接続し、マルチギガワット級のクラスターを構成。ピーク性能で最大16ゼタFLOPS（ゼタは10の21乗）に及ぶという。

　Zettascale10は米OpenAI（オープンエーアイ）などと進める「Stargate」プロジェクトの一環として、米テキサス州・アビリーンで構築中のスーパークラスターデータセンターを支える基盤技術となる。同じくAI Worldで紹介されたネットワーク高速化技術「Oracle Acceleron」を用いたRoCEネットワーキング・アーキテクチャーとエヌビディアのAIインフラによって、これまでにない大規模かつ、クラスター全体での極めて低いGPU間レイテンシーを実現する。エリソン会長の講演によると、アビリーンのデータセンターはすでに一部が稼働中で、完全稼働時には45万基以上の「NVIDIA GB200」を搭載する予定だ。

AMDとの協業拡大

　基調講演で直接言及する場面はなかったが、期間中に注目を集めた発表として、米AMD（アドバンスト・マイクロ・デバイセズ）との協業拡大がある。AMDのGPU「Instinct MI450」を搭載したスーパークラスターを構築する計画で、2026年第3四半期に5万基の初期導入を開始し、27年以降に拡張を予定する。
 

Oracle DBもAIで強化

　データベース関連では、最新バージョンの「Oracle AI Database 26ai」のリリースがアナウンスされた。新たに「AI」の名が加わったことからも分かる通り、AIを中核に据えたデータベースとなり、AIベクトル検索やデータベース管理、データ開発、アプリケーション開発、分析といったあらゆるプロセスにAIを組み込んでいる。従来のバージョンである「Oracle Database 23ai」からアップデートのみで利用可能となる。

　AIベクトル検索とリレーショナル、テキスト、JSON、ナレッジグラフ、空間検索を掛け合わせ、関連するドキュメント、画像、動画、音声、構造化データの取得を可能にする。LLM（大規模言語モデル）によって、データベースが保有するデータを推論に利用できるようになり、ユーザーのプライベートデータと公開データを組み合わせ、より精度の高い回答を生み出せる。
　
　AIエージェントをデータベースに直接組み込むアーキテクチャーも導入された。その技術の一つである「SQLcl MCP Server」はMCPサーバーをサポートし、自然言語の指示によって、AIがSQLを操作し、回答を出力する。SQLcl MCP Serverは23aiのさらに前のバージョンである19cでも利用可能としている。

　データを活用した開発の支援機能も盛り込まれた。AIアシスタントに対して、自然言語で必要な内容を伝えるだけでスキーマが生成される。26aiにはテーブルやカラム、プロシージャの持つ「意味」を付与するアノテーション機能も備わっており、AIはスキーマの意図を明確に理解できる。こちらも19cでサポートしている。
　
　エリソン会長は、一般的なAIモデルはインターネット上の公開データで訓練されているが、進化を発揮するにはプライベートなデータが必須であると指摘。「世界における価値の高いデータの大半がOracle Databaseに存在する」ことから、AI活用について「オラクルは重要な役割を果たす」と強調した。

AI・データ活用の新プラットフォームを発表

　AIとデータの利用をさらに促す存在として期待されるのが「Oracle AI Data Platform」である。OCIと「Oracle Autonomous AI Database」「OCI Generative AI」サービスを連携させ、多様な種類の生成AIモデル、プライベートデータ、アプリケーション、ワークフローをセキュアに接続する。データの取り込みから意味付け、ベクトルインデックスの作成といった一連の工程を包括的に実行でき、ユーザーは単一の画面で運用・管理を行える。

　データの処理にはメダリオンアーキテクチャーを採用し、生データの取り込みから、標準化を経て、本番活用に耐えるデータへと段階的に処理し、データの価値を高める。統合カタログがデータやAIアセットをメタデータレベルで一元的に管理し、セキュリティー、ガバナンス、リネージを担保する。
　
　既存の「Oracle  Autonomous Data Warehouse」を機能拡張した「Oracle Autonomous AI Lakehouse」を通じて、オープンスタンダードである「Apache Iceberg」をネイティブサポートしており、OCI以外のクラウドやデータレイク、データウェアハウスにあるデータをAIで活用しやすくなる。

Fusionにマーケットプレイス導入

　「Oracle Fusion Cloud Applications」には新たなAIエージェントが多数導入されたほか、ユーザーやパートナーがAIエージェントを開発できる「AI Agent Studio」にマーケットプレイス機能が設けられた。SIerやISVといったパートナーが自身で作成したAIエージェントを、マーケットプレイスを通じて販売できる。

エリソン会長「世界は良くなる」

　エリソン会長の講演では、オラクルの製品・ビジネス戦略に関する話題以上に、AIが社会にもたらすであろうインパクトや、その結果として到来する未来についてのトピックに割かれる時間が多かった。エリソン会長は「AIは驚異的なツールであり、あらゆる分野で人間の能力を飛躍的に向上させる。このツールが持つ圧倒的な力で、世界は格段に良くなるはずだ」と見通す。
　
　今回のカンファレンスは昨年までの「Cloud World」から「AI World」へと名称が変更されている。BtoBのIT構造を大きく変えたクラウドから、世界を変えるAIへ。新たな時代の到来を宣言したカンファレンスとなったようだ。（藤岡 堯）