【米ラスベガス発】米ラスベガスで9月9~12日(現地時間)に開催された米Oracle(オラクル)の年次カンファレンス「Oracle CloudWorld 2024」では、幅広い領域の最新ソリューションや今後の戦略が示された。クラウド関係では、デプロイの方法や場所に関係なく、同一のクラウドサービスを提供する「分散クラウド」への注力姿勢が鮮明となり、マルチクラウド、専用リージョン、ソブリンクラウドなど顧客の選択肢を多様化する新たなクラウドのかたちを発信した。クラウドをめぐる状況は、次のフェーズへと進みつつある。
(取材・文/藤岡 堯)
「優雅に連携」する世界
「オープン・マルチクラウド時代の始まり」
9月10日、基調講演に臨んだオラクルのラリー・エリソン会長兼CTOは、これからのクラウドのあり方をこう表現した。実際、CloudWorldの会期中には、ハイパースケーラー3社との協業に関するプレスリリースが立て続けに公開された。
基調講演で対談するオラクルのラリー・エリソン会長兼CTO(左)とAWSのマット・ガーマンCEO
米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)とは戦略的パートナーシップに基づく「Oracle Database@AWS」を発表。米Microsoft(マイクロソフト)については、現在6リージョンで稼働する「Oracle Database@Azure」を、日本を含む新たな15リージョンでも間もなく提供開始することが決まり、米Google(グーグル)との「Oracle Database@Google Cloud」では、米国、英国、ドイツの計4リージョンでの一般提供開始がアナウンスされている。
オープン・マルチクラウドの時代とは何を意味するのか。エリソン会長が引き合いに出したのは、かつてのオラクル製品の特徴だった、ITインフラに対する「オープン性」だ。
「『Oracle Database』は、あらゆる種類のコンピューター上で動作した。IBMのメインフレームでも、ヒューレット・パッカードのPCでも動いた。何十年もの間、私たちはさまざまな種類のコンピューター、さまざまなオペレーティング・システム上で動き、さまざまなアプリケーションと共存していた」
クラウドが浸透する以前は、顧客はハードウェア、OS、データベース(DB)、アプリケーションを自由に組み合わせて使うことができた。つまり多様な選択肢を持てたと言える。しかし、クラウドの時代では特定の基盤を選び、その上でサービスを選択する流れが一般的である。顧客には最新のテクノロジーをはじめとして多大なメリットがもたらされたものの「さまざまな企業を利用し、優雅に連携して機能するという考えを失った」(エリソン会長)という。
エリソン会長は一つの例を挙げる。「Oracle Exadata」とそれに付随するアプリケーションをオンプレミスからAWSへと移行したい顧客がいる。ただ、AWS上で動かせないExadataは「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)で利用し、AWSとOCIをネットワーク経由で接続して運用することになる。しかし、これは理想的な解決策ではない。レイテンシーやパフォーマンスの問題があり、「優雅に連携」しているとは言えないからだ。
この問題を解決するのが「Oracle Database@AWS」であり、マイクロソフトやグーグルと提供する同様のソリューションである。エリソン会長が「AWSの中にオラクルのクラウドデータセンターを組み込む」と説明するように、他社のクラウドにOCIを内包させることで、パフォーマンスの向上、帯域幅の拡大、より低いレイテンシーなどが期待できる。ユーザー側は慣れ親しんだクラウドのコンソールを利用できるので、操作性の面でのメリットもある。
同じ基調講演に登壇したAWSのマット・ガーマンCEOは、AWSのスケーラビリティーやセキュリティーを気に入っているAWSユーザーでも、ミッションクリティカルなワークロードはオラクルのソリューション上で走らせているケースがあると紹介。一方でこうした顧客は、ミッションクリティカルなワークロードを、アプリケーションのあるAWS内で稼働させたいとも考えており、「AかBをどう選べばいいか悩み、AもBも選びたい」様子だと表現する。だからこそ、今回の協業は「AもBも選びたい」顧客のためになると期待を寄せた。
「壁に囲まれた庭」ではない
この期待はマイクロソフト、グーグルの両社も同じだろう。別の講演では、マイクロソフトからブレット・タンザー・バイスプレジデント(VP)、Google Cloudからアンディ・ガトマンズ・VP兼ゼネラルマネジャー(GM)が登場し、今後の展望を語った。
タンザーVPは、今後Oracle Database@Azure上での提供を予定するデータレプリケーションツールの「OCI GoldenGate」と、データプラットフォームの「Microsoft Fabric」の連携デモなどを実演した上で「私たちはまだ始まったばかりだ」と述べ、さらなる発展に意欲をみせた。
ガトマンズVP兼GMは「オラクルのDBとの低レイテンシーによる相互接続によって、データとAIを統合し、革新を実現できる」とアピール。オラクルのDBと生成AIの「Gemini」、そして「Google Maps」のAPIを組み合わせた検索システムのデモを通じて活用例を示し「それぞれの長所をどう生かすかを考えると、これまで潜在的にあった膨大な可能性が解き放たれることになる。未来はここにある」と呼び掛けた。
「クラウドはオープンになりつつあり、もはや壁に囲まれた庭(クローズドなプラットフォーム)ではなく、顧客は選択肢として複数のクラウドを共に使える」(エリソン会長)。クラウド間の壁が取り払われ、ユーザーはさまざまなクラウドのサービスを融合させて、ビジネス成長に役立てる時代が近づいているようだ。
3ラックでユーザー専用リージョン
クラウドベンダー間の壁が薄れていく一方で、データを取り囲む壁はより強固にしたいというニーズが高まっている。データの所有者が、自国の規制や法律などに準拠したかたちで、自国内でデータを保有・管理し、自身の制御下にデータを置く──。この「データ主権」の潮流はとどまることはないだろう。
3ラックで専用リージョンの導入が可能となった「Dedicated Region25」
CloudWorldでは、データ主権に対応するソリューションも数多く打ち出された。その一つがOCIの顧客専用リージョンを提供する「OCI Dedicated Region」の新構成「Dedicated Region25」である。
Dedicated Regionは、顧客のデータセンター(DC)にOCIと同等の環境を設置し、オラクルによるフルマネージドサービスを受けながら、顧客が専用リージョンとして活用できる仕組みで、従来の最小構成は12ラックからだったが、4分の1の小規模で導入可能となった。設置面積はこれまでより75%小さく、OCIが有する150以上のAI・クラウドサービスをサポートする。2025年中の提供開始を予定している。
必要なリソース量に応じて拡張することが可能で、中規模の拡張キットで64ラックまで対応する。さらに望むユーザーに対しては、パブリックリージョンと同等の数千ラック規模にまで増強できるという。
11日の基調講演でクレイ・マグワイク・OCI開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)は「これまで不可能だった場所でもクラウドを提供できるようになった」と意義を強調。柔軟なサイジングが実現されたことで、専用リージョンを取り入れるハードルはより低くなる。政府機関や自治体、グローバルに展開する大企業などにとっては、国や地域のデータに関する規制を順守しながら、クラウドの恩恵を得ることが、より容易になるというわけだ。
このデータ主権の流れに商機を見出している1社が富士通だ。富士通はDedicated Regionと同等のサービスに加え、運用も顧客側で実行できる「Oracle Alloy」をベースとしたソブリンクラウドの提供を25年4月に予定する。オラクルと協力して、ソブリンに必要と考えられる106の要件に対応できるよう整備し、運用コンサルティングサービスやクラウド環境の運用支援サービス「Fujitsu Cloud Managed Service」(FCMS)を組み合わせ、富士通のDCから提供する。
マグワイクEVPの基調講演にスピーカーとして招かれた富士通の古賀一司・執行役員SEVPシステムプラットフォームは、日本でのクラウドに関するニーズとして、最新の技術を駆使しつつ、運用の透明性を担保し、なおかつデータの制御も顧客側で可能となることを挙げた。オラクル以外のハイパースケーラーではこの要素を満たすことが難しいとも指摘し、Alloyによる富士通のサービスはニーズをすべて満たせるとした。
将来的には日本だけでなくグローバルにサービスを広げたい考えで、ソブリン以外のパブリッククラウドなども含め、一元的にクラウド運用を最適化できるFCMSで差別化を図るほか、データ主権要件に対応する「ソブリンAI」を実現するために、富士通のAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」との連携も進める方針だ。
マグワイクEVPは「私たちは顧客が必要とする場所でクラウドが利用できるように日々取り組んでいる」と話し、Dedicated RegionやAlloyによって設けられるリージョン数がパブリッククラウドのリージョン数に並ぶと見通す。場所や規模を問わないリージョンの拡大は、マルチクラウドの強化と合わせ、クラウドが真にユビキタス(いつでも、どこでも、誰でも)な存在へと進化し、顧客の選択肢を拡張する大きな技術革新となりそうだ。
パートナー拡大に期待
オラクルと競合クラウドの協業深化は国内にも大きな影響をもたらすと見込まれる。国内ではグローバルと同様にAWSのシェアが大きく、それゆえにAWSを取り扱うパートナーも多い。この構図に変化は生まれるのだろうか。
日本オラクル 三澤智光 社長
CloudWorldに参加した日本オラクルの三澤智光社長は、AWSを得意とする多くのクラウドインテグレーターなどは、オラクルが強みとするミッションクリティカルなワークロードの領域には不慣れとみる一方で「ミッションクリティカルなワークロードのクラウド化が止まらず、専用クラウドの話も出てくれば、(OCIに)取り組んだほうが会社を大きくできるのではないか」と話し、パートナーの拡大に期待を寄せる。
加えて、競合クラウドと比較して、オラクルのDBサービスの持つ優位性に気づき、競合のクラウド基盤を扱うパートナーでも、DBサービスではオラクルを選択する可能性もあると見込んだ。
分散クラウドについては「完全に(パブリックリージョンと)同じものが独立して存在できる点が(競合と)大きく違う」と説明。例えば「AWS Outposts」や「Azure Stack」は、パブリックリージョンへの接続が必須であり、利用できる機能も限定される。データ主権やコンプライアンス、ミッションクリティカルなワークロードへの対応を考えた場合の選択肢としては、オラクルの分散クラウドが有効との見方を示した。