水野博之 大阪電気通信大学 副学長

 腹も一杯、気分も一杯になったところで一眠りするか、とエレベーターに乗ったところ、途中でパッと電気が消えた。「アレ?」と思ううちにスーッとエレベーターが止まった。真っ暗ななかでエレベーターのなかには女房と2人だけだ。女房が「ヒッ」といってしがみついてきた。「何とかしてよ。大丈夫?」という。「エマージェンシー」を押しても返事がない。「何とかしろ」といわれても、上のハッチを開けてロープ伝いになんてのは映画の世界の話だ。とても現実には向かぬ。400万台をくぐり抜けた強者も「ウーン」とうなるばかりだ。

 映画の場面は思い浮かぶが、どうもねぇ。きわめて無責任にできている。かつて見た映画でサイゴンの街をバックに英仏日の大スパイ合戦というのがあったが、スパイをしに来たわけではない。ビールを飲みに来ただけだ。スパイの主人公になんかされてはたまったものではない。ドンドン、と壁をたたいてみたら静かななかでドンドンと返ってきた。「ハハァ、ほかにもとじ込められているな」と分かるが、分かったとてどうなることでもない。むこうも映画の主人公にはとても向かない連中らしく、太鼓のようにたたきかえしているだけ。お互いに芸のないことである。

 そろそろ手が痛くなった頃に、パッと電気がついた。電気がつくとエレベーターが動き出した。この間、約1分間位だったろうが、われわれには10分にも20分にも感じられた。エレベーターが8階にたどりついたときは、またドッと汗が出た。これは冷や汗である。部屋に帰ってフロントに電話すると、「時々あるんですわ」という返事であった。「時々ねぇ」と納得せざるを得ないところがこの国にはあって、「ヤレヤレ」で終わりである。仏教を信じる人が80%、キリスト教15%、その他5%。国花は蓮の花。これで私のベトナム報告終わりっ!!(関西空港にて)