コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第11回 愛知県(上)

2003/01/20 20:29

週刊BCN 2003年01月20日vol.974掲載

 愛知県は、県内87市町村からシステム共同利用の「内諾書」を昨年11月末までに取り付けた。現在、総務省が進める電子申請システムの共同利用を、いち早く実践したもので、実現すれば全国に先駆けての成功事例になる見通し。一方、愛知県では、県庁内で使う情報システムの改革にも力を入れており、従来のホストコンピュータの在り方を変える方針を打ち出す。(安藤章司)

電子申請システムの共同利用で同意 名古屋市除く県内全87市町村

■総務省と歩調合わせ共同利用を推進、全国の“叩き台”に

 愛知県内には、現在88の市町村がある。このうち、愛知県唯一の政令指定都市である名古屋市を除くすべての市町村が、愛知県が推進する電子申請システムの共同利用に関して、文書で“同意”を示した。

  今年度末を目途に、「愛知県・県内市町村情報化協議会」(仮称)を正式に立ち上げ、共同利用に向けたシステム開発に着手する。将来的には、電子申請だけでなく、電子調達の部分でも共同利用化できないか検討を進める。

 県によっては、市町村への事前説明や調整が上手く進まず、「共同利用に参加してくれる市町村の数が、県内全域の半分も揃わない」、あるいは「市町村の参加が間に合わない場合は、最悪、県単独でも共同利用のシステムを立ち上げる」と焦る担当者もいるほどだ。県単独や少数市町村での利用では、共同利用によるコスト削減の効果は、それほど大きいとは言えない。

 この難関を乗り越えて、愛知県が市町村の内諾を順調に取り付けられた背景には、まず第1に、取り組み始めた時期が早かったことが挙げられる。県では2001年8月に、「愛知県・県内市町村情報主管課連絡会議」を発足し、翌9月に第1回の会合を始めた。この会議が、今春に発足する電子申請システム共同利用の推進組織「愛知県・県内市町村情報化協議会」の母体となっている。

 愛知県の大野明彦・企画振興部情報企画課主幹(情報企画・産業グループ)は、「総務省とは、常に歩調を合わせて共同利用を企画・推進してきた。01年9月の第1回会合から、協議会の設置に至るまでの愛知県の行動は、総務省が共同利用を全国的に推し進めるうえで、とても参考になったに違いない」と、総務省の共同利用方針は、愛知県の実績が“叩き台”になっていると言わんばかりに胸を張る。

 電子申請などの共同利用システムは、03年度から本格的な開発に着手する。開発に当たっては、愛知県および県内市町村が情報システムや情報ネットワークを整備・運営するためのデータセンター「あいち自治体データセンター」(仮称)を新たにつくる。

 同センターは03年度から立ち上げ、04年度以降、電子申請システムの運用開始と同時に本格稼働する。データセンターの運営を受託した企業は、システムの運用・改修、各市町村に対するASP(アプリケーションの期間貸し)サービス、データのバックアップ、セキュリティの確保などの業務を請け負う。

 このシステムは、“平成の大合併”にも耐えられるものに仕上げる。大野主幹は、「仮に現在の県内87市町村が、合併で30市町村に減ったとしても、何らシステムに変更なくして、共同利用が継続できるようにする」と意気込む。

 愛知県においても合併の荒波は吹き荒れるものの、名古屋市に次ぐ中核都市である一宮市、岡崎市、豊橋市が、それぞれ県内の離れた場所にある上、その他の隣接町村とどう組み合わさっても、政令市の最低条件である人口70万人を超える大合併は、実現しないだろうと言われる。ならば合併の動きとは別に、共同利用を進めた方が効率が良い。

■庁内の業務改革を本格化、アウトソーシングを徹底活用

 今回の共同利用がいわば“外向き”のシステムだとすれば、文書管理や財務会計など、庁内の内部システムを支えるのが基幹系システムだ。愛知県は、市町村から共同利用の内諾を取り付け終えたほぼ同時期に、「内部管理業務プロセス改革プラン」を策定した。

 同改革プランは、すでに実証実験段階に入っている庁内の電子文書管理などの新しいITシステムを駆使し、事務処理を大幅に軽減しようという狙い。組織的には、中間事務処理や上部機関の形式的関与の廃止など、権限委譲と主管課集中を促進し、情報発生部門でデータをパソコンに入力するなど事務処理の効率化も図る。

 さらに、06年度を目途に、愛知県内の間接業務をアウトソーシング化する「総務事務センター」(仮称)を開設する。外部へ一括してアウトソーシングすることで、コスト削減を目指す。

 同改革プランは、03年度から権限委譲と主管課集中の事務処理見直しを進めると同時に、関連する情報システムの開発を05年度末までの3年間で完了する。その上で、06年度を目途に「総務事務センター」を設置し、アウトソーシング化に乗り出す。

 03年度から10年度までの8年間で、同改革プランよる投資対効果を愛知県では以下のように見積もる。内部管理業務を効率化、アウトソーシングするITシステムの構築に13億円、同システムの運用経費に12億円、アウトソーシング先の「総務事務センター」の運用経費に15億円で、合計40億円投資する。一方、これによる人員削減効果が1人あたり年間1000万円と算出して総額160億円が得られるという。差し引きコスト削減効果は120億円に達する。

 大野主幹は、「これだけ大規模な内部管理業務プロセスの改革を実施すると、当然、これまでのホストコンピュータの在り方も変わってくる」と予測する。『総務事務センター』では、給与、旅費関係の事務のほか、福利厚生、文書管理、職員支援事務などのアウトソーシングを受け持つ。これらのシステムの多くは、従来、庁内のホストコンピュータで処理してきたものだ。

 申請・調達など情報系システムのアウトソーシング先である「あいち自治体データセンター」、給与など基幹系システムのアウトソーシングを受け持つ「総務事務センター」など、いずれも愛知県のアウトソーシングに対する積極的な取り組みを象徴する事例だと言える。


◆地場システム販社の自治体戦略

日立製作所中部支社

■新規案件を狙い目に、先行ベンダー追撃

 愛知県のIT関連予算は、既存システム部分の改修や維持で年間26億円前後で推移してきた。今年度の予算は、これに電子自治体や電子県庁に関連する新規開発分が約6億円上積みされ、合計30億円強の計画。2003年度以降は、電子申請の共同利用、事務処理の改善、および双方のアウトソーシング化など、新規開発案件が目白押しのため、予算額は40億円規模で推移するとみられている。

 大手システムベンダー各社は、この巨額のIT投資を受注するために、激しい競争を展開する。日立製作所中部支社でも、競合のNECや富士通を押しのけ受注を得ようと必死だ。

 中部支社で自治体を担当する迫宣人・公共情報システム営業部長は、「残念ながら現段階では、日立は中部地区での自治体シェアが競合に比べ低い。しかし、愛知県はベンダー色が薄い自治体として有名で、実績がさほどなくても新規のベンダーが食い込みやすい。折しも、情報系システムの共同利用や事務処理のアウトソーシング化などの新規案件が立て続けにあり、中部支社を挙げて何としてでも受注したい」と強い意欲を示す。

 現在、愛知県のホストコンピュータは、IBMと富士通製が中心。だが今後、アウトソーシング化の動きに合わせて、ホストの位置付けも大きく変化するのは必至で、受注の主役が入れ替わる可能性も十分ある。
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