コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第12回 愛知県(下)

2003/01/27 20:29

週刊BCN 2003年01月27日vol.975掲載

 愛知県名古屋市は、自動車工業を基盤としたIT産業の育成に本腰を入れる。来年10月には、名古屋市を会場として、ITS(高度道路交通システム)の国際見本市「ITS世界会議愛知・名古屋2004」を開くのに続き、05年には2005年日本国際博覧会(愛知万博)を開く。愛知万博では、ITS関連の展示が増える見通しで、同地域が得意とする自動車産業の技術をもとにして、次世代のIT産業の振興に弾みをつける。(安藤章司)

ITSの国際見本市を機に中部のIT産業に弾み 自動車産業の技術を活用

新興IT産業の創出に“出会いの場”を提供

 新興のIT産業が東京・大阪で広がりを見せるのに対し、真ん中に挟まれた愛知県など中部経済圏のIT産業は、いまひとつ盛り上がりに欠ける。新興IT産業が立ち後れたことに対して、経済産業省や愛知県、名古屋市などの自治体幹部は一様に苛立ちを見せる。

 田島雅敏・経済産業省中部経済産業局産業企画部情報政策課課長補佐は、「東京や大阪の下請けに甘んじている中小企業が多いのが実態。トヨタ自動車やブラザー工業など伝統的な大手はそれなりにITに取り組んでいるものの、そのほかの中小企業はいまひとつ反応が鈍い」との印象を受けるという。

 中部経産局では、企業や行政機関、大学関係者などを集めて、「名古屋デジタルビット懇話会」を定期的に開催し、中小企業を対象とした“出会いの場”を提供する。将来的には「協議会」に格上げし、組織化する計画はあるものの、「情報機器・電子機器といったデバイス部分では愛知県の強みを生かせるが、『情報サービス』の面では、依然として越えなければならない壁がある」(田島課長補佐)と、いま一歩及ばない。

 大野明彦・愛知県企画振興部情報企画課主幹は、「情報サービスを中心としたIT産業は東京に一極集中している。だが一方で、愛知県はトヨタ自動車を中心とした自動車関連の製造業が強い。それぞれの地域で、強い面とそうでない面があるのは仕方のないこと。愛知県とて、この地域に広く浸透した自動車産業を土壌として、次世代のIT産業の育成に力を入れる」と話す。

 愛知の製造業とIT産業との“接点”として注目が集まっているのがITS(高度道路交通システム)だ。来年10月に、第11回「ITS世界会議愛知・名古屋2004」を名古屋市で開く。このITS世界会議は、95年に横浜市で第2回会議を開いて以来、日本で開催されるのはほぼ10年ぶりとなる。出展ブース数は約600個、来場者1万人以上を見込む。地元経済界では、ITSを足がかりとして、製造業のIT化促進や新規IT産業の創出に期待が集まる。

 愛知県では、05年に中部国際空港が開港し、2005年日本国際博覧会(愛知万博)も開く。空港の情報・電気設備の主要商談はすでに終了した。基幹の制御システムは三菱グループが受注し、電算システムは富士通、ビル管理システムはNECがそれぞれ受注した。現在、土台となる埋め立て作業も一通り目途がつき、名古屋市の南約35キロ、伊勢湾東部(常滑沖)の海上に、巨大な埋め立て地の姿が見える。

 中部経産局の田島課長補佐は、「中部国際空港の主要な役割は航空貨物にある。電子機器など、小さくて付加価値の高い製品の輸出入に適している」と話す。愛知県の資料によれば、中部5県(愛知・岐阜・三重・静岡・長野)の航空貨物による輸出合計のうち、約6割が成田空港経由で輸出しており、地元の名古屋空港(小牧空港)経由は16%にとどまっている。

 小牧空港の貨物施設が狭いことや、運用時間が7-21時に限られていることから、成田空港や関西空港に貨物が流れている。総建設費7600億円と運用費の重い負担を除けば、24時間運用できる中部国際空港は利便性があり、地元産業にとって利益があると読む。

 空港の開港と同じ年(05年)の3月25日から9月25日まで185日間にわたって愛知万博が開催される。日立製作所は、大規模出展を計画、日立本社では数十億円規模の予算で愛知万博に臨む。日立製作所中部支社の迫宣人・公共情報システム営業部長は、「中部産業界のリーダーはトヨタ自動車と中部電力。そんななか、当社では愛知万博への大規模出展を通じて、中部経済に引き続き投資をするという意欲を改めて示す」と話す。

 NEC中部支社の諸井秋孝・中部支社長代理は、「愛知万博は、この地域の産業特性を反映し、ITS関連の展示が多くなる見通し。製造業を基盤とした愛知ならではのIT産業の在り方が、万博で見られる」と指摘する。NECでは、万博への具体的な参画予定はまだ決まっていないものの、「パソコン分野など、何らかの形で参画したい」という。

■電子自治体化で独自の道を歩む名古屋市

 名古屋市の電子自治体化の取り組みは、愛知県とは別に進める。愛知県では、県内88団体のうち名古屋市を除くすべての自治体から電子申請システムを共同利用する“確約”を取り付けた。

 だが、政令指定都市の名古屋市は、「ほかの市町村にはない区制がある」との理由から、単独で電子申請、調達のシステムを組み上げる。

 開発のスケジュールは、電子調達を来年度から開発に着手し、電子申請は再来年度から開発する。これらの受付システムを支える文書管理システムは、04年4月から稼働する計画で、すでに構築を始めた。

 また、アウトソーシング(外部委託)やオープンソース(ソフト設計図の開示)について、大岩敏彦・名古屋市総務局企画部情報化推進課主査は、「隣の岐阜県は大胆なアウトソーシングに踏み切ったが、名古屋市としては、情報システムのノウハウが役所内に残らないのは不安。しかし、SLA(サービスレベルの同意契約)を決めてアウトソースする流れは確実にあるわけで、この課題を名古屋市としてどう消化すべきか検討中」という。

 一方、「オープンソース化については、相手が国産ベンダーの場合は、取り立ててオープンソース化を迫る必要はない。海外ベンダーのパッケージが国産ベンダーのものより価格が“安い”からといって飛びつくと、ソフトの中身が分からず不安になる。開示を求めても“米国本社の意向”があり、やっかいな部分が残る。この点、国産ベンダーは、おそらく開示を“お願い”すれば応じてくれるはず」と話す。

 現在、名古屋市の住民基本情報や財務システムなどの基幹系システムは、NECのメインフレーム「エーコス」を使っている。

 名古屋市では「エーコスは独自OSで、オープン化の流れとは違うものの、世界標準のインターネットプロトコル(通信手順)を使ったデータの吐き出しや、ウェブ上のサービスに対応できたりと、今のところ不自由はまったくない。ホストの機構を変える計画はいまのところない」と話す。


◆地場システム販社の自治体戦略

トーテックアメニティ

■市町村合併には健全財政が難題

 「愛知県東部の三河地区には、トヨタ自動車の豊田市を筆頭に健全な財政基盤をもつ自治体が多い」と話すのは、愛知県の自治体動向に詳しい地元システム販社のトーテックアメニティの織田康宏・公共システム事業部第2公共営業部マネージャーだ。

 三河地区には、トヨタ関連の大手・中堅部品メーカーが多く、これら製造会社を抱える自治体のなかには、地方交付税交付金の不交付団体も多い。

 「自治体経営の観点から見れば喜ばしいことだが、愛知県内の“市町村合併の推進”という側面から見れば難題が多い」という。

 今の合併論議は、少子高齢化にともなう自治体の財政基盤の強化から始まっている。

 もともと財政基盤が強い自治体は、合併する必要に迫られておらず、消極的になりがちだからだ。

 愛知県内88団体(市町村)あるなかで、昨年末の段階で、合併に向けた法定協議会まで漕ぎ着けた団体はわずか2グループ。製造業が盛んで、財政的に余裕のある三河地区の中核的な市町の動向が、そうでない市町村の合併に大きな影響を与える。
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