OVER VIEW

<OVER VIEW>IT不況、米国業界はSMBに活路を Chapter3

2003/02/17 16:18

週刊BCN 2003年02月17日vol.978掲載

 IT不況の出口が見えない米国パソコン市場で、ノンブランドのホワイトボックスがデルに並ぶ巨大勢力となった。当初は高い利益率のためSIerが手掛けたホワイトボックスであるが、現在ではホワイトボックスが自社ITサービスの基盤となったと確信するSIer経営者が多い。ホワイトボックス・シェア上昇を睨んでデルに続いてHPも参入を試み始めた。しかし、SMB(中小企業)経営者マインドをつかみ、SMBのIT部門の役割も担うようになったSIer経営者は、デル、HPは脅威にならないと自社ビジネスへの自信を示す。(中野英嗣)

デルに並ぶ勢力に成長、ホワイトボックス

■ホワイトボックスの勢いとまらない米市場

 2000年秋口からのパソコン市場低迷で、特に米国SMB市場では、SIerや小規模ビルダー(組み立て業者)が組み立て、SIerブランドで販売されるホワイトボックスの人気が急上昇している。ホワイトボックスはデスクトップからインテルIAサーバー、最近ではノートパソコンでも注目されるようになった。

 米SIerが申告するベストセラー比率でホワイトボックスは40%台、サーバーは20%台、そしてノートパソコンも10%台となった(Figure13)。メーカーブランドとの比較でサーバーはコンパックを買収したHPが39%で、ホワイトボックス28%を大きく上回る。しかし、デスクトップではホワイトボックスが34%で、デル28%を上回る。またノートパソコンでもホワイトボックスは13%で、トップIBMの14%に迫りつつある(Figure14)。

■デルに続きHPもホワイトボックスへ参入か

 02年8月、デルは米国でホワイトボックス市場へ参入した。デルが提供するホワイトボックスはインテルセレロン、ペンティアム4ベースの2モデルで価格は499ドル(6万円弱)からだ。デルは自社ブランドを付けずに、ビルドtoオーダー(BTO)でSIer仕様に応じて組み立て出荷する。

 デルの出荷時にブランド「チャネル・パートナーズ・ソリューションズ」が貼られ、SIerはこれに自社ブランドを付けて2ブランドで販売できる。デルは当ホワイトボックスを小規模SIerを通じてSMBへ販売する。デルが規定する小規模SIerは従業員20人以下かつ、年商500万ドル(6億円)以下である。

 デルが当市場へ参入しても、これまでダイレクト販売中心で、セールスパートナーを排除してきたため、SIerのデルへの警戒は強く、デルのホワイトボックス販売は低迷している。米CRNのSIer調査でも「デルのホワイトボックス販売を検討したい」との回答は8%に過ぎない。デルはデスクトップに続き03年前半にはサーバーでもホワイトボックスを発売する予定だ。

 世界パソコン市場シェアでトップのデルと激しく争うHPもホワイトボックスへ参入する動きを見せる。HPはオーストラリア市場でSIer向けに低価格パソコンを投入し、ホワイトボックスのトライアルを開始した。米SMBユーザーの調査でもユーザーの選択するパソコンブランドでも、メーカーブランド品の比率が50%以下へ低下し、代わってホワイトボックスが30%台へと浮上している(Figure15)。

 このようにホワイトボックスの勢いが強くなる米国パソコン市場シェアでは、02年7―9月、トップデル28.8%に続いて、ホワイトボックスが28.0%と肩を並べるまでになって、HP18.7%とは大きく差を開いた(Figure16)。

 ホワイトボックスの人気がこれほど高まった理由は、利益率が高いからだ。米国SIerが申告する最も利益率の高いパソコン比率では、ホワイトボックスが50%近くとなり、22%のデル、17%HP/コンパックを圧倒する。このようにSMB市場でデルをも圧倒する勢いのホワイトボックス業界にデル、HPなどが参入するのは当然の動きだと多くの米アナリストは分析する。

■SMB経営者の信頼感を獲得して成功

 02年秋米国SIerでホワイトボックスを組み立てる比率はパソコンで57%、サーバーで48%となった(Figure17)。

 半数のSIerが組み立てを行っているのが米国市場だ。米国SMB経営者はパソコンの必要以上の技術革新は望まず、自社の要求するソリューションをタイムリーに提供するSIerとの絆を太くすることを望む。そのためITスタッフをもたないSMBは、SIerに自社IT部門の役割を担うことを期待する。

このようなSIerは、メーカーブランドより自社ブランドのサーバー、パソコンを使う方が自社のパーソナライズドサービスをSMBへ訴求しやすくなると考えそのため、ホワイトボックス販売に注目するようになった。当初はメーカー品より利益率が高いことだけを理由にホワイトボックス販売を手掛けたSIerも、現在は自社ITサービスを強くアピールできるホワイトボックスが自社ビジネスの基盤になったことを確信している(Figure18)。

 ホワイトボックスはSMB対象のSIerにとって、自社ITサービスを強化する基盤であると同時に、メーカーブランドを販売するメーカー直販部隊や大規模SIerとの競合においても、防御の役割を担ってくれる。メーカーブランドでは同一モデルでの価格競合も激しく逆ザヤを覚悟しなければならないケースも多い。また、価格競争ではメーカー直販に勝てない。

 しかし構成も未公開のホワイトボックスには、ブランド品も価格競合ができない。また、メーカー系列の大規模セールスパートナー企業は地元密着型が少なく、SMBの経営マインドも十分に把握していないところが多い。このようなメーカーブランドとの競合には、ホワイトボックスが最適のソリューションだと考える小規模SIer経営者は多い。

 従って現時点では高い利益率だけがホワイトボックスの大きな利点にはなっていないことに留意したい。従ってデルに続いてHPがホワイトボックス市場に参入しても、「大きな脅威にならない」と自信を語るSIer経営者は多い。例えばデルのホワイトボックスは2モデルに限定されており、その価格競合はブランド品と同じように激しくなるからだ。

 自らホワイトボックスも手掛ける米国第2位のディストリビュータ「テック・データ」のコンポーネントビジネス担当、リッチ・ペレイラ副社長は米国ホワイトボックス市場を分析して次のように語る。

 「今や米国パソコンではデルとホワイトボックスが2大勢力となり、デルはHPには勝てても、ホワイトボックスに勝てるとは保証できない。SMBはデルの低価格大量生産による価格破壊戦略と、SMB経営者の強い信頼感を獲得したSIerの競合と分析でき、土俵の異なる競争といえるかもしれないからだ。SIerは経営者の考えるソリューションを提供することで、大メーカーとは競合にならないと自信を深めた。有力メーカーがホワイトボックスに参入しても、SMBのIT部門となったSIerが了解しなければこれを納入することはできない。これがホワイトボックスが強い大きな理由だ」
  • 1