コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第18回 徳島県

2003/03/10 20:29

週刊BCN 2003年03月10日vol.981掲載

 ある大手ベンダーの四国支社(香川県高松市)の幹部によれば、「四国地域内における県同士のつながりは、それほど深くない」のだという。岡山県と香川県が瀬戸内海を挟んでネットワーク接続を行っているように、四国4県それぞれに地域情報化の思惑は異なる。徳島県の場合も同様だ。徳島県が掲げる地域情報化の中心はCATV網の整備。その目的は、高速インターネットサービスや双方向型行政サービスの実現のほかに、地上波放送のデジタル化に対応して、現在視聴可能な関西圏のテレビ放送の受信がある。(川井直樹)

情報インフラ構築にまずCATV網整備 地上波デジタル化にらみ、関西圏の放送を県内に配信

■中央センター新設して高速インターネット環境構築へ

 徳島県は、和歌山や大阪にある地上波放送の電波を視聴できる地域が多い。そのため、徳島県が情報通信基盤整備として掲げる「新世紀とくしまCATV網」は、2011年に地上波テレビがアナログ方式からデジタル方式へ完全移行するのにともない、県外の放送が受信できなくなることから、中央センターを設けて県外の放送を共同受信し、県内のCATVネットワークを通じて配信する。

 これをきっかけとして、県内のCATV網を使った高速インターネット環境を構築する計画だ。「関西のテレビ放送を楽しんでいる県民は多く、デジタル化でその放送が見られなくなる可能性が高い。県民の要望を考えたCATV網をまず構築しなければならない」(鳥養美文・徳島県県民環境部情報ネットワーク課課長補佐)。放送行政に県が関与できるわけではないために、県民の要望を汲んだ苦肉の策というわけだ。

 四国経済産業局がまとめた「四国情報化ガイドブック」によれば、徳島県内のCATVの世帯普及率は全国を1とした場合、1.24と高い。この数値は、高知県0.56、香川県0.73、愛媛県0.58と、他の四国の県に比べても群を抜いている。ちなみに、徳島県のブロードバンド世帯普及率は0.66である。それでも徳島県では、CATV網の整備のために来年度の予算のなかで2億円を計上し、CATV局の設置などを図っていく方針を立てている。

 これまで取材した各県では、自設や通信事業者のネットワークを借りる形で「情報スーパーハイウェイ」というような行政ネットワークを構築している。しかし、徳島県の場合、こうしたネットワークをいまだ整備していない。

 総合行政ネットワーク(LGWAN)については早急な基盤整備を図るために、四国電力子会社のSTNetのインフラを市町村のネットワークに活用することを決め、作業に着手した。しかし、このネットワークについてはLGWANだけを目的にしており、電子申請といった県内の行政情報ネットワークとしては活用しない方針で、今後、バックボーンとして民間通信事業者のネットワークの借り上げなど具体策を検討していくという。

 また、県の地域情報化施策のなかで、「民間事業者の回線借り上げなどの方法で県域ネットワークを構築するというのは、公共で民間の需要を喚起する目的もある」(向井義仁・徳島県県民環境部情報ネットワーク課係長)というように、IT環境の整備を産業振興に生かすことも目的の1つになる。

■電子県庁の構築着々、IT化戦略は毎年最新の計画を立案

 他県に比べて、ネットワークインフラ整備という点で徳島県の取り組みが遅れているというのは、地元や大手のシステムベンダーが一様に指摘するところ。その一方で、電子県庁の構築は着々と進んできた。

 CATV網の構築や情報インフラ整備、電子自治体の実現などを盛り込んだIT化戦略「徳島県ITプラン」は、2001年度に03年度を目指して最初の計画を策定したが、「毎年ローリングさせる計画で02年度は3年後を目標に、来年度もさらに3年後をメドにした計画を策定する」(鳥養課長補佐)というように、常に最新の計画を立てて実施している。

 04年度の導入を目指して、03年度には文書管理システムの検討を行う予定。すでに、富士通にコンサルティングを発注した。また、富士通製のメインフレームで運用している給与、財務、税務などの基幹システムのダウンサイジングも検討項目に挙げており、クライアント/サーバー(C/S)方式への移行を進めていくことも、電子県庁構築の1つと位置づけている。

 そのほか、03年度には情報ネットワーク課の所管事業として、認証基盤の構築、汎用電子申請システムの整備、県の各種業務のダウンサイジング、予算編成システムの開発などを予定。

 徳島県のこうした業務ごとのシステム構築は、徳島県外の有力システムインテグレータのターゲットにもなっているという。C/S化する給与システムの基本設計は、今年度初めに高知電子計算センターが落札した。

 徳島県や徳島市などのシステム運営にも関わっている地元システムインテグレータ、テック情報の村上弘和・取締役公共ソリューション本部長は、「まさか高知県の企業がリスクを負って出てくるとは思わなかった」と悔しがる。来年度の発注項目である給与システム開発に対しても、高知電算はすでに設計を獲得したため参加できないものの、応札額の設定など「非常に難しい面がある」と苦渋を漂わす。特に現在、メインフレームで運用している給与システムは同社が関わってきただけに、規模も大きくなるその開発を取りこぼすわけにはいかないからだ。

 村上取締役は、「地元システムインテグレータには市町村合併、電子自治体構築の需要でいろいろなベンダーからのアプローチがある」という。

  徳島県庁だけでなく、県内50市町村のうち12市町村で住民情報系のシステムを担当する有力システムインテグレータがないだけに、徳島県に足場がないベンダーもアライアンスという形で進出を狙う。同社は富士通系だが、ソフトに関しては自社開発を含め富士通以外のベンダーについても「検討できる」立場を生かすことも考えている。

 富士通系以外の有力なライバルは、高知市に本社があるNEC系の四国情報管理センター。ただ、同センターの中城幸三社長は、「徳島県の市町村合併の動きは注目だが、当社の顧客は合併統合される側が多い。これが市町村合併での事業拡大のネックだ」と、その対策に頭を痛めている様子。

 徳島県でも、IDCやASPの活用に向けての調査を行う考えはある。しかし、そのための情報インフラといった基盤づくりが遅れているのが実情。ASP活用を見据えた庁内のシステムづくりという点でも、C/S化はその一歩になる可能性は高いが、結果的に部門ごとにベンダーが変わるような形では統合したアウトソーシングは難しいだろう。

 その点では岐阜県などとは対照的な方法で電子県庁の構築を進めているといえる。


◆地場システム販社の自治体戦略

テック情報

■合併自治体向けウェブ対応システムで事業拡大狙う

 徳島市の北西、板野町の「ソフトパーク・いたの」にテック情報の本社がある。同社がこのソフトパークに移転してきたのは1999年10月。新社屋は、IDCを運営できる設備を備えている。もともと、地元テレビ局や新聞社、徳島県、徳島市などが出資して設立した徳島電子計算センターが旧社名だ。

 徳島県や徳島市のシステムのほかにも、県内自治体のシステム運営のほか、全国的には日本赤十字社の各病院システムを構築した実績がある。

 村上弘和・取締役公共ソリューション本部長は、市町村合併に関しても、「これまで当社で関わってきたシステム同士であっても、合併のIT統合となると費用も時間もかかる。新市のシステムとしてウェブ対応システムを構築した方が自治体のメリットは大きい」との方針で臨む考え。この方法ですでに、県内の合併予定の町村に対してアプローチしている。

 同社は31億円の売上高のうち、公共部門12億円、医療部門10億円、民間9億円とそれぞれのビジネスが拮抗している。しかし、「景気低迷で民間の需要が落ち、自治体向けのビジネスは来年度15億円というのが会社の方針」であり、県内の市町村合併での取りこぼしはできない。

 当然、徳島県だけでなく他の四国各県への進出も、「具体的に、今計画していることはない」とはしながらも、視野には入れていかなければならないという。データセンター運営のノウハウなど、富士通系企業と協力して事業の裾野を広げることも検討しているという。
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